ケニアのマサイマラ保護区(※1)で小型飛行機を自ら操縦し、ゾウ密猟対策活動や野生動物の保護に奔走する滝田明日香さん。象牙・銃器の探知犬、密猟者の追跡犬とともに保護活動を担っているベテラン追跡犬の後継候補として、7匹の子犬の訓練を始めたが……。

※1 ケニア南西部の国立保護区。タンザニア側のセレンゲティ国立公園と生態系を一にする。

子犬レシャン、追跡犬ユニットへ
ソピア退院するが、回復せず

 タンザニア国境近くのレンジャーステーションでは、追跡犬の子犬訓練を続けてきた。最初の1ヵ月の時点で、7匹のうち足を挫いた子犬と追跡能力ゼロの子犬の2匹が訓練プログラムから落とされた。残った5匹はそのまま訓練を続けて、最初の追いかけっこのレベルから、次の段階に移行。犯人役であるおとりのハンドラー(※犬の調教師)の姿を見なくても、犯人の足跡のみで子犬が追跡を開始できるようになり、3ヵ月後にレシャンという雄の子犬がマラコンサーバンシーの追跡犬ユニットに入ることになった。レシャンは父親のモラニと一緒にセレナ・レンジャー・ステーションに派遣され、実際のパトロールを開始した。これからの活躍が楽しみである。

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 追跡犬ユニットの中でかなり優秀だった雌犬のソピアは、タンザニアのセレンゲティ国立公園でツェツェバエに刺されて感染したトリパノソーマ症の治療で薬物肝炎になり、数ヵ月ナイロビのクリニックに入院していた。食べ物を吐くことはなくなったが、いつまで経っても体重が元に戻らず、仕事復帰はどんどん危うくなっていった。あまりにも体重が戻らないので追跡の仕事は無理だと判断し、まだ4歳の若い犬だったが引退させることにした。

 ナイロビで、ソピアの引退生活を見守ってくれる人を探すことになり、里親が見つかるまでマサイマラで休養させることにした。ナイロビのクリニックからマサイマラに戻り、2日が経った朝にハンドラーから「ソピアの様子がおかしい」と電話がかかってきた。ちょうどマサイマラの勤務が終わりナイロビに戻ってきて1日しか経っていない時だった。どのように様子がおかしいのか聞くと、「歩いている時に横に流れるようにフラフラと歩いている」と言う。

 ビデオを撮って送るように指示して送られた映像も見てみると、確かにセンターボルトが壊れた車のように横に流れてまっすぐ歩けずにいる。ブッシュの中での生活は弱った身体にはまだ難しかったようだ。再度、施設の整ったナイロビのクリニックに戻して休養させようと考え、次の日にナイロビまでの輸送のため車の手配などをしていると、昼過ぎになってまたハンドラーからビデオが送られてきた。

 ファイルを開いて映像を見てみると、そこには地面に倒れて痙攣を起こしているソピアの姿が写っていた。原因は肝炎なのか、または、かつて他の追跡犬で経験したトリパノソーマ原虫が脳に入ってしまっての痙攣なのかは判断がつかない。ただわかることは、この状態から回復する可能性はほぼないことだった。ソピアは追跡犬の中でも追跡能力が素晴らしい犬で、密猟者の逮捕歴も多い。多くのハンドラーのお気に入りの犬だった。足跡を見逃すことはなく、どんなに難しい追跡環境の中でも犯人を逃さない。そして、ハンドラーがあまり疲れないペースで確実に足跡のにおいを嗅ぎ出せる抜群の追跡能力を持った犬である。

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 みんなが愛していたソピア。回復の可能性がない動物をこのまま衰弱させて死ぬまで苦しめることはできない。ソピアは安楽死させることになった。こんな若い犬をトリパノソーマのせいで失くすとは思ってもいなかったので、大きなショックだった。

追跡にはバックアップ犬が待機
雌と雄の追跡犬を分ける理由

 ソピアが突然亡くなってしまったことで、セレナ・レンジャー・ステーションの追跡犬ユニットに穴が空いてしまった。追跡の仕事は常にバックアップの犬が必要である。密猟者を追跡する仕事は時には何十㎞もの距離をカバーするので、追跡の途中、犬が疲れた時には交代できるように常にバックアップの犬がパトロールカーに待機している。

 ソピアのパートナーは姉妹のシャカリアだった。ソピアが無言で追跡するのに比べて、シャカリアは追跡を開始してにおいを嗅ぎつけると興奮して遠吠えをする癖がある。子犬のレシャンがンギラーレ・レンジャー・ステーションから引退した追跡犬セロの後継としてユニットに入った直後だった。1ヵ月後のソピアの不幸を予測できていたら、レシャンの他にも雌の子犬を選ぶことが可能だったのだが、訓練した子犬はすべてライキピア地方のコンサーバンシーで仕事を開始してしまっていた。そのため、また訓練のできる子犬を最初から探さなければいけなくなってしまった。

 ナイロビの労働犬のブリーダーに連絡をすると、ちょうど生後8週間のマリノアの子犬が見つかったので、早速どのような子犬なのかを見に行くことになった。本来ならばソピアの後継には、雌の子犬がほしかったのだが、見に行ってみると子犬は2匹とも雄の子犬だった。


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新しい子犬を選ぶ

 マラコンサーバンシーでは雌と雄の追跡犬をステーションごとに分けている。理由は雌犬が発情してしまうと、雄犬が3週間ほど役に立たなくなってしまうからである。最初は、雄と雌を混ぜてステーションに配置していたのだが、発情した雌のにおいで、雄犬が吠える、餌を食べない、逃亡しようとする。そして、まったく追跡に集中できなくなってしまうのである。他に選択肢がなかったので、雄の子犬でも追跡能力が優れているのなら訓練をするしかない。

 こうして、今年に入って2回目の子犬選びと子犬訓練が始まったのである。


 (文と写真 滝田明日香)


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以上、ビッグイシュー日本版429号より「滝田明日香のケニア便りvol.22」を転載。

たきた・あすか

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1975年生まれ。米国の大学で動物学を学んだ後、ケニアのナイロビ大学獣医学科に編入、2005年獣医に。現在はマサイマラ国立保護区の「マラコンサーバンシー」に勤務する。追跡犬・象牙探知犬ユニットの運営など、密猟対策に力を入れている。南ア育ちの友人、山脇愛理さんとともにNPO法人「アフリカゾウの涙」を立ち上げた。  https://www.taelephants.org/


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▼滝田あすかさんの「ケニア便り」は年4回程度掲載。
本誌75号(07年7月)のインタビュー登場以来、連載「ノーンギッシュの日々」(07年9月15日号~15年8月15日号)現在「ケニア便り」(15年10月15日号~)を本誌に年数回連載しています。











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