うわわオバケと私に見える世界(高橋紗都)

私は小さい頃からザワザワしたところや人の多いところなどが苦手でした。私に入ってくるいろいろな刺激(音や匂い、周りの激しい動きや目に映るもの)が多すぎるとしんどいのです。なので、私には幼稚園やレストランや遊園地も刺激が多すぎて、しんどいだけのところでした。

その頃は、お母さんは私の世界がどんな世界なのかよくわからなかったので、私の世界を知ろうとして、「幼稚園に行ったらどんな感じになる?」とよく聞いてくれましたが、私は小さいので自分のしんどい状態をうまく説明できなくて、「うわ〜っとなる」と説明しました。
 

するとお母さんは「うわわオバケ」というものを考えてくれました。うわわオバケは私がしんどい時に出てきて、たくさん出るほど疲れてクタクタになってしまいます。

うわわオバケは、いろいろな種類がいて13種類います。

音がしんどい時に出る「音うわわオバケ」、周りの動きや色が激しすぎる時に出る「動きうわわオバケ」や「色うわわオバケ」などがいます。そして、急なことや予測のつかないことが起こった時に出る「急にうわわオバケ」、対応できなくて固まってしまう「タンスうわわオバケ」などです。

うわわオバケは生活の中でのいろいろな場面で出てきてしまいます。
 

たとえば、ショッピングセンターに行く時では、車やバイクの大きな音など着くまでにもいろいろな刺激があり、ショッピングセンターでは、大きな音のBGMや雑音、明るすぎる照明や床に反射する光や景色、派手なポスターや色とりどりの物など刺激が多すぎて、うわわオバケがたくさん出てしまいます。そうなると、楽しむどころかしんどくなってしまうので、できるだけ行かないようにしたり、刺激の少ないお店を選んで平日に行きます。よくザワザワと騒がしいお店でも平気そうに楽しんでいるのを見ますが、私にはそれは考えもできないことです。
 

私は急なことや、予測のつかないことが起こった時は、「急にうわわオバケ」が出て困ってしまいます。

急に話しかけられても、「タンスうわわオバケ」まで出て固まってしまい、何も話せない時もあります。それと、頭では話したいことがあっても、何も話せない時もあります。話したいけれど、話せるような言葉にするのが大変で時間がかかるのです。

これは、私の頭の中には、その時話すのに必要な言葉や、必要のない言葉がバラバラになっていて、その中から必要な言葉だけを選んで話す順番通りに組み立てないといけないのです。

なので、私に話しかけた時は、「早く返事を」と思わないでゆっくり待ってほしいです。

私は自然が好きです。なので、山に行ったり草花や野菜を育てたりするのも好きです。自然には人工の耳ざわりな音も、目ざわりなものもないのです。自然には四季それぞれの違った音や香りや色もあります。美しい虫の声や木や草花が揺れる音などが混じった天然のオーケストラを楽しむことも好きです。梅雨の雨の日は一番美しいです。
 

植物のお世話をする時は、風に揺れた時や触った時などのひとつひとつ違う音や香りや感触や色を楽しみながらします。お水をあげる時は「水滴がキラキラ光ってきれいなぁ〜」、「お水をもらった植物たちはどんな感じなのかなぁ」など考えながらします。植物の音や香りや色は優しくて落ち着きます。

私は7歳からギターを習っています。きっかけはギター演奏のCDを聴き、そのメロディとギターの音色がとても気に入ったことです。ギターの音色は音の粒が多く、ふわ〜っと広がっていて、自然な音で優しい感じがしてとても好きです。

練習が終わると一緒に暮らしている2匹の猫と遊びます。犬は姿は好きなのですが、キャンキャンと鳴く声や激しい動きが苦手です。でも猫はゆったりとしていて鳴き声も小さく優しくて私に合っています。触るとフワフワしていて気持ちよくてリラックスします。

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植物の種をまくといろいろな双葉が出てきます。ハート形や長いのや丸いのなどみんな違っています。人もみんな違っているのです。私のことや私のような人のことを知って、きちんと理解してくれる人が増えて少しでも過ごしやすくなると、とてもうれしいです。

 
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著者プロフィール:高橋紗都(たかはし・さと)

1996年生まれ。幼い頃から草花や自然が好きで静かな環境を好む。騒々しい環境が合わないため、学校にはほとんど行かず、家でいろいろなことを学んでいる。7歳からギターを習い始める。9歳の時にアスペルガー症候群と診断される。現在(2009年)、市からの訪問学習サポートを週2回受けている。一番リラックスすることは、家で愛猫と過ごすこと。

(2009年11月1日発売のビッグイシュー日本版130号より転載)