有限会社ビッグイシュー日本では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、企業や学校から依頼を受け、講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、富田林市立中央公民館。市民に向けた「憲法月間行事」の催しとして、「なぜ人はホームレスになるのか?」をテーマに、ビッグイシュー日本大阪事務所長・吉田耕一と、販売者・吉富さんがお話させていただきました。


「自己責任で片づけていいのか?」社会のあり方に目をむけることが大切

はじめに吉田より、ホームレス問題の現状や雑誌『ビッグイシュー日本版』の販売の仕組みについてお伝えしました。

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吉田:「ホームレスの人に対して、”仕事せえよ”と思う方もいるかもしれません。たとえば、コンビニのアルバイトのように人手が足りないと言われている仕事でも、年齢や保証人がいないことを理由に、採用されないケースもあります。やる気や仕事の経験があっても、一度ホームレス状態になってしまうと、ひとりで元の状態に戻ろうとしてもなかなか難しい。こうした社会的な壁があることを知ってもらいたいと思います。」

(参考:ビッグイシュー販売の仕組み

吉田:「いま日本では、生活保護水準以下の収入で生活している世帯が705万世帯、生活保護受給者数は210万人、子どもの7人に1人が貧困状態にある家庭で育っていると言われています。周りからは見えにくいかもしれませんが、貧困状態にある層は拡大しています。こうした社会の状況を『自己責任』で片づけるには、数字が大きすぎるのではないかと思うんです。社会のあり方に目を向けていくことが必要だと思います。」

路上生活は、ものを盗られても”構わない“のではなく、”仕方ない“環境

近鉄生駒駅で販売している吉富さん。出身は長崎県で、兼業農家の家庭に生まれました。小学生時代から『チック症候群』の症状が出始め、無意識に体が動いてしまう痙攣の症状と付き合いながら過ごしていたそう。商業高校を卒業後、陸上自衛隊に入隊。退職後は、ブロック工場→土建業→スーパーの正社員→農業など仕事を転々とします。神奈川県で土建業の派遣社員として働いていたあるとき、業務中にチック症状が現れたことをきっかけに、職場と折り合いがつかず、退職に至りました。

(参考:吉富さんの体験談

「新宿のほうに行けば仕事があると思って、歩くことにしたんです。その時の所持金は2000円くらいだったかな。」

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こうして新宿に到着した吉富さんでしたが、建築業の日雇い労働者を求めて声をかける”手配師“に仕事をもらおうとしてもうまくいかず、収入を得る手立てがないまま路上生活に至ったといいます。路上生活を続けるうちに、雑誌『ビッグイシュー日本版』の存在を知り、東京で販売を始めました。大阪に移ってからも販売を継続し、コツコツお金を貯め、現在はアパートに入居して生活しています。

吉田:「販売を始めてよかったことはどんなことですか?」

吉富さん:「人と話せること。1人でいると、どうしてもあまりいいこと考えないけど、そんなときお客さんに“頑張ってね”と言われるとほっこりします。あとは、自分で販売の仕方や目標を決められることかな。」

吉田:「大変なこともありますか?」

吉富さん:「決めつけられているような言葉をかけられるのは辛いですね。 昔は『もうホームレスやないんやったら、(雑誌を)買わんでいいやん』と言われることもありました。今はそうした言葉も少なくなってきていますね。ちょっとずつ理解が広がっているのか、変わってきたかもしれないなと思います。」

吉田:「販売において、工夫していることはありますか?」

吉富さん:「お客さんとの関係も、人と人との関係だと思ってるので、『こんにちは』とあいさつするとか、そういう言葉の使い方も意識しています。あとは普段から小綺麗に見えるように気をつけています。特に、袖口が汚くないか気にしたり、手洗いをこまめにして爪を綺麗にしていますね。」

吉田:「路上で寝るときと、家で寝るときではどんな違いがありましたか?」

吉富さん:「家で眠るのは、やっぱり安心感がありますね。路上は怖いというより、安心できない。荷物を盗まれても”構わない“のではなく、”仕方ない“という環境でした。それに慣れてしまうのも怖いなと。僕はビッグイシューの販売を続けながら路上生活をしていた時期があったんですが、一度財布盗られてしまった時、初めて『ステップハウスに行きたい』と思い、スタッフに相談しました。怖くなったんです。」

(参考:認定NPO法人ビッグイシュー基金の運営するステップハウス事業について

ホームレス経験者のお話を聞くことは、普段まずない体験。吉富さんの話に深く頷き、真剣に聞き入っている人もいました。

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オリジナル講談を披露する吉富さん

また、吉富さんは、ビッグイシュー販売者のクラブ活動である「講談会」のメンバーとして活動しています。特技であるオリジナル講談を披露するコーナーでは、会場から大きな拍手が沸きました。

市民からの質問「路上生活者に対して、行政はどうあるべきだと思いますか?」

後半は、吉富さんと吉田への質問コーナー。たくさんの率直な質問が上がりました。その一部をご紹介します。

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Q.よくビッグイシューを購入するのですが、女性の販売者を見かけたことがありません。
女性の販売者の方もいらっしゃいますか?
また、女性の方にはどういったサポートがあるのでしょうか?


吉田:「僕は20年ほどこの仕事をしていますが、大阪ではこれまで4名の女性の販売者さんがいました。うち1名は今でも販売を続けています。女性の野宿はリスクが高いので、私たちも優先的に支援団体に相談し、野宿にならないようにできるだけサポートしています」

Q.吉富さんはアパートに入居しているそうですが、ホームレス状態ではないのでしょうか?
他の仕事をすることは考えていないのですか?


吉富さん:「僕は15年ほどビッグイシューの販売をしてますが、今まで3〜4回、他の仕事に就こうとしたこともありました。その度にチック症状が出てしまって、うまくいかないことが多かったんです。」

吉田:「”ホームレス状態“というと、野宿している人と思われがちですが、私たちは路上生活一歩手前の、住まいや仕事が安定しない生活困窮の状態も広義のホームレス状態と言えます。高齢になってきてなかなか就職につながりにくいケースも多いので、ご本人にとって1番いいタイミングで就職活動を進めていくようサポートしています。」

Q.医療面では、どのような支援がありますか?

吉田:「貧困状態にある方々のために、無料低額診療事業という制度があり、その事業を実施している病院と連携して、医療につなげることができています。ただ、より専門的な治療が必要となると、治療が長期にわたることもあり一度生活保護を受けて治療に専念できるようにサポートしています。」

Q.これまで、路上生活者を強制的に追い出すような行政の対応が気になっていました。
行政のあり方を、どう考えていますか?


吉富さん:「そうですね。行政には、寄り添ってほしいと思いますね。干渉されるのが苦手な方もいると思いますが、あいさつをするとか、みんなで見守るような社会になってほしいと思います。」

「ホームレス状態になっても、何度でも復帰できる社会になればと思った」

今回の参加者は約40名。参加者の皆さんは、今回の講義をどのように受け止めたのでしょうか?感想の一部をご紹介します。

「ホームレス状態になる理由は様々であることがわかりました。ホームレスは、人をあらわす言葉ではなく、状態をあらわすと知りました。」

「本当に困った人を助けてもらえるところがあると思うと安心しました。」

「ステップハウスの存在を知ったこと(が印象的。)こうした施設が多くあれば、空き家の多さを活用できればと思う。」

「ちょっとしたことでホームレス状態になることがわかりました。しかし、そうなったとしても何度でも復帰できる社会になればいいと思います。」

など、ビッグイシューの活動内容を理解したという声や、社会のあり方に目を向けるような感想もありました。

今回、講演会を担当された葉山さんは、「公民館の機能として、市民が趣味だけではなく、新しいことを学べるような機会を提供することも大切だと考えています。公民館の運営費用は税金ですし、市民に還元できるように中央公民館独自の取り組みとして憲法月間行事を毎年企画しています。憲法というと、いろんな社会課題が関わってくると思いますが、そのなかでもホームレス問題について知ってもらいたいと思い、今回の企画に至りました。」と、市民に対する思いや、公民館の役割について語ってくださいました。

取材・記事作成協力:屋富祖ひかる


格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/ 



参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」



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より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。

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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。