米オハイオ州トレドにある「アビリティ・センター」は、“米国一の障害者に優しい街”を目指し、障害者一人ひとりの真の情熱を大切にした自立支援、そしてコミュニティの障害者の受け止め方を変えていく活動を展開している。2021年末にアビリティ・センターの新代表となった障害当事者でもあるスチュアート・ジェームズに、地元のストリートペーパー『トレドストリート』が話を聞いた。
アビリティ・センターの新代表になる以前、ジェームズはカリフォルニア州バークレーのインデペンデント・ラーニング・センター(CIL)の責任者を7年間務め、障害者の自立生活運動を率いていた。真のインクルーシブ社会を目指し、CILのビジョンや多様なプログラムを打ち出し、組織への寄付金を約3倍に増やした実績を残している。
Photos courtesy of The Ability Center
「私は、障害者の自立生活の実現に強い思いを持っています。やみくもにサービスや支援を提供しても、方向性が明確でなければ、なかなかよい結果は出ません。私たちに必要なのは、一人ひとりに現実的な目標を設定し、その目標に近づけていると理解でき、そのために何をすべきかを共に考えられるようにすること。そうすれば、意味のないことに多大な時間をかけずにすみます」
アビリティ・センターからは数多くの成功事例が生まれている、とジェームズは言う。「二分脊椎を患い、車椅子生活を送る青年には、整備士になりたいという思いがありました。センターとして奨学金を提供し、ボーリング・グリーン州立大学でエンジニアリングを学べることになりました。彼の専門が活かせるよう、今も、さまざまな人脈に働きかけているところです」
アビリティ・センターの大学奨学金プログラムについて(英語)
https://abilitycenter.org/college-scholarship/
トレドでは(バークレーよりも)意欲的な成長を促す取り組みが受け容れられている、とジェームスは感じている。以前は、より多くの社会的プログラムを提供し、より多くの当事者が利用することが強く求められていた。そのアプローチに反対するわけではないが、支援数ばかりを目的にしても問題の解決にはならないとジェームズは考える。「対応件数と実際の成果と、どちらが大事なのでしょう? たとえ300人を支援しても、その人たちがまた同じ支援を求め続けるのなら、それは本当に助けになっているといえるのでしょうか? 国の書類に単にチェックマークを入れているだけでは? 数十人レベルであっても、障害者が実際に路上生活から抜け出せるよう支援するほうがよくありませんか?」
コミュニティの受け止め方を変えていく
「障害者が置かれている状況について理解してもらうことがこのキャンペーンの目的です。政府関係者向けにプレゼンしていても、本当の意味で私の話を理解してもらえていないと感じることがよくありますからね」
「4歳になる双子と買い物に行った店内で、別の客が『大人の同伴がない』と店員に言いに行きました。そばにいた私を父親とは思わなかったのでしょう。キャンペーンでは、こうした先入観を解消していきたいのです」
Photos courtesy of The Ability Center
障害者には圧倒的に貧しい人が多いとも思われがちだが、必ずしもそうではない。「裕福な障害者も大勢います。企業と話すときにも、障害者に利用してもらいたいなら、店舗のアクセシビリティ(障害者の利用しやすさ)を向上すべきです、と話してます」
しかし、変化を起こすには時間がかかる。トレド市ではこの度、レストランやバーがテレビをつける際に字幕を出すようにとの条例が可決されたが、コストもかからないこの対策に商工会議所は難色を示しているという。
高いレベルのアクセシビリティを実現している街として、ジェームズはテキサス州オースティンやオレゴン州ユージーンの名を挙げた。また、歴史の浅い街では、古い街を変えようとするより最初からアクセシビリティを意識した街づくりがしやすいし、コストもずっと安くつくとも。
アビリティ・センターでは個人の支援のほか、障害者の権利に関する法律(障害を持つアメリカ人法、公正住宅法、高齢者および障害者向け公的医療保険制度「メディケア」など)の遵守を目指す官民パートナーの支援も行っている。
地元パートナー団体の存在が不可欠
都市のあり方を変えるには地域のパートナーの存在が不可欠だ。幸い、アビリティ・センターは多くの団体と提携関係を結んでいる。トレドを“米国一の障害者に優しい街”にするというセンターの目標達成に向け、トレド美術館、トレド動物園&水族館、トレド交響楽団、イマジネーション・ステーション科学博物館などが強力なパートナーとなってくれている。公園管理組織「メトロパークス・トレド」も、市内の公園のアクセシビリティ向上で協力してくれている。「マウミー・リバーウォークのテープカットに参加しました。車椅子でもアクセスできるよう広い舗装路ができ、土手に生い茂った雑草に邪魔されずに川を眺められるようになりました。すばらしいプロジェクトです」。メトロパークスのスタッフたちが、障害者も参加できる木登りイベントを実施したこともある。
アビリティ・センターでは、屋内・屋外で行うさまざまなレクリエーション活動を通して親睦の輪を広げてもらうことにも力を入れている。前述の公園プログラムの他にも、学校や他の施設と協力し、車椅子バスケットボールやホッケー、ラクロスなどのリーグ戦の機会を提供している。ジェームズ自身もラクロス選手で、指導経験もある。
さらには、非営利団体「チェリー・ストリート・ミッション」や弊誌『トレド・ストリート』とともに、ホームレス支援にも取り組んでいく意向だ。「ホームレス状態にある人々もコミュニティの一員です。路上で生活している人がいたら、家族のように助けなければ。どうすれば助けられるのかを一緒に考えていきましょう」
障害者に優しい街づくり「Think Differently Then Act! 」キャンペーン趣旨
トレドの街空間が「完全にアクセシブル」とみなされるには、まだ長い道のりがある。アクセシビリティやインクルージョンが優先事項となるよう、事業主、地域の人々、自治体の責任者たちと確実な話し合いを進めていく必要がある。
あなたが依頼した弁護士は車椅子に乗っているかもしれない、公園で遊ぶ親子は視覚障害者かもしれない。障害のある人ができることについて、人々のとらえ方を変えていけば、街の公的空間やコミュニティ活動がおのずとアクセシブルかつインクルーシブなものになっていくだろう。
アビリティ・センター
https://abilitycenter.org
By Ed Conn
Learn more at abilitycenter.org
Courtesy of Toledo Streets / International Network of Street Papers
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