10月3日にオンラインイベント<BIG ISSUE LIVE× ゼロハンガーチャレンジ#1「夜のパン屋さん1周年だヨ!全員集合」>が行われた。
ビッグイシューの「夜のパン屋さん」事業の中心メンバーで、料理研究家であり認定NPO法人ビックイシュー基金の共同代表を務める枝元なほみをはじめ、パン屋さんに軒先を貸してくださっている「かもめブックス」の書籍校閲専門会社「鷗来堂」社長の栁下恭平氏、ビッグイシュー販売者である浜岡さんが登壇し、司会を務めるビッグイシュー日本東京事務所の佐野未来が話を聞いた。


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この記事は、2021年10月3日にYouTubeで開催されたイベント<BIG ISSUE LIVE× ゼロハンガーチャレンジ#1「夜のパン屋さん1周年だヨ!全員集合」>のレポートです。
主催:ビッグイシュー日本

世界食糧デーにグランドオープン。「食を通じた仕事づくりを」

2020年春、ある寄付者から「寄付金が循環する仕組みを作ってほしい」という声を受けてこのプロジェクトは動き出した。「食を通じた新たな仕事づくり」を考えられないかと、枝元が中心となって「夜のパン屋さん」事業が始まったのだ。

料理研究家として『ビッグイシュー日本版』に“世界一あたたかい人生相談-幸せの人生レシピ”を連載する枝元は、認定NPO法人ビックイシュー基金の共同代表を務めると同時に、農業生産者の支援事業を行う「一般社団法人 チームむかご」の代表も務めている。そして自身が専門とする「食」にまつわる事業として、夜のパン屋さんを中心となって企画した。

「帯広にいる北村貴さん(*食のマーケティングやコンサルティングを手掛けている)に相談したところ、帯広で6店舗のパン屋を経営する満寿屋さんが、閉店時に残ってしまったパンを集めて夜に販売する店舗をオープンしたことを教えてもらいました。これはできるかもしれないと思い、それから直接社長にもお話を伺ったりしながら検討を進めていきました」と枝元。

夜のパン屋さんは、都内中心部の参加パン屋さんから閉店間際に売れ残りそうなパンを預かって、神楽坂にあるかもめブックスの軒先を借りた店舗で売り切るという取り組みで、2020年10月16日の世界食糧デーに合わせてグランドオープンした。パンのピックアップと販売をビッグイシューの販売者が中心的に担っている。

※世界食糧デー:飢餓や貧困、食料問題の解決を考えるために制定された日




「協力店を一から探さなければなりませんでした。パン屋さんに飛び込み営業を重ねる中、東日本橋の行列ができるパン屋さん、ビーバーブレッドの割田さんにご協力いただけることになり、そして販売場所に関する相談先として栁下さんまでご紹介していただけたんです」と枝元は当時を感慨深げに振り返る。

オリンピック後の困窮を見据えて

2020年にコロナ禍の中でオリンピックが開催されれば、その後の感染者増加などで経済が冷え込み、困窮する人や路上に出ざるを得なくなる人が増えることが予想された。また新型コロナウイルスの感染爆発が起これば路上販売もより厳しい状況に晒されるため、販売者に別の収入源を確保しておく必要がある。そういった意味で、このタイミングで夜のパン屋さんを始めた意義は大きかった。

「万が一パンが余ってしまっても食べることができる。とにかく、どうやって命を繋いでいくかということを考えていました」と佐野。

コロナ禍が長引き、2020年末から21年年明けにかけて都内で開催された炊き出しには多くの人が並んだ。NPO法人ビッグイシュー基金も協力して1月1日と3日に開催した「年越し大人食堂」には、元旦に270人、3日に318人と、前年の数倍にのぼる人が集まった。増えることを予想して“多め”に準備した400食の弁当があっという間になくなってしまい、夜のパン屋さんに協力してくれているパン屋さんに急遽60斤のパンを焼いてもらうなどして足りない分を補うことができたと佐野は言う。

「いろんな繋がりが、何かあったときの助けになることを実感しました。必要な食料を充足できただけでなく、外国出身で困窮して相談にいらした方にはご飯よりも食べやすいと喜んでいただくことができました」

販売者にもお客さんにも、いろいろな出会いがある

「神楽坂周辺には印刷や出版関係の会社が集まっています。そんな街から本屋さんがなくなってしまうのは寂しいと思ったんです」

こう話す栁下氏は、世界を放浪後に「株式会社鷗来堂」を創業し、2014年には当時神楽坂にあった文鳥堂書店の閉店をきっかけに、自身でかもめブックスを開店した。栁下氏が専門とする校正・校閲とは、書籍やSNSなどを通じ情報が世に出る前に間違いを正す仕事。文字の誤りだけでなく、方言やミステリー作品における描写の修正、レシピの表記をわかりやすくするなど、広い意味で「情報を誤解なく伝える」ことをミッションとする。その他にも2017年、出版業・執筆業を行う合同会社文鳥社を京都で設立したり、書店を始めたい人を支援する活動なども精力的に行っている。

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「書店を経営していると、通り1本違うだけでお客さんの層ががらりと変わることを感じるんです。(10月に期間限定の出店)代官山で夜のパン屋さんをやったらどういうかんじになるのか、楽しみですね」

神楽坂周辺はビジネスマンの多い坂下エリアと、かもめブックスがある坂上エリアに分かれるが、平日の坂上エリアには様々な住人が行き交う。コアメンバーとして夜のパン屋さん発足当初からパンのピックアップと販売を担う浜岡さんは、女性のお客さんが多く、中には出店するたびに通ってくれている方もいると話す。



「お客さんが『こんなところにパン屋さんがあるんだ!』と驚きとともに発見する様子を見て、ビッグイシューのことも知ってもらうチャンスだなと思っています。いろんなパン屋さんをもっと多くの人に知ってほしいですね」

こう語る浜岡さんであるが、実はもともとパン嫌い。夜のパン屋さんですっかりパンの虜になったというのも、続く協力店のメッセージ動画(記事末尾にリンク)をご覧になれば納得いただけるだろう。

ビーバーブレッド(東日本橋) 割田 健一氏
日本的な昔ながらのパンを今の時代に合わせてアレンジし、体にやさしい食材を使って焼き上げる、地元で人気のパン屋さん。

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「パンを通してお客さんと会話するのが自分の仕事ですが、いつもとはまた違う人たちと手を繋いで、自分が焼いたパンが(夜のパン屋さんを通じて)広がっていくこと、いろんな人たちと繋がりが増えていることが嬉しいです」と割田氏。

過去に枝元と仕事をしたことがきっかけで、パン屋さんとしてご協力いただくだけでなく、販売場所についても親身になって一緒に考え、栁下氏とのご縁を繋いでくださった。


焼きたてベーカリー ナカノヤ(江戸川橋) 小坂 保氏
ご夫婦で営む街のパン屋さんで、2021年10月で43年目を迎える。

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「枝元さんからお話をいただいて、残るパンがあるので、それを提供してもいいかなと思い、引き受けました。儲けという視点ではなく、捨てずに寄付できることがありがたいと思っています」

これまで何百種類のパンを作ってきて、地域の人たちの好みに合わせたパン作りを心掛けているという小坂氏。納豆好きの友人から頼まれて作った納豆トルティーヤやさばサンドなど個性的なパンも人気だ。

パン・オ・スリール(渋谷) 須藤ご夫妻
北海道産の小麦に、秋田県白神山地のブナの森の土から採れる酵母と自家製の酵母を使い分けたりブレンドしたりして、「美味しい」をコンセプトにこだわりのパンを作り続けている。
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「枝元さんの志に共感し、何かできることがあればぜひと、二つ返事で引き受けました。小さなお店でも貢献できるというところに、すごく意義があると思っています。長い目で見て続けていきたいです」

当初は貢献しようという意気込みだったものの、コロナ禍で日々どれだけのお客さんが来てどれだけ売れるのかが読めなくなった今、夜のパン屋さんが支えになっている部分もある。お互い様の関係になっていればうれしいと須藤氏は言う。

6店舗から14店舗へ。さらなる協力店を募集

夜のパン屋さんは火・木・金の週3回、19時から21時にかもめブックスの軒先でパンを販売している。上記のメッセージ動画を寄せてくださった3店舗を含む4~7店舗のパンが随時店頭に並び、売り切れ次第閉店となる。当初から販売を担当しているのが、浜岡さんを含む販売者3名。最近ではコロナ禍でアルバイトがなくなってしまった学生さんもピックアップ・販売に参加し、皆が自然体でサポートし合いながら販売を続けているという。

「スタート当初は6店舗だった協力店が現在14店舗まで増えています。様々な事情で継続いただけないパン屋さんもあるため、ご協力いただけるパン屋さんを随時募集しています。都内はもちろんのこと、遠方から冷凍パンを送ってくださるパン屋さんもいますので、場所を問わず全国各地のパン屋さんからのご連絡をお待ちしています」と枝元は協力を呼び掛ける。

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10月は神楽坂かもめブックスでの販売に加え、毎週火曜に神楽坂からも近い、飯田橋第一パーク・ファミリア(新宿区新小川町7-23)の来客用駐車場を出発地として「夜パン号」での移動販売を開始する。また10月16日の世界食糧デーに合わせ、6日から23日の水・金・土に代官山蔦屋書店T-SITEにて期間限定で夜のパン屋さんを出店。国連食糧プログラムの「ゼロハンガーチャレンジ」キャンペーンにも協力している。

かつて、父や兄とともに鰹漁に従事していた浜岡さん。船酔い体質が改善されずやむなく漁師を辞めたと言うが、その後の接客業での経験を生かし、3年前から表参道のみずほ銀行前でビッグイシューを販売、夜のパン屋さんでは積極的に呼び込みを行っている。浜岡さんを見かけることがあれば、気軽に声をかけてほしい。

「町場のカルチャーと福祉を近づけたい」
コロナ禍の札幌でシェルター付き書店を開業

当日は、栁下氏の友人で、札幌市のゲストハウスUNTAPPED HOSTELの運営会社である「株式会社PLOW」代表の神 輝哉氏が急遽登壇。2014年から旅人向けの素泊まり宿を営んできたが、コロナ禍で深刻な打撃を受け、運営方針を転換。2021年10月30日にシェルター付き書店「シーソーブックス」を開業する。

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「ネットカフェを仮住まいとしていた人たちが追い出され、行き場を失っているというニュースを目にしました。そのニュースを拡散するだけでなく、自分にできることはないだろうかと考えました。そこで、(コロナ禍で)空いてしまった宿を活用してもらおうと『北海道の労働と福祉を考える会』に相談し、ベッドの拡充を考えていた先方のニーズとマッチしたんです」

シーソーブックスは1階が書店、2階がシェルターの造りとなっており、出版業界で働いた経験のある神氏の「本屋を営みたい」という想いと「町場のカルチャーと福祉を近づけたい」という理想を具現化する事業だ。ゲストハウスの1階部分を書店にリニューアルするためにクラウドファンディングで支援金を募ったところ、488%もの達成率で成功したという。

「コロナ禍で都市部でのシェルターの不足が浮き彫りになっており、そういった支援施設の必要性を感じている人は多くいると思います。雑誌ビッグイシューの販売を検討いただいていると聞いていますが、札幌でも地元のパン屋さんと連携して、食べ物を大切にしながら新しい働く場を創るといった取り組みなどでも連携できたら素敵だと思います」と佐野。

シーソーブックスの新しい情報はTwitterInstagramで発信していくので、こちらもぜひフォロー&拡散していただきたい。


第7次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」の募集

有限会社ビッグイシューはホームレス状態の人や生活に困窮している人がすぐにできる仕事をと、雑誌を路上で販売する仕事を提供している。販売者は1冊220円で仕入れ、お客さんに450円で販売する、その差額230円が利益になる。

しかしコロナ禍で路上販売はままならなくなった。そのような中でも販売者たちの収入を確保し、体調が悪いときは安心して休めるしくみが必要だった。

そこで、2020年4月に「コロナ緊急3ヵ月通信販売」を立ち上げ。当初早期のコロナ禍収束を想定し3ヵ月間と設定したが、現在7次の募集中だ。「コロナ緊急3ヵ月通信販売」では、3か月分の計6冊の雑誌を送料を含めた3,300円で前払いしていただき、ビッグイシューは販売者が本来路上販売により得られる利益分をプールしておき、販売者に毎月販売継続協力金として現金を渡すほか、夏と冬に販売応援グッズを配布している。

路上から買うのが難しい方、近くに販売者がいないという方は、「コロナ緊急3ヵ月通信販売※」への参加をご検討いただきたい。

※ 第7次「コロナ緊急3ヵ月通信販売」

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ゼロハンガーチャレンジ月間に起こすそれぞれのアクション

今後の取り組みへの意気込みについて、枝元はこう答えた。

「お客さんが『寒いですね』などと声をかけてくださると、販売者さんや学生さんはとても喜ぶんです。人と人が一声かけあうだけで繋がれるって、なんて素敵なことだろうと思います。夜のパン屋さんに足を止めて、ちょっとの関係性を持てる。人と繋がれる。そんなお店をこれからも続けていきたい。そのために、全国各地のいろんなパン屋さんと繋がっていけたらと思っています」

10月は国連WFPが「ゼロハンガーチャレンジ月間」を掲げ、一人一人のアクションを促している。ビッグイシュー日本ではゼロハンガーデー(世界の飢餓をなくすための日)の翌日である17日に、YouTube LIVE「食から考える私たちの未来」を開催し、枝元、20代でアクションを起こしている陶山智美さん(おすそわけ食堂まど)、山崎幸子さん(Fairy forest~もったいないに架け橋を~)が登壇する。

このLIVEはYouTubeのビッグイシューチャンネルにアーカイブされている。


取材・記事協力:K A

**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第7弾**


2021年9月4日(土)~2021年11月30日(火)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2021/09/20562/








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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。