岸田文雄首相は2024年3月28日、「2024年度中を目途とするエネルギー基本計画改定に向けて、議論を集中的に行う」ことを表明した。「エネルギー基本計画」(エネ基)とは日本の中長期のエネルギー政策の基本的な方向を示すもので、3年に1度改定される。私たちはこのエネ基にどのように向き合えばいいのだろうか。







(この記事2024年5月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 478号からの転載です)

原発再稼働と新設めざす日本
しかしコストは太陽光の3倍

昨年、日本政府は「GX実現に向けた基本方針」を策定した。GXとはグリーントランスフォーメーションという和製英語の略で、「脱炭素社会を目指す取り組みを通じて経済社会システムを変革させ、持続可能な成長を目指すこと」だという。GXでは原発の積極利用方針が打ち出され、原発再稼働だけでなく、将来の原発新設も目標に据えられた。23年の「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」では、米英日など25ヵ国が2050年までに原発の設備容量を現在の3倍にするという共同宣言を発表した。原発を気候変動対策に用いようというのだ。

東電福島第一原発事故から13年、事故のことなど忘れたかのように原発利用に前のめりだ。だが現実はまったく違う。世界の発電電力量に占める原発シェアは1996年の17.5%をピークに2022年現在9.2%まで低下した。この数字が増加に転じることは期待できない。なぜなら、原発は時間がかかる上に発電コストが高いからだ。原発は計画から運転開始に至るまで約20年というものも珍しくない。再エネが1年~数年程度で運転開始できるのに比べるとはるかに長い時間が必要だ。その分、脱炭素は遠ざかる。また米国の金融機関ラザードの分析によれば、新しく建設した原発の発電コストは太陽光発電の3倍となっている。

再エネの設備容量を3倍に!
世界の大勢は再エネや省エネ

ところでCOP28では、2030年までに世界の再生可能エネルギーの設備容量を3倍、エネルギー効率改善率を2倍にするという宣言に120ヵ国以上が賛同したことが発表された。注目したいのは原発3倍宣言の2050年という目標との時間軸の違いだ。世界の大勢は再エネや省エネこそが脱炭素の本筋で、原発は横道にすぎないことを見据えている。

棒グラフ


日本には地震や火山活動が活発だという特有の問題もある。13年前には東日本大震災とともに東京電力福島第一原発事故が起きた。大量の放射性物質が放出され、今なお数万人の避難者が避難生活を送っている。元日の能登半島地震では多くの道路が地震によって通行不可能となり、港も使えなくなった。多くの住戸が全半壊となる中、原発事故が起これば、避難も屋内退避もできず、住民が大量被曝するリスクは十分にあった。

私が参加する政府の審議会では、原子力事業者のリスクの軽減のために、建設費や維持費を国民転嫁する方策が必要という議論が行われている。原発に関して国民はすでに巨額の負担が強いられている上に、さらに負担せよというのだ。

これまでのエネ基策定の中で、国民の意見が聞かれることはほとんどなかった。しかし脱炭素社会の実現には多くの行動変容が求められる。国民参加の上で、丁寧で納得感のある議論が必要だ。
(松久保 肇)

松久保 肇(まつくぼ・はじめ)

1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
https://cnic.jp/
※今号から、原発ウォッチは伴英幸さんに代わり、松久保肇さんが担当されます。

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