10月1日、石破茂自民党総裁が内閣総理大臣に指名され、新内閣が発足した。石破首相は9月に行われた自民党総裁選挙の中で、原発について「ゼロに近づけていく努力を最大限にいたします」と表明していた。だが首相就任後の所信表明演説では「AI時代の電力需要の激増を踏まえ(中略)安全を大前提とした原子力発電の利活用」を進めると述べた。







(この記事2024年11月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 490号からの転載です)

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石破首相、就任後に発言変更
新経産相も一転、再稼働方針

また新任の武藤容治経済産業大臣は、就任記者会見で「東日本における電力の供給構造の脆弱性、また、電気料金の東西の格差、脱炭素電源の供給による経済成長機会の確保という観点から、柏崎刈羽原子力発電所(新潟県)の再稼働の重要性は高まっている」という認識を示した。なお武藤大臣もかつては、「原子力に依存しなくても良い経済・社会構造の確立を目指す」と自らのウェブサイトに掲載していた。
たしかに、原発をたくさん再稼働させた関西電力や九州電力の一般家庭の電気料金は他エリアに比べて一月あたり千円ほど安い。では、柏崎刈羽原発の再稼働で電気料金は値下げできるのか。答えから言うとほとんど値下げできない。このことは東京電力が2023年に電気料金を値上げした際の申請書から明らかだ。

当時、東京電力は原発再稼働によって、卸電力市場での電力調達量を119億kWh削減できると説明した。市場からの電力調達単価は20.97円/kWhと想定しているので、かけ算すれば、削減額は約2500億円となる。対して、原発の燃料費等は2.51円/kWhと想定しているため、原発の発電電力量119億kWhをかけ算すれば、再稼働により約300億円、燃料費が増えることになる。さらに固定費は1300億円増えるとしている。原発再稼働によって減らすことができる市場での電力調達額2500億円と、再稼働で増える燃料費・固定費併せて1600億円の差額である900億円が東京電力の言う値下げ効果なのだ。

東京電力の電気事業にかかるすべての費用を合わせた額は5兆5919億円なので、値下げ効果は2%弱にすぎない。一般家庭の電力消費量で考えた場合、値下げ額は120円程度となる(ちなみにこの値下げ効果はすでに電気料金に織り込まれている)。


年1兆円超の発電設備投資
半分以上、稼働見込めない原発に

卸電力市場での取引価格はその時々によって大きく変動する。そこで、23年度の卸電力市場での東京エリアの平均取引価格(12.20円/kWh)を使って、値下げ効果はどうなるのかを計算してみた。すると、市場調達削減額は約1450億円と想定から大きく減ることがわかった。原発の燃料費と固定費の増加額は変わらないと仮定すると、再稼働による費用増分は1600億円なので、差し引きでは150億円の費用増となる。柏崎刈羽原発の再稼働によってむしろ費用は増えてしまうのだ。

東日本も西日本も電力需給が厳しい状況であることは事実だ。たとえば原発を4基再稼働させている九州エリアでさえも、長期的な電力需給が厳しいと報告されている。これにも原発が大きな影を落としている。11年以降の大手電力事業者の発電設備投資額は年1.1兆~1.3兆円程度で、このうち、原発に投じた費用は年0.5兆~0.8兆円にもなる。つまり、大手電力事業者は発電設備への投資額の半分以上を原発に注ぎ続けてきた。動かない原発に巨額の投資を続けた挙句、電源が足りないから原発再稼働が必要だというのだ。

だが、今後も多くの原発は再稼働できるあてがない。それなのに漫然と原発に巨額の投資が行われ続けようとしている。再生可能エネルギーに投資すれば、もっと早く稼働でき、電力安定供給に役立つことができる。今からでも遅くはない。(松久保 肇)

松久保 肇(まつくぼ・はじめ)

1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など
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