原子力発電所の運転制限にかかわる条項を「原子炉等規制法(炉規法)」から経産省所管の「電気事業法」に移す計画について、前回(446号)の原発ウォッチで報告した。この計画について、経産省と原子力規制庁(以下、規制庁)の間で事前に綿密な協議が行われていたことが内部告発で明らかになった。もはや規制庁の独立性は失われたという他ない。
内部告発で明らかになった7回にも及んだ事前協議
内部告発は2022年秋に原子力資料情報室(以下、情報室)に届いた。そこには「来年の常会に提出予定のエネルギー関連の『束ね法 ※1』(経産省主請議 ※2)により、現在、炉規法に規定されている発電炉の運転期間制限を、電気事業法に移管。これに伴い、同束ね法により【高経年化対策に関する安全規制】を炉規法に新設」などと書かれていた。経産省審議会の原子力小委員会や規制委員会で議題となる前に、このような協議が両組織の間で行われていたのだ。
※1 複数の法案を1つにまとめて審議すること。
※2 経産大臣が発案し、閣議を通して国会に提出する。
情報室は、規制庁に事前検討に関する情報公開を請求した(昨年12月1日)が、規制庁は「事前に検討した経緯が存在しない」と否定し、情報公開請求の修正を求めてきた。事前協議をあくまでも隠蔽しようとしたのだった。
そこで、情報室は記者会見を主催して、この問題を公にした(12月21日)。規制庁は複数のマスコミ記者からの問いに事前に「面談」を行っていたことを認め、翌22日に報道された。規制庁は12月27日に記者会見を行い、この間の事前協議は7回にも及んでいたことを明らかにした。さらに「重要事項は委員長に報告している」とも発言。
政府の「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」が原子力発電所の運転期間延長に言及したのは第2回会合(8月24日)でのこと。しかし、規制庁記者会見資料では7月28日に「原子力発電所の運転期間の見直しに関して、経済産業省として原子炉等規制法を含む束ね法案の検討を開始した旨が伝達される」とある。GX実行会議に提案するために事前に根回しを行っていたのだ。原子力小委員会への提案は9月22日だった。
予測不確実なまま運転延長-重要ポストに経産省出身者
山中伸介・原子力規制委員長は朝日新聞のインタビューで、就任前に経産省などからの話は「まったくございません」と答えている。さらに記者会見の席上で「決めるのは委員会であり、事前に“頭の体操”をしていても問題ない」と開き直り、規制庁の対応を擁護する発言をした。規制庁は「面談」と表現しているが、「資料の修正を求める」など協議であることは明らかだ。
運転期間が延びれば、それだけ原子炉容器は中性子にさらされて脆くなる。その脆化予測式の確実性には在野の専門家から深い疑問が出されている。電気事業連合会によれば、この予測の精度を高めていくのは“今後”だという。予測が確実になってから運転延長を認めるのではなく、不確実なまま、原発回帰政策に沿って運転延長を認めることは、規制の独立性を放棄したと言える。
このような協議が安易に行われる背景には、規制庁職員の多くが経産省出身であることがある。現在の片山啓・規制庁長官や金子修一次長らは経産省出身である。また、協議を行っていた金城慎司・企画課長も経産省出身だ。金城氏は記者会見で、それぞれの役職者が経産省とパイプがあると発言していた。
規制庁長官の人事権は環境大臣にあり、経産省出身者を重要ポストに配置していることが根本的に問われなければならない。私たちは規制庁や規制委員会をしっかりと監視して発言していく必要がある。
規制庁長官の人事権は環境大臣にあり、経産省出身者を重要ポストに配置していることが根本的に問われなければならない。私たちは規制庁や規制委員会をしっかりと監視して発言していく必要がある。
(伴 英幸)
(2023年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 448号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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