原子力規制委員会は2022年10月5日、松山泰浩資源エネルギー庁電力・ガス事業部長を招き、原子力利用政策における運転期間についての意見を聞いた。
最大60年の運転期間にさらなる延長を加える案
原子力規制委員会は2022年10月5日、松山泰浩資源エネルギー庁電力・ガス事業部長を招き、原子力利用政策における運転期間についての意見を聞いた。
すでに20年の7月29日、山中伸介委員長は原子力規制委員会としての見解を発表しており、この日もその旨を繰り返した。同委員会の見解は、原子力エネルギー協議会(ATENA)と6回の会合を経てまとめられたもので、運転期間は「原子力の利用のあり方に関する政策判断にほかならず、原子力規制委員会が意見を述べるべき事柄ではない」とするものだ。
本誌442号で、脱炭素社会を協議する政府主導の「GX実行会議」に言及したが、その中でめざす課題の一つが原発の運転期間の延長であった。現状の最大60年運転の制限を取り除くのが狙いなのだ。山中委員長の発言は運転期間延長を容認したことになり、これを受けて、松山部長は利用政策の観点から「必要な法令の整備をしていく」と述べた。
運転期間をどのように延ばすかが今、経産省で議論されている。11月8日の原子力小委員会に諮られた案によれば、「現状のまま」「現状の上限を撤廃する」「停止期間を含めない」という3案で、委員の意見は「上限撤廃」の支持が多かった。しかし、同月28日には、将来の上限撤廃を含みながらも、当面は「停止期間を含めない案」にしたい旨の事務局案が示された。上限撤廃には立地自治体が懸念を表明。自民党と擦り合わせた結果の変更だ。
停止期間とは規制の変更に伴う停止とか自然災害による停止などの期間で、この分が60年にプラスされて延長されることなる。現状では福島原発事故とこれを受けた規制基準により停止している期間は60年に含まれず、すべての原発が60年超運転の対象となる。
設計寿命は40年
劣化していく圧力容器
それだけなら、現在の原子炉等規制法の改正で済ますことができるが、経産省は「必要な法令の整備」を行なうとしていることから、おそらく電気事業法の改正による整備だろう。現状では電気事業者が運転期間を延長する場合に規制委員会に申請し、同委員会の許可と自治体の合意が得られれば、40年超の運転が可能となるが、今後は、経産大臣の許可も必要になるということだ。運転延長が強要されることもあれば、廃炉を認める代わりに新型炉への建て替えが強要されることもある。これこそが経産省が狙う電気事業者への権限強化である。
延長を容認した規制委員会は運転期間30年を超える原発に対して、10年以内ごとに劣化の状況を評価し審査する方針だ。具体的な審査基準は今後詰めていくことになるが、運転50年までは現行の評価で進めるという。
しかし、現在の技術では機器の劣化、特に原子炉圧力容器の劣化の状況が正確には把握できない。圧力容器の劣化とは容器が中性子に晒されて脆くなっていく現象だ。どの程度脆くなったかを調べて、どの程度の使用に耐えられるかを予測する。その予測が不確かなのだ。この点は規制委員会も電力会社も認めている。今後の研究開発で精度は高まるとしているが、信頼に足る根拠はない。設計寿命といわれる40年運転を守り、廃炉を進めるべきだ。
運転期間を延長すれば、それだけ機器の劣化は進み、事故リスクが高まることになる。
(伴 英幸)
(2023年1月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 446号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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