環境省は福島原発事故で発生した汚染土を、東京都新宿区の新宿御苑の花壇で使用する実証事業を行うと発表した。そして、昨年12月21日に極めて限られた周辺住民に対して説明会を開催した。住民からはこの限定した進め方や事業の内容に強い反発が起き、今年1月24日には150人を超える参加を得て反対集会が開催され、「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」が発足した。



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東京・新宿御苑に隣接する四谷地域センターでの反対集会
写真提供:新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会

汚染土を使った農地再生、福島県内2ヵ所で実験中

持ち込もうとしている汚染土は福島県内の除染で回収されたものだ。環境省は除去土壌と呼んでいる。政府は事故を起こした福島第一原発の周辺に中間貯蔵施設を作り、汚染土は県内からそこにトラックで移送されている。政府はこの用地買収に際して、地権者ならびに福島県との間で、30年後までにすべて県外に搬出することを約束・法定した。用地確保を急ぐあまり、搬出先の自治体が見つかる見通しのないまま、法律に書き込んだのだ。

中間貯蔵施設用地として政府は昨年末時点で1280haを買収した。貯蔵容量は1400万m3で、2022年末時点ですでに1338万m3の汚染土が持ち込まれている。
県外搬出に向けて環境省はこれまで、1kgあたり8000ベクレル(放射性セシウム)以下の汚染土を全国の公共事業などで利用する方針を打ち出している。汚染土の4分の3はこれに該当するとしているので膨大な量だ。

搬出に先駆けて、これまでに2ヵ所で実証事業を行っている。一つは福島県の南相馬東部仮置場で、常磐線桃内駅から東に1.5kmのところにある。ここでは汚染土を1.5mほど積み上げ、その上に50cmの覆土を行い、環境放射線量率、大気ダスト、漏出雨水を観測している。観測は17年9月から始まり現在も継続している。もう一つは飯舘村長泥地区で、ここは汚染土を使った農地再生実証事業だ。花卉の栽培や野菜の栽培を行って、土壌から農作物へのセシウムの移行を調べている。

2ヵ所で事業計画が頓挫、各地で住民による反対の会

住民の反対で頓挫した事業計画も2つある。二本松市原セ才木区で農道の路盤材に使用する実証事業ならびに南相馬市小高区の常磐自動車道の拡幅工事での使用だ。

新宿御苑での計画では、面積30m2の敷地に1mの矩形の穴を掘り、汚染土6m3を50cmの厚さに敷き、上に50cmの覆土をして、花を植えるというもの。浸透雨水は集めて測定する。汚染土は終了後には搬出するというが、実証期間は明らかにされていないから、事実上の処分になる恐れが濃厚だ。
今回環境省が打ち出した新宿以外の実証事業は、埼玉県所沢市の環境調査研修所と茨城県つくば市の国立環境研究所で行われる。3ヵ所すべて環境省所管の施設である。住民説明会は今のところ前2ヵ所でのみ実施された。所沢市では12月16日に行われたが、近隣住民50世帯に案内が配られたのみだ。こちらは65m2の敷地に汚染土20m3を持ち込み、新宿御苑と同様の仕様で、芝生を植える。ここでも反対する会が設立されている。

これらの実証事業は無意味だ。なぜなら、住民説明資料に上記の実証事業で安全性に影響はなかったと明記しているからだ。環境省は実証事業への理解醸成活動を、数億円かけて外注する無駄遣いをしている。こうして各地で反対の会が設立される状況からは、理解が得られていないことが明らかだ。
そもそも、放射性物質は集中管理・処分が本来の対処のあり方である。政府は「拡散して薄めれば安全だ」という考えを改めるべきだ。(伴 英幸)




(2023年2月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 448号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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