認定NPO法人ビッグイシュー基金では、会社や学校などからのご依頼を受け、ホームレス問題やビッグイシューの活動への理解を深めるための講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、大阪府立豊島高等学校。認定NPO法人ビッグイシュー基金スタッフの野村と、販売者・Iさんがお話させていただきました。
“ホームレス”って誰のこと?定義によって支援の対象が変わる
はじめに野村より、ホームレス問題について解説しました。1.ホームレスは状態を表す言葉
野村から高校生の皆さんへ「“ホームレス”と聞いて、どんなイメージがありますか?」と問いかけると、「貧しい」「仕事がない」「家がない」という声が上がりました。
一般的に“ホームレス”という言葉を聞くと、「暗い」「汚い」「仕事をせず怠けている」といったイメージを持たれがちですが、ホームレス状態に至るまでの背景は人によって様々です。
野村は「ホームレス状態にある人にも、いろんな人がいます。イメージで一括りにできるものではないので、“人生の一部としてホームレス状態を経験したことがある人”と考えてもらいたい」と、“ホームレス”という言葉は、人柄を表すものではなく、“状態”を表す言葉であるとお伝えしました。
2.ホームレスの定義と支援の対象について
厚生労働省の調査によると、全国のホームレス数は年々減少傾向にあります。しかし、この調査に含まれれているのは「都市公園、河川、道路、駅舎などで野宿をしている人」に限られており、ネットカフェやドヤ(安価な簡易宿泊所)、知人の家など不安定な居住環境を転々としながら生活している人や、社員寮やシェアハウスなど居住権を失いやすい住まいで生活している人は含まれていません。
ビッグイシューでは、こうした不安定な居住環境での生活を余儀なくされている人も、広義の「ホームレス」として、さまざまなサポートが必要であると考えています。
野村「ヨーロッパなどでは依存症の回復施設で生活する人や、児童養護施設で生活する子どもたちも、ホームレス状態になる可能性が高いとして、それぞれの国では公的支援の対象となる例もあります。“ホームレス”の定義によって、支援対象の範囲が変わるため、定義はとても重要だと考えています。」
3.ホームレス状態からもう一度立ち上がるには、社会構造の壁がある
ある日突然ホームレスになる人は少数派。ホームレス状態に至るまでには、リストラや介護、・病気、依存症など、さまざまな事情での離職をきっかけに、家を失い、頼れる人がいなくなる…というように、だんだんと路上生活に至るケースがほとんどです。
野村は「ホームレス問題は、“本人の自己責任だ”と片付けられることがよくあります。ですが個人の事情だけではなく、周囲の環境や社会構造が関係していることも多いんです。」と解説。
「ホームレスの人、早く仕事をすればいいのに」と思う人もいるかもしれませんが、一度ホームレス状態になると、仕事に就くのも簡単ではありません。
住所がなくなり、住民票や運転免許証などの身分証もない、連絡先や保証人がいないなどで、アルバイトも採用になりにくい場合がほとんど。また、仕事に就けたとしても、多くの企業は給料後払い制であり、働いた分のお金がもらえるのは1か月以上先というのも珍しくありません。給料がもらえるまでの生活費を賄えないことで、就職を諦めてしまう人もいます。収入が得られない状態が続くと、一人で立ちあがろうという気力や体力が残されていない人が多い現状も。
こうした、本人の事情だけではない社会的な構造が、自立を目指す人にとって大きな壁となっていることを解説しました。
ホームレス問題は社会全体の問題。どんな立場の人も一緒に考えることが大事
認定NPO法人ビッグイシュー基金の母体となる有限会社ビッグイシュー日本では、雑誌「ビッグイシュー日本版」の販売の機会の提供を通じて、ホームレス状態にある人でも収入を得られる仕組みを作っています。基金ではこうした雑誌販売者の仕事の応援を含め、ホームレス状態にある人が自立・自活するためのプログラムを提供しています。1. ホームレス状態にある人の生活自立応援
ホームレス当事者に、住宅、集合、福祉制度や医療制度、法律に関する相談機会を提供し、必要な時には不動産屋や関係機関窓口への同行支援なども行なっています。
『路上脱出・生活SOSガイド』を発行し、夜回り活動や炊き出しなどへ参加し配布するなど、必要な人に情報が行き渡るよう活動の輪を広げています。
また、衣食住の支援だけでなく「楽しむ」ことも大事にしており、当事者やビッグイシュー誌販売者を中心としたクラブ活動も積極的に応援。講談部やフットサルチーム、鉄道部や茶道部、「歩こう会」など多彩な活動がひろがっています。
2. ホームレス問題解決に向けたネットワークと政策提案
民間の大家さんや、支援団体、自治体などと連携し、ビッグイシュー基金が借り受けた空き家や使用許可を得た公営住宅を短期間利用できる住居として当事者に提供し、自分名義のアパートを借りるまでの準備をサポートしています。
また、2020年には米国コカ・コーラ財団からの助成により、ホームレス状態にある当事者や、コロナ禍を機に生活困窮に至り住まいの確保が困難になった人がアパートを借りるための初期費用をサポートする事業(おうちプロジェクト)も行いました。
参考 ステップハウスについて
参考 あまやどりハウスについて
参考 おうちプロジェクトについて
3. ボランティア活動と市民参加
ホームレス問題は、あらゆる社会問題とつながる問題。解決するためには支援団体だけではなく、市民の力も重要だと考えています。当事者や支援団体が市民と交流する場をつくり、市民参加を促す活動を積極的に行なっています。
野村は、「現代社会のなかでは、収入が多い人と、充分な収入が得られない人の偏りが生まれやすく、まるで不安定なシーソーのように“誰かがお金を得ると誰かが貧しくなる”という構造になりやすいのが現状です。1つの社会問題の周辺だけを見てそれを解決しても、反対側に新しい問題が生まれるかもしれません。だからこそ、ホームレス問題を社会全体の問題としてみんなで考えていくことが大切だと思います。ビッグイシューが大事にしているのは、“市民参加”の考え方。“社会の問題を社会がどう考えていくか?”いろんな立場の人が一緒に考えることが大切だと思います。」と活動への市民参加の大切さを訴えました。
販売者Iさん「ビッグイシューの販売を続けられているから、就職を考えられるようになった」
続いて、販売者・Iさんの体験談を語るコーナー。Iさんは、関東ののどかな地域で生まれ育ち、ごく普通の家庭で育ったそう。少年時代は、コミュニケーションや勉強はあまり得意ではなかったそうですが、友人もいて楽しく過ごしていたと振り返りました。Iさんの転機は、高校卒業後に就職した大手メーカーでリストラに遭ったこと。職を失い、再就職をしたくても非正規雇用での募集が多く、安定した仕事に就くことは難しかったといいます。そのうちに同居していた両親とも関係が悪化し、家を出ることになりました。しばらくは貯金を持ってネットカフェなどを転々とした生活を続けたそうですが、所持金が尽きて路上生活に至りました。
野宿生活を続けていた時、ホームレスの仲間がおにぎりと一緒に『路上脱出・生活SOSガイド』を渡してくれたことを機にビッグイシューを知り、販売を始めました。
野村「ビッグイシューの販売を始めて変わったことはどんなことですか?」
Iさん「月6万円ほどの収入が得られるようになって、路上生活でも食べていけるようになりました。そこから、ステップハウス事業やおうちプロジェクトを利用して、今は自分名義のアパートの部屋を借りて生活できています。」
野村「今後の目標はありますか?」
Iさん「ビッグイシューの販売は、自分に合っているなと思うんです。何日働くとか、何冊売ろうとか自分で決められる。そういう生活を続けてきて、最近は“ビッグイシューの販売を卒業して、就職も考えないといけないな”と考えるようになりました。」
野村「Iさんのこれまでの話を聞いていると、これまでは仕事を探すときに“これは苦手だから仕事は難しい”と考えがちだったのかなと思います。でも雑誌販売を始めてからはは“自分にはどんな仕事ができるんだろう?”とポジティブに考え、それをやってみるための環境を自ら整えていらっしゃるような印象があります。」
最後に生徒のみなさんへ、Iさんから「僕は父親が倒れて最終的に病気で亡くなってしまいました。一度会うことはできたんですが、親孝行が全然できなかったと思っています。みなさんはもっと先の話かもしれませんが、“もっと親孝行しておけばよかった”などと、後悔するようなことはあってほしくないなと思います。」と真摯なメッセージを送りました。
高校生からの質問「Iさんの夢はなんですか?」
事前に寄せられた皆さんからの質問に答えるコーナーでは、Iさんへ「夢はなんですか?」という質問が。これに対してIさんは、「簡単なことではないと思っているんですが、夢としては家庭を持つことです」と回答しました。さらに、野村へ「ビッグイシューの仕事を通じて、嬉しいことや悲しいことはどんなことですか?」と質問が上がりました。
野村は「当事者を含めてみんなで活動を作っているなあと感じる瞬間が嬉しいです。例えば今日Iさんが一緒にこの場に来てくれて私と一緒に皆さんに話をしてくれているということも、とてもうれしく思っています。
一方で日々色々な状況の方に対応するので、例えば事務所に来てくれた当事者の方に当面の食糧を渡すだけの対応になることもあり、『これでどうなるのか』と思うこともありますがそういう時は悲しいというより、考え込むこともあります。」とお伝えしました。
生徒さんからの感想―知識だけでなく「考えることが大切」
授業後にいただいた生徒さんからは「怠け者だと思っていたけれど自分の考えは誤っていた」といった声や「知識を持つだけではなく考えることが大切」といった心強い声をいただきました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。