2022年6月17日に最高裁判所は、福島原発事故避難者が国と東電に損害賠償を求めた裁判で「賠償に関する国の責任を認めない」判決を下した。

避難者が損害賠償を求めて集団訴訟を起こしている裁判は、全国で30件ほどある。東電については地方裁判所ならびに高等裁判所ではすべての裁判でその責任を認め、「ふるさと喪失」損害など賠償額の加算が決定している。今後は国の賠償基準の見直し、賠償額の引き上げが避けられないだろう。  
では、「国の責任」についてはどうか。 


全国で30件、集団訴訟
控訴審4件中3件で国に責任

高裁での控訴審は4件あり、すべて確定している。うち3件が国の責任を認める決定をし、1件がこれを否定する決定をしている。なお、地裁段階でも国の責任を認める決定の方が多い。

これに対して、最高裁は「仮に国が指示をし、東電が当時の津波評価に基づき対策をとっていたとしても、2011年3月11日の地震・津波はその想定を大きく超え、事故は避けることができなかった。したがって、国に責任はない」と判断したのだ。

裁判所判断

02年に国の地震調査委員会が長期評価を公表した。これに基づき東電は津波評価を行い、敷地を超えて浸水するとの結果を得た。しかし、東電経営陣はこの評価を信頼できないとして、なんら対策を取らなかった。

住民たちは「この段階で、国が電気事業法に基づき対策を命令して、防潮堤や建屋の水密化(※)などを進めていれば、事故は避けられた」と主張した。しかし、最高裁は、当時は防潮堤が唯一の対策で、建屋の水密化を主張する専門家はおらず経験もなかったとして、水密化など他の対策を排除した上で、仮にこの評価に基づき防潮堤を建設していても3·11の津波はそれを超えるものだったので、事故を避けることができなかったとした。

この決定に対して、住民たちは、「国に忖度した判断」「司法の責任放棄」などと強く批判している。

※ 建物の入口が密閉され、水圧がかかっても中に水が入りこまないようになっている状態。

裁判官の一人は反対意見
国の不作為を指摘

この最高裁第二小法廷(菅野博之裁判長)では、4人の裁判官のうち3人がおおむね上記の判断だった。本文54ページほどの決定文のうち、事実関係を除くと判決部分はわずか4ページ、これに2人の補足意見が添えられている。菅野氏は、原子力は国策であり本来は国が被害者の救済における最大の責任を担うべきだが、提訴の争点からは国に責任がないと補足した。

唯一反対を表明した三浦守裁判官の意見は30ページにも及ぶ。全体の半分以上が反対意見で占められた異例の判決である。三浦氏は以下の見解だ。

「万が一にも事故を起こさない、が原発の安全の基本であり、上記評価で建屋が浸水することが示された以上、非常用ディーゼル発電機など事故対策に重要な役割を果たす機器類を水没から守る対策をとる必要があった。国が東電に電気事業法に基づいて対策を命令していれば、東電は防潮堤のみならず水密化も含む事故防止策を実施していたと考えられる。そうすれば事故を防ぐことができた蓋然性が高い。ところが、東電経営陣は対策を先送りし、国(当時、原子力安全・保安院)はこれを追認した。したがって、国が命令しなかった不作為による責任は免れない」

国を免責したこの判決は係争中の損害賠償裁判へ影響を与える可能性がある。しかし、住民たちは三浦反対意見を引きながら主張を尽くし、「国の責任を認める判決を増やすために闘い続ける」と決意を新たにしている。

(伴 英幸)

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(2022年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 436号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/ (web講座を動画で公開中)











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