米国内で相次ぐ銃乱射事件に、今あらためて銃規制への関心が高まっている。しかし、最近の政治動向を見る限り、大した対策は期待できそうもない。
※この記事は2019/11/01公開の記事をリライトしたものです。
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課題の一つは、単純に「銃の数の多さ」だ。「Small Arms Survey」の報告書によると、2017年末時点で米国には推定3億9,300万丁の銃が存在しており(警察や軍所有の銃は含まない)、これは世界的な民間人所有の銃の45.8パーセントにあたる。国民100人あたりでみると約120丁の銃が存在していることになる。第2位のイエメンで国民100人あたり52.8丁、日本は1丁以下だ*。
*参照: http://www.smallarmssurvey.org/
銃所有者は銃を所持することに強いアイデンティティを持っており、そのことが銃の数を減らしていこうとする動きを難しくしている。ワシントンD.C.拠点のシンクタンク「ピュー研究所」によると、銃所有者の7割以上が「何らかの銃を所有しないことは想像できない」と回答している。
米国では、成人の4割以上が少なくとも1丁の銃がある家庭で暮らしている。そして、民間人所有の銃の約半数は、わずか3パーセントの人たちが所有している。所持数は平均3丁で、なかには17丁もの銃を持っている人もいる。
銃の総数を減らす試み「銃の買い取りプログラム」
こうした現状を踏まえ、「銃の買い取りプログラム」が有望な対策の一つとされている。これは、銃所有者から銃を買い取り・破棄することで銃の総数を減らそうというものだが、決して新しい試みではない。
オーストラリアでは、96年に起きた乱射事件*をきっかけに、自動・半自動ライフル・短銃の所持を禁止するとともに、国家レベルでの「銃の買い取りプログラム」が実施され、1年間で個人所有の銃の2割にあたる約65万丁を買い取った。
*タスマニア島の観光地ポート・アーサーで起こった事件。死者35人、負傷者15人を出した。
この買い取りプログラムを評価する研究によると、その後7年間で殺人事件は42パーセント減少し、自殺率も57パーセント減少したという。しかし、これは本当に買い取りプログラムの効果といえるのか、単に減少傾向にあったからではないのか、疑問を呈する研究者らもいる。
このオーストラリアのプログラムよりはるかに小規模ではあるが、米国の一部の都市でも「銃の買い取りプログラム」は実施されてきた。古くはメリーランド州ボルチモアにて、警察が銃1丁を50ドルで買い取るプログラムを実施、2ヶ月で約1万3,500丁を回収した。しかしプログラム実施中、犯罪は減るどころか、殺人・襲撃事件は急増した。ただし、2ヶ月という期間では効果を判断するには短すぎ、70年代は都市犯罪が増加した時代でもあり、その相関関係は分かっていない。
ボルチモアの事例だけではない。2008年に研究誌『Crime & Delinquency』に掲載された研究*によると、「銃買い取りプログラム」は概して米国内の犯罪減少に効果的でないとしており、課題として「買い取る銃の種類」「警察の介入」これにかかる「費用」を挙げている。
*「The Effectiveneww of Policies and Programs That Attempt to Reduce Firearm Violence: A Meta-Analysis」Matthew D.Makarios, Travis C. Prattの共同研究。
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実際に犯罪に使われる銃を回収しないことには意味がない
「買い取りプログラム」において対象となる銃の種類を指定しないと、壊れた銃やライフル、ショットガンなどが持ち込まれるケースも少なくない。
93年に買い取りプログラムを実施したカリフォルニア州サクラメントでは、持ち込まれた銃の4分の1近くが、すでに使えないものだった。同じく93年にボストン警察も銃の種類を指定しない買い取りプログラムを実施したところ、暴力犯罪や若者による暴力で最もよく使われる拳銃は、持ち込まれた銃器の半分に過ぎなかった。94〜96年にかけてミルウォーキー(ウィスコンシン州)で回収された銃も、自殺や殺人でよく使われるタイプのものではなかった。
犯罪データによると、銃乱射事件ではライフル銃や散弾銃などより強力な武器が使われることもあるが、「暴力犯罪」や「若者の暴力事件」で最もよく使われるのは拳銃だ*。買い取りプログラムの主旨がこうした犯罪を減らすことなのであれば、猟銃や壊れた銃を回収してもほとんど効果を成さないこととなる。
*参照: https://www.statista.com/
「拳銃の持ち込みに金銭的インセンティブ」は有効か
ボストン警察は2006年にも再び回収プログラムを実施した。過去の経験から学び、拳銃には200ドル相当のギフト券を提供し、ライフル銃や猟銃は現金やギフト券付与の対象外とした。その結果、回収された銃の85パーセント以上が拳銃であった。その後ボストンでは、銃撃事件が14パーセント減少し、この傾向は2010年まで続いた。
この成功例に続けとばかりに、2015年には同マサチューセッツ州の13の警察署が銃の買い取りプログラムを実施、犯罪によく使われるタイプの銃はより高額で買い取るとした。おかげで多くの拳銃が回収されたが、銃を持ち込んだ人の5人に3人は、まだ自宅に他の銃を1丁以上所有しているとも回答した。
これらの事例から言えることは、プログラムが本来回収したいと思っていない安価または壊れた銃を持ち込むことで金銭インセンティブを得ようとする人たちがいるということだ。
ボルチモアで銃を持ち込んだ人の一人は、受け取ったお金で、より大きな銃を買うつもりだと言った。オレゴン州では買い取り実施場所の外に、警察に持ち込まれる前の銃や銃弾を買い上げようとする人たちが集まった。
自治体・草の根レベルでの実施では効果も限定的
これまでのところ、米国の「銃の買い取りプログラム」は、地域レベルの草の根的な取り組みにとどまっており、そのインパクトは限定的だ。州・国家規模での実現可能性はまだ見えていない。
費用も自治体レベルの税金で実施されている。限られた予算では買い取れる銃の数も制限されるため、犯罪率を目に見えて減らすことはなかなか難しい。
1丁の銃を50ドル(約5400円)で買い取るということは、国内に出回っている銃を1パーセント減らすのに1億9,650万ドル(約212億円)の経費が必要となる。費用面だけでも、プログラムの展開を難しくしている。犯罪に使われうる銃のごく一部を買い取るのが山であろう。
また、プログラムを実施するのは基本的に警察だ。たとえ武器の所持で罰せられることはないとされていても、犯罪に関わっている者たちが警察署に足を運ぶこと、警察との接触を躊躇するのは無理ない話だ。そこでボストンでは、2006年、より大きな効果を上げようと銃器の回収場所を教会などにした。他の地域でも、警察に代わってNPOがプログラムを実施するなどしたが、現場の警備や持ち込まれた銃の廃棄サポートに、警察の出入りは必要だった。
By Lacey Wallace(ペンシルバニア州立大学の刑法学准教授)
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo
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