関西電力・高浜原発(福井県)で使用する燃料がフランスを9月3日に出発した。ウランにプルトニウムを混ぜた燃料でMOX燃料と呼ばれるものだ。これを原発で使用することを「プルサーマル」と呼んでいる。




輸送の危険性、核武装の懸念
輸送ルート沿いの国が反対

 武装警官が乗船した2艘の船で相互に護衛しながらの輸送だ。奪取を防ぐため、どちらの船に燃料が積み込まれているかは秘密になっている。また、輸送ルートは喜望峰(南アフリカ)を経由したあとオーストラリアの南を通過して北上する(下図)。不安定な海峡は通らない。ざっと地球の3分の2ほども回る大航海だ。予定では11月下旬に日本に到着する。

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 核燃料サイクルを政策としていた日本は、1980年代に英仏に原発の使用済み核燃料の再処理を委託した。両国での再処理はすでに終わっていて、分離されたもの(プルトニウム、回収したウラン、放射性廃棄物など)はすべて日本へ返還されることになっている。このうち、高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)は、フランスからの輸送が終わり、今は英国からの返還が進んでいる。しかし、回収ウランや低レベル放射性廃棄物は手つかずの状態だ。
 プルトニウムは、海外でMOX燃料に加工してから日本へと運ぶ。1993年1月にフランスから高速増殖原型炉「もんじゅ」の燃料用に粉末状態のプルトニウムが到着したが、この時、輸送ルート沿いの国々の多くがその危険性や日本の核武装の懸念などから反対を表明し、あるいは領海内の通過を拒否する声明を出した。これを受けて日本は海外でプルサーマル用の燃料に加工して輸送する方針に変更した。


新潟、住民投票で装荷拒否
長期保存で燃料として機能せず

 最初の輸送は1999年に行なわれたが、英国で製造した関電用の燃料の品質検査不良が明らかになり、英国に返還された。同じ船で運ばれた東電用の燃料は別会社の製造だったが、地元が納得せず、装荷されずに貯蔵されることになった。この燃料が福島第一原発3号機に装荷されたのは11年後の2010年12月。この数ヵ月後には原発事故でメルトダウンした。
 翌年には東電・柏崎刈羽原発(新潟県)に燃料が運ばれたが、こちらは東電のトラブル隠しが発覚し、さらに住民投票で拒否、福島原発事故も重なり、貯蔵されたまま現在に至る。
 中電・浜岡原発(静岡県)も再稼働の見通しがなく、09年に輸送されたプルサーマル燃料は貯蔵されたままだ。柏崎や浜岡の燃料は長く貯蔵しすぎ、もはや燃料としては機能しないだろう。
 日本は海外に37tのプルトニウムを保有している(20年末)。20年12月17日には電気事業連合会が「2030年までに12基でプルサーマルの実施を目指す」計画を発表した。しかし、現在までにプルサーマルを実施できている原発は九電・玄海3号機(佐賀県)、四電・伊方3号機(愛媛県)、高浜3、4号機の4基である。この他にプルサーマルの地元了解を得ている未稼働原発は5基のみだから、12基計画は実現しそうにない。
 プルサーマルの使用済み燃料の後始末はウラン燃料のそれよりもいっそう厄介で、これを考えると、プルトニウムは燃料とせずにそのまま廃棄物として処理・処分すべきだと筆者は考えている。
(伴 英幸)

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(2021年12月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 420号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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