2021年12月に発足したドイツのショルツ政権は「2030年までのホームレス問題解消」を掲げている。その具体策として、毎年40万戸の住宅建設を打ち出している*1住宅・都市開発・建設相クララ・ゲイウィッツに、『ヒンツ&クンスト』誌(ドイツ・ハンブルク)がインタビューした。(インタビューは2022年6月、「取り組みへの本気度を示したかった」と語るゲイウィッツ大臣自らが『ヒンツ&クンスト』誌の事務所を訪れて行われた。)


*1 参照:Faster, modern, and cost-effective construction

『ヒンツ&クンスト』誌:ドイツ連邦政府は2030年までにホームレス問題を解消すると約束しました。8年後のドイツでは本当に路上生活者が一人もいなくなるのでしょうか?

クララ・ゲイウィッツ:大切なのは、すべての人が家を持てるよう「住まいに対する人権」の考えを採り入れ、それに対応した支援の枠組みを提供し、状況を大幅に改善することです。でもホームレス問題は複雑ですから、路上生活者が完全にいなくなるのは難しいでしょうね。

iStock-1204176401
ハンブルクのセントパウリ地区のホームレスのテント(2018年)/Canetti/iStockphoto

― 自治体やホームレス支援団体と協働していく国家行動計画も発表されました。これについて詳しく教えてください。

家を失わないよう予防策を取ることが極めて重要です。ここ数年、公営住宅の数が急激に減り、社会的弱者が住まいを見つけにくくなっています。それに、ホームレス状態にある人の医療や住所問題、銀行口座の開設についても議論する必要があります。自治体、市民社会、連邦政府が連携し、住居に関する基準を策定したいと考えています。

― 連邦政府がホームレス問題解決の中核に据えている「ハウジング・ファースト」はどのような役割を果たすのでしょうか?

非常に興味深い取り組みです。長く疲れる手続きの末にようやくアパートを充てがわれる従来のやり方からの方向転換となりますから。しかし、単に住む場所を提供して「これで問題解決です!」と言えるような単純なものではありません。1つ目の問題が解決したら、2つ目、3つ目の問題解決がなくてはなりません。それらの分野については、フィンランドの事例も調査する予定です。

― 調査ばかりで実行に移さないのはなぜですか?「ハウジング・ファースト」を試験運用し、成果を上げている国や都市は多くあるのに、ドイツの国家行動計画に関する会議が始まるのは来年です。2030年までにホームレス問題を解決するのなら、もっと迅速に決断力を持って行動すべきではないでしょうか。

私自身せっかちな性格なので、おっしゃりたいことは分かります。しかし、今は省(連邦交通・建設・都市開発省)の再編を進めている段階です。2022年夏にホームレス問題に取り組む部署を設け、職員を公示する予定です。重要なのは、行動計画を作成するだけでなく、それを実行に移せる体制を整えることです。

― 2022年1月時点で、シェルターで暮らす人は全国で17万8千人、路上生活者は4万5千人と推定されています。本当に7年で行動計画を遂行できるとお考えですか?

順調に遂行されれば、2030年には求める人すべてが住まいを得られるようになっているでしょう。私が目指すのは状況を大きく改善させることで、そのために質的基準(例:“家族の路上生活者をなくす”)を設けていく考えです。

iStock-1440687992
ホームレスのテント。2022年 /Dmitri Zelenevski/iStockphoto

― 人権は国籍に関係なく全ての人に適用されるべきです。出身地を理由に社会保障を受けられず路上生活となっている者たちへの支援はいかがですか?

ホームレス問題の解決は、ドイツだけではなくヨーロッパ全体が目指していることです。われわれに何ができるのか、社会省とも議論をすすめていくつもりです。

― ハンブルグではEU諸国から流入した路上生活者を強制退去させた過去があります*2。EU圏のどこからの移住であっても住まいを得られるよう支援することもできるのではないでしょうか。

40万戸の住居を新設し、行動計画を確実に施行するのが、大臣としての私の務めで、当省はそれで手一杯の状態となるでしょう。 EU全体の対応については、担当の省に委ねたいと思います。

*2 ハンブルク当局は2018年、主にポーランドとルーマニア出身の路上生活者約300人のドイツ国内に滞在する権利の剥奪を命じた。参照:Hamburg is deporting Polish and Romanian homeless people

― 40万戸の新設住居のうち10万戸を公営住宅にするとのこと。しかしウクライナの戦争が諸事情を悪化させています。本当に実現可能なのでしょうか?

これは実際のニーズに基づいて算出した数字です。戦争のせいで実現がより困難になっているのは事実です。でもだからといって「公営住宅は5万戸で充分だろう」と結論づけるのは誤りです。目標は堅持しなければなりません。ドイツは大勢のウクライナ難民を受け入れ、住宅需要はいっそう高まっているのですから。

―人材や物資不足から建設事業はじきに暗礁に乗り上げるだろう、と住宅開発業者は警鐘を鳴らしています。省としてどのような支援ができますか?

新規建設の需要は非常に高いです。すでに全国で84万7千戸のアパート建設が承認され、建設待ちの状態です。ただ、国が建設費を補助したところで、かえって価格を押し上げてしまうでしょう。ロボット工学や規格化を推進し、建設現場での効率や生産性を高める必要があります。建設業界とは、建築資材の安定供給について話し合いを進めています。

― 国レベルでの「アフォーダブル住宅*3同盟(Alliance of Affordable Places to Live)」を計画されていますが、どのような変化が期待できるでしょうか?

建設業界では抜本的な変革が起きようとしています。内閣で行われるすべての審議に、建設業者や賃貸者たちの見解を反映することが重要です。実際に、予算委員会では初めて公営住宅に焦点を当て、2026年までに145億ユーロの予算割り当てが決まりました。

*3 困窮者にも利用しやすい安価な住宅のこと。

― ハンブルグでは同様の取り組みを2011年から進め、市全体で家賃の上限を設定し、住居保護法令で投機目的の空き家所有を禁止してきました。それでも家賃は上昇しています...

ハンブルグは魅力的な街なので、なかなか難しいですね。でも、やみくもに公営住宅を売却する市も多いなか、ハンブルクは公営住宅を維持することの重要性にいち早く気づいた街でもあります。

― 家賃上昇率を3年間で11%に制限するとの取り決めがなされました。これはいつから施行されるのですか?

この件の責任者マルコ・ブックマン司法大臣と審議中です。今年中に施行される見込みです*4。

*4 ゲイウィッツ大臣は上限の設定を求めているが、12月1日時点ではまだ施行されていない。
参照:Construction Minister Wants To Limit Increases In Index Rents

― 発表された新しい住宅手当はどのようなものですか?

通常、公営住宅の居住期間には制限がありますが、非営利住宅に関する法律を制定し、アフォーダブル住宅に永続的に住めるようにしていくのです。住宅の質を担保することも重要です。ただし、法整備がいつ完了するのかについては現段階では明言できません。

― ベルリンでは、建設企業から住宅を取り上げ、地方自治体の手に委ねるかどうかを問う住民投票を求める請願書が出されています。これに共感するところはありますか?

問題は、家賃が物価と連動していることです。多くの人は家を借りる際、その物件が将来値上がりしてしまうかどうか、住宅の数も少ないのでわかりません。そんな人々を守るためには、規制が必要なのです。
しかしドイツのような法治国家では、企業から自由を取り上げるのは最後の手段であって、大々的に行われることはないでしょう。企業の補償コストが大きな負担になりますから。それに、そんなことをしても住宅数の増加にはつながらないでしょう。

― でも家賃は下がるのではないですか?

ベルリンでは専門家委員会を設置し、実現可能性の検証を進めています。私もその結果に関心を寄せています。いずれにせよ、公的部門ができる限り多くの住宅戸数を保有すべきということになるのでしょう。

― 都市社会学者のアンドレ・ホルムは、効果的な公営住宅政策として「スクワッター(不法占拠)」もあり得ると説いています。これに賛同されますか?

住宅を守り、住まいの新しい文化を試行するのも価値あることだと考えています。
私の出身地ポツダムにも、多くの不法占拠者がいました。ドイツ民主共和国(旧東ドイツの正式名称)の時代に放棄された建物の取り壊しを防ごうと、不法で住み着いた若者たちです。賃貸業者連合会の力を借りて、個人の所有物件を、共有スペースを広めにとった集合住宅へと変えた事例もありますからね。

HUK_Klara Geywitz_1
クララ・ゲイウィッツ Photo by Andreas Hornoff

By Benjamin Laufer
Translated from German via Translators without Borders
Courtesy of Hinz&Kunzt / International Network of Street Papers



*ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。

ビッグイシュー・オンラインでは、提携している国際ストリートペーパーや『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの良質の記事を翻訳して皆さんにお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

ビッグイシュー・オンラインサポーターについて


『販売者応援3ヵ月通信販売』参加のお願い
応援通販サムネイル

3か月ごとの『ビッグイシュ―日本版』の通信販売です。収益は販売者が仕事として"雑誌の販売”を継続できる応援、販売者が尊厳をもって生きられるような事業の展開や応援に充てさせていただきます。販売者からの購入が難しい方は、ぜひご検討ください。
https://www.bigissue.jp/2022/09/24354/



過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。