怒り、欲望、トラウマ体験、女性の人生のリアルを丹念に描き、高い評価を受けている米国の作家リサ・タッデオに『ビッグイシュー・オーストラリア』が話を聞いた。

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リサ・タッデオ Credit: Lara Downie

話題のノンフィクション作品から一転、小説にも挑戦

2019年7月(MeToo運動とパンデミックのはざまにあたる時期)に出版された『三人の女たちの抗えない欲望(原題:Three Women)』は、3人のアメリカ人女性の欲望と性生活を8年の年月をかけて追いかけたノンフィクション作品で、NYタイムズベストセラーのノンフィクション部門で1位、11週にわたりランキング入りするなど大きな話題となった。



そして2021年には、初の小説『Animal(未邦訳)』を発表。主人公ジョーンは、人に好かれにくい、孤独を好む女性。既婚男性と関係を持ち、謎の女性を追い、人を殺した過去があることが冒頭で明かされる。

まったく異なる二作品だが、どちらも女性の欲望やトラウマ体験、女性が本来得られるべきものを中心テーマとしている。画期的なデビュー作となったノンフィクションから長編小説への移行について聞くと、「クリエイターとして幅を持っていたいし、その方が私には心地いいんです。私が自分の人生で欲しているのは、書くことにワクワクできていることですから」と語った。「出版社が求めていたものとは違ったんですけどね」と言うので、私たちは笑った。どこの出版社も、売れたデビュー作と似た作風を求めるものだ。

『三人の女たちの抗えない欲望』の執筆には8年以上の月日を費やし、登場人物を追ってあちこちを転々とする日々だった。うってかわって、『アニマル』はほぼコロナ禍での執筆だった。「もともとかなりの心配性なので、パンデミックだからといってさしたるストレスはなく、執筆にはそれほど影響しませんでした。ある意味、作業しやすかったです」

どんどん明るみになる女性の「現実」

『三人の女たちの抗えない欲望』の出版後、世の中の反応は大きく変わった。オーストラリアでは、性暴力、児童虐待、家庭内暴力をめぐる議論や抗議運動の機運が高まった。DV運動家のロージー・バッティ、アボリジニ作家のベロニカ・ゴリー、性暴力アクティビストのグレース・タメ、議会内でのレイプ被害で声を上げたブリタニー・ヒギンズなどの尽力が大きい。パンデミック下の家庭内での虐待が明るみに出るなかで、議論が盛り上がっている。

タッデオはこれに感心し、米国ではオーストラリアほど大きな議論に発展していないと語る。露骨な作風で、ほかの作家がなかなか踏み込まない領域に挑んでいるタッデオだが、コロナ禍での女性の経験を書くことは考えているのだろうか。

「その欲求は作家の側に確実にありますね。この時代の感覚をどう表現すればよいかを模索し、今後そんな作品が増えていくと思います。同時代の作家たちが、これからどんな表現をしていくかが楽しみです」

「私自身は、女性が受けている精神的虐待に関心があります」と語る。「今後取り組みたいのは、女性が精神的におかしいとされ、子どもと引き離されるケースです。どんな心理的虐待が起きているのかを書いてみたいです」

「家庭内暴力のやっかいなところは、女性同士でも本当のところを話しにくい点です。女性が抱えているいろんな思いを誰にも話せないのは、恐ろしいことです」

近年の#MeToo運動関連の書籍の中で、自身の作品をどう位置づけているのだろうか。「よくわからないけど」と前置きした上で、「あまりに露骨でパンチが利きすぎているとの評価は薄れていき、これが現実なんだと気づいてもらえるのではないでしょうか。作品を通して、読者の認識を広げられればと思っています」

米テレビ局ショウタイムが『三人の女たちの抗えない欲望』のドラマ化を発表し、タッデオは脚本と製作責任者を兼任している。「学ぶことばかりです。たくさんの人が関わっていますし、皆が意見を持っていますから。本を書くときにはなかった難しさがあります」

この日、米コネチカット州の自宅からZoom経由でインタビューに応じてくれたタッデオ。思いがけない雪で学校が休校になったため、彼女の小さな娘もそばにいて参加したがっていた。タッデオのパートナーもそばで技術的なサポートをしてくれていた。そんな家庭的な雰囲気は、彼女の作品に登場する主人公や、その本能的な作風とは対照的で、作品から抱いていたリサ・タッデオのイメージとは違った。

By Astrid Edwards
Courtesy of The Big Issue Australia / International Network of Street Papers


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