戦争は、軍人・民間人問わず甚大な犠牲者を出す。何百万人もの人が、遺族の悲しみ、負傷者の不安、家を失う不安を抱えることになる。人間が負う苦しみの前では、戦争が気候や環境にもたらす影響は見過ごされやすい。だが実際のところ、武力紛争が温室効果ガス排出に占める割合は異常なほど高いことをご存知だろうか。独コンスタンツ大学で気候問題について教鞭を執るラルフ・ロシュラウが『トロット・ヴァー(Trott-war)』誌に寄稿した記事を紹介しよう。  

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Alexthq/iStockphoto

1950〜2000年の間に世界各地で勃発した大規模な武装紛争。その80%以上が、「生物多様性ホットスポット」と呼ばれる動植物種の数が非常に多い場所で起きていることが分かった。戦争は、人命だけでなく環境をも破壊しているのだ。

これまで、戦争に関する情報というと、死亡者数・負傷者数、建物の破壊、国外退去など、人的被害に関するものがほとんどで、爆撃によってどれだけの森林が燃えたかや、戦車から土壌に漏れた油の量までは明らかにはされてこなかった。ところが今、戦火の中にあるウクライナで、研究者、環境保護団体、およびウクライナ環境保全・天然資源省が、戦争がもたらす環境被害の継続的かつ包括的な記録をすすめている。環境被害を報告するためのホットラインも開設し、環境被害がどこでどれくらいの程度で発生しているかがインタラクティブな地図に入力されている。

欧州拠点の研究グループ「戦争による温室効果ガス報告イニシアチブ(Initiative on GHG Accounting of War)」が、ロシアのウクライナ侵攻が気候および環境にもたらした損害を算出したところ、1ヘクタール以上の規模の火災の数は戦争前と後で36倍にも増えていた。戦争の前線付近で発生したものもあれば、森林地帯まで広がったものもある。 また、戦争関連の温室効果ガス排出は、戦争開始からの1年間でCO2換算で1億2千万トンと見積もられている。これは2019年、EUで7番目に温室効果ガス排出量が多かったベルギーの年間総排出量とほぼ同じレベルだ。戦争による燃料消費、弾薬の使用、火災、インフラ破壊、そして戦争後の復旧活動が温室効果ガス排出報告書に明示的に言及されることはこれまでなかった。

環境被害の包括的な記録が進む

当調査の研究者たちは「東側に攻撃的な隣国がある限り、抑止力としての大規模な再軍備もやむを得ない」とも述べているが、軍事増強には温室効果ガス排出量の増加をともなう。破壊されたインフラ再建で排出量はさらに増える。すでに進められている復旧活動から生じる温室効果ガスは、戦争一年目の総排出量の約42%を占めている。その原因は、炭素集約型*1のコンクリートや鋼材を多く使用することにある。

*1 エネルギー消費量あたりの温室効果ガス排出量が高い。

カホフカダムの破壊だけでも環境被害額は約14億ユーロにのぼる、とウクライナ政府は見ている。また、数トンもの石油がドニプロ川に流出し、黒海まで流れ着いた地雷もある。破壊されたダムは、ウクライナ戦争における最も壊滅的で環境破壊の顕著な一例であるが、報告書では、より表に出にくい温室効果ガス排出事例にも光を当てている。戦争によって排出される温室効果ガスのうち2番目に多いのが、ディーゼルやガソリンなど化石燃料の使用によるものだ。地上戦が中心のウクライナ戦争では、ディーゼル燃料の燃焼によって発生するCO2排出がほとんどだが、かつてのイラク戦争のように航空戦が中心の場合はケロシン(石油製品の一種)の燃焼によるものが主となる。

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Photo courtesy of UX Gun

戦争によって脅かされる世界的気候目標

継続中の紛争における温室効果ガス排出量の計算は容易ではない。そこで研究者たちが着目するのは、世界的な軍事活動に関するデータである。米国の非営利団体「ティッピング・ポイント・ノースサウス(Tipping Point North South)」の専門家たちは、化石燃料依存型の主要軍隊が世界的な温室効果ガス排出の約5.5%を占めていると試算する。世界最大規模の米軍は、スウェーデンやデンマークといった国々の、一国全体を上回る温室効果ガスを排出している。2017年にすでにこの事実を確認していた専門家たちは、軍事活動と、それによる人類、気候、環境に与える悪影響を減らすよう求めているが、紛争下にある人々や地域ではまさにその逆のことが起きている。

2020年、世界の富裕国が軍事費に投じた資金は、気候対策に拠出したものの6倍以上にのぼる。ベトナム戦争での枯葉剤や、湾岸戦争での油田火災など、過去の戦争で私たちが目にしてきたことは氷山の一角にすぎず、莫大な被害がまともに記録されてこなかった環境は「物言わぬ被害者」だった。今回の報告書によって、ウクライナ戦争による環境破壊、戦争がもたらす地球規模の影響が明らかとなるだろう。

By Ralf Roschlau
Courtesy of Trott-war / INSP.ngo
Translated from German via Translators Without Borders

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