雑誌『ビッグイシュー日本版』は、駅前など人通りが多い場所で路上販売をしています。そのため、雨天や猛暑日には、販売をあきらめる販売者も。
そこでビッグイシュー日本では、お店の軒下などをお借りした出張販売の取り組みを始めています。
今回は、2019年より販売場所を提供してくださっている大阪府三島郡島本町にある長谷川書店・店長の長谷川さんに、ビッグイシューの出張販売について、お話をうかがいました。
興味はあったが踏み出せなかったビッグイシューに、知人が繋いでくれた縁
Q.ビッグイシュー出張販売の受け入れにいたった経緯をお聞かせください。
“ぼくたちは、地域の人やこの本屋で知り合った人たちと寄り合って「古本さんぽ」という町遊びの日を年単位で定期的にやっています。個人が自分の所有する本を街中で販売することをきっかけに、人や場所とが出会う場となっています。そういった集いで知り合ったひとりが、たまたまビッグイシューとつながりのある方で、「古本さんぽ」にビッグイシューの販売者さんを呼んでみることをぼくに提案してくださったのです。
『ビッグイシュー日本版』という雑誌は、この提案をいただく前から知ってはいて、駅前で販売する様子もよく見かけていました。「なんやろ?」と興味もありましたが、雑誌の内容や背景を正しく知る機会がなくて、1冊購入するにも二の足を踏んでいたんです。
ずっと気になっていたビッグイシューについて知る機会になりますし、さまざまな人や世界に出会う催しにも合っていると思ったので、その方にお願いして販売者さんにお声かけ頂くことになりました。
実際に古本さんぽに参加していただいたのは、当時、高槻駅周辺で販売をしていたやまださんでした。書店の前にスペースを設けて販売してもらいました。終わってから感触をおうかがいして、出張販売という形で定期的に続けてみようという話になりました。月1回からはじめ、程なくして月2回のペースに。それから2年以上経ちますが、今も継続中です。”
自分に何ができるか考えながら、”まずは一緒にやってみよう“
Q.やまださんの印象はいかがでしたか?
“店舗の前で販売をすることで、地域の方に説明が必要な場面や、時には否定的なご意見をもらうこともあるかもしれないといくらかは想定していました。「そのとき、どんなフォローができそうか」ぼくなりに考えながら、どんなケースがあっても一緒にやっていこうとは思っていました。でもふたを開けてみると、やまださんの気さくで明るい人柄が、すぐに地域に馴染んでいきました。フォローが必要なことも、今のところありません。仮にどんなタイプの販売者が来られても、存在を共にすることで学びあうということは変わらないと思っています。
Q.「ホームレスの人」に店先に来てもらうことに不安はありませんでしたか?
“一回やってみませんか、お互いにいいことがあったら続けてみて、なかったらやめてみよう」というスタンスで始めましたので、特に不安はなかったです。「来てくれる販売者さんが、自然体でいられたらいいなあ」というくらいで。もともと「関わってみて知ろう」ということから始まってるので、もしも、ぼくのところで出張販売がうまくいかなかったとしても、販売者さんには他にも選択肢はあります。どこかで成立したらいいなという気持ちでいました。
実際には、トラブルもなく、やまださんからの心遣いもいつも感じています。お互いにも無理をせず一緒にやっている感じです。”
この関わりを機にお客さんにも、多様な価値観が広がれば
Q.出張販売の受け入れをはじめてから変化はありましたか?
“ぼく自身は、販売者の方と関わることで「いろんな形で生活している人たちがいる」とより自然に意識できるようになってきたと思います。「ビッグイシューってどんな雑誌なの?」と質問してくれるお客さんもおられます。ぼくと同じように、「気になってたけどきっかけが掴めなかった」という方が購入されるなど、関心を持つ方が増えたのは変化と言えると思います。やまださんやビッグイシューの話題を通じて、社会にはさまざまな背景や価値観をもつ人たちがいると知っていただいているように思います。やまださんがお客さんと話していると、そこにまた人が集まって、お客さん同士やぼくたち商店との人の輪が広がるのを感じています。”
互いに声をかけ合う、仲間のような存在でありたい
Q.長谷川書店さんとビッグイシュー販売者は、どのような関係性なのでしょう?
“ぼく自身は「仕事仲間」と捉えています。人によっては、「本屋の前で雑誌を売るなんて、競合しないの?」と思う方もいるかもしれません。でも、自分だけでやるよりずっと元気が出ます。お客さんが来たら一緒に喜んで、少なかったら一緒にへこんでと、やまださんと共感しあっているとお店としても元気が出るんです。「今日はどんな感じですか?」とお互いに声をかけたり、「今日はお客さん来ないですね」と笑い合ったりすることもあります。書店のお客さんとビッグイシューのお客さんが行き来し合うので、お互いに売上が伸びる日もあります。こうした売り上げの面でも影響があるのは嬉しい驚きでした。”―ビッグイシューの活動にあたたかい眼差しを向け、協力して下さっている長谷川さん。こんな思いも語ってくださいました。
“ビッグイシューの販売は、販売者さんが路上に立って、すぐ手に取れるように雑誌が並んでいたりと、誰でも自由に購入できますよね。常に『ひらけているな』と思います。ぼくも書店を運営していますが、誰でも自由にアクセスできて、いろんな価値観を共有し学びあえる場所でありたい。自分と似た考え方をもつビッグイシューと一緒に仕事ができるというのは、願ったり叶ったりな経験だと思っています。お互いに無理なく、自然体でいられることを大事に、これからも続けていきたいです。”
Q.出張販売を受け入れようか、検討される方に一言お願いします。
“人”によって、まちなかにコミュニティが生まれていると感じます。一人ひとりの積極的なかかわりで成り立つコミュニティにはあたたかさがあります。「何を成果とするか」を設定するときに、心のなかで成果に幅を持たせておくのが大切かなと思います。どちらかが切り詰めたりとか我慢するとか、そういうのではなく、いわゆる「売上」のようなはっきりした成果を求めない時があってもいいのではと思います。
雨を凌げるだけではない、出張販売が生んだ”つながり”が活力になっている
普段は京都河原町で販売をしているやまださん。長谷川書店への出張販売について、話を聞きました。“長谷川書店は本が好きな人や、町を元気にしたい人が集まるお店。古本さんぽに参加したとき、雑誌が売れたのももちろん嬉しかったんですが、地域の人たちとつながれることにも面白さを感じました。古本さんぽをきっかけに、今でも出張販売に来てくれる人も多いです。活動に協力的な方々が多いなと感じます。それも、長谷川さんの人柄のおかげ。頑張りすぎることなく、いつも自然体で販売できるので、ここまで続けられているのかなと思います。”
長谷川書店の魅力、出張販売の楽しさ、そこで生まれる人のつながりを感じるというやまださん。ビッグイシューの販売以外にも、元板前の腕を活かし、子ども食堂の活動に参加しています。実はそれも、この出張販売がきっかけだったそう。
“子ども食堂を運営する主宰の方は、元々長谷川書店のお客さんだったんです。出張販売にも来てくれて、そこで知り合ったことで子ども食堂の運営に関わらないかと声をかけてくれました。今では、子どもたちに美味しくご飯を食べてもらうことにも奮闘しています。どんなことに困っているかは人それぞれですが、どんな子も来てもらえるように間口を広くしておきたいなと思います。”
最後に、出張販売へのこんな思いを語ってくれました。
“路上販売をしている私たちにとって、雨風や酷暑をしのいで販売が続けられるのは、とてもありがたいことです。活動を応援してもらっているのも嬉しい。それに加えて、人との深いつながりが生まれるなど、いつもの路上販売だけではない、販売の仕方にバリエーションが増えることも、販売を続ける上で大きな活力になっています。”
やまださんの普段の販売場所
https://www.bigissue.jp/location/kawaramachi2/
※長谷川書店での出張販売の予定は、会社サイトやSNSでご案内をいたします。
取材・記事協力:屋富祖ひかる
長谷川書店
大阪府三島郡島本町水無瀬1丁目708
075-961-6118
阪急水無瀬駅改札口を出て駅構内、JR島本駅より徒歩10分
http://walkingreader.blog60.fc2.com/
ビッグイシューでは、あなたの街の「軒下」を募集しています
これからの季節、雨天日や夏の猛暑日が続くと、路上での雑誌販売が厳しくなります。雨や日差しを避けられる「屋根」のある販売場所は少なく、販売者は熱中症などの対策を工夫しますが、売り上げの減少は避けられません。
そこで、人通りが多く、駅からのアクセスも良い場所に「軒下」をお持ちの読者の皆様、あなたの「軒下」をビッグイシュー販売者に貸していただけませんか?
販売日や時間は販売者の生活状況によって本人が決定しますので、「何時に来てもOK!」「来ても来なくてもOK!」というゆるやかなお約束のもと、軒下をお貸しいただける皆さまがいらっしゃいましたら、ぜひご連絡ください。
詳細はこちらをご覧ください。
https://www.bigissue.jp/2022/06/23677/
**新型コロナウイルス感染症拡大に伴う緊急企画第10弾**
2022年6月8日(水)~2022年8月31日(水)まで受付。
販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/06/23648/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。