英政府の発表によると、簡易宿泊所(宿舎、ホステル、B&Bなど)で生活している人の数が、1998年の統計開始以来、最大に達した*1。2023年3月の統計で、10万4,510世帯(13万1千人の子どもを含む)が、簡易宿泊施設で生活していることが明らかとなったのだ。デ・モントフォート大学教授で住宅・社会インクルージョンを専門とするジョー・リチャードソンが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。
 

*1 Numbers in temporary accommodation in England hit record

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Yau Ming Low/iStockphoto

公営住宅より民間賃貸が主流に

この数字は、複合的な要因の結果だ。アフォーダブル住宅(手頃な価格帯の住宅)の供給がまったく追いついておらず、今や、公営住宅の順番待ちリストには120万以上の世帯が名を連ねている。にもかかわらず、公営住宅の建設数は、2010年の3万9,562件から2022年には7,644件と減少し続けている。 その一方で、政府データによると、2020年以降の民間賃貸住宅の規模は、およそ2倍に膨らんでいる。公営住宅よりも民間賃貸が増えている昨今の事情が、より多くの人々に影響を与えており、とりわけ若者への風当たりが厳しい。

2020年3月、英政府は新型コロナウイルスの感染防止策として、路上生活者たちを“路上脱出”させる対策に資金を注ぎ込んだ。「エブリワンイン(Everyone In: みんな中に)」と呼ばれた公衆衛生上の介入策により、2020年度のホームレスの数は37%減少、2021年にはさらに9%減少した。必要な資金調達と政治的支援があれば、自治体ならびに公営住宅業者は、住まいのない人たちの生活を大幅に改善できる――長年、研究で示されてきたことを裏付ける結果となった。

宝くじ化している住宅事情

BBCの最新分析によれば、民間賃貸部門の競争率が高まっており、いまや1件の物件を20人で競い合っている状況だという*2。2019年以降、需要は3倍になっている。

*2 Renters compete with 20 others in battle to find a home

イーブニング・スタンダード紙が入居希望者たちに話を聞いたところ、物件にかびが生えていた、提示された賃貸料より150〜200ポンド(約3万円)上乗せして支払っている、不利な中途解約条項で賃貸しているなど、ロンドン市内の需要過多ぶりを示す声が多数聞かれた。賃貸物件を探す、その過程で何かしらの差別を受けることはメンタル的にもきつく、「提示された条件を受け入れなかったら、大家はそれ以上を払える誰かを探し出すだけ...こちらは無力なものです」と語る者もいた。

だというのに、住宅給付金の算出に用いられる住宅手当レートは、2020年以降変化しておらず、同時期に20%も上昇した市場価格とかけ離れたものとなっている。2023年7月、レベルアップ・住宅・コミュニティ省のマイケル・ゴーヴ大臣は、住宅建設を推進する手段として、「都市の再生とインナーシティ(大都市の周辺に位置し、住宅・商店・工場などが混在する低所得地域)の復活」を優先するとの構想を発表した。これはつまり、地方で使われていない土地を活用するよりも、都市再生への資本投入を進めるということで、これでは、地方で暮らす人々が直面している住宅問題はいっそう悪化するだろう。地方や沿岸部では、観光業やセカンドハウスブームの影響により、手の届かない価格帯の物件ばかりが増え、“隠れたホームレス問題”(公式ホームレス統計ではカウントされない)を引き起こしているのだ。公営住宅の順番待ちリストに名を連ねる数百万人のニーズに応えるには、公営賃貸住宅の建設を増やしていくべきだが、ゴーヴ大臣はその件には触れなかった。

アフォーダブル住宅や賃貸物件が不足すれば、ホームレス問題はさらに広がりうる。先のエブリワンインキャンペーンにより、政府はホームレス問題への対処法はあることを実証したというのに、2022年の路上生活者の数は、2021年より26%増加した。

庶民院図書館の2023年3月の発表では、“2024年までに路上生活者を根絶させる”との政府目標を達成させたいなら、以前から研究で示されているとおり、「長期的戦略、党派を超えた取り組み、そして長期的な資金提供」を進めるべきで、抜本的な行動を取らないことには、目標達成は難しいだろうと指摘している。

若者の間で深刻化している住宅不安

特に懸念されているのが、「若者のホームレス問題」だ。複数の慈善団体(Homeless Link, New Horizon Youth Centreなど)が照合したデータによると、2022年、自治体に住まいへの援助を求めた若者は12万9千人に上った。これもまた、人々の目に触れにくい問題である。若者は友人宅に居候したり、不安定な環境で生活していることが多い。社会からは自分ひとりで生活できるだろうと考えられているが、実は、自分で住まいを見つけられるほど“大人”ではないのだ。

特別な事情(家庭内暴力に遭っている証拠がある等)がないかぎり、住宅給付は「共同住宅レート」が上限となっている*3。「ジェネレーション・レント(generation rent)」と呼ばれる若者たちは、住宅の不平等がもたらす影響、ならびに民間賃貸部門で直面する諸問題について運動を起こしている*4。

*3 民間賃貸住宅で暮らす35歳以下・子なしの独身者は、通常、「共同住宅」に住んでいるとされ、住宅給付やユニバーサルクレジットを算出する際に、当該エリアの共同住宅の家賃(共同住宅レート)を基に最大金額が設定される。

*4 経済的な事情で持ち家の夢をあきらめた現代の若者たちを指す。住宅危機から人々を守る団体SHELTERによる運動:https://england.shelter.org.uk/support_us/campaigns

2022年、エブリワンインキャンペーンの実施効果について調査したところ、自治体・公営住宅業者・医療・慈善団体・民間部門に適切な資金提供と支援がまわれば、諸団体は速やかかつ効果的に協力・情報共有し、結果を達成できることが明らかとなった。

国レベルで最も重要なことは、アフォーダブル住宅をしっかり供給していくという政治的意思である。そのためには、政府が長期的戦略を持って、継続的に資金投入する必要がある。これがうまくいかなければ、「ホーム」と呼べる場所があることが社会にとっていかに重要であるかというパンデミックの経験から得られた学びも、意味を失ってしまうだろう。

By Jo Richardson
Courtesy of The Conversation / International Network of Street Papers



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