ここ米国イリノイ州は冬の厳しいところだ。毎冬、零下20℃くらいまで気温が下がり、雪が1メートル近く積もることがある。
京都市出身で「底冷え」に慣れている筆者だが、次元の違う寒さには参ってしまう。
ただでさえ厳冬の地なのだが、昨年はそれに輪をかけて凄まじい冬だった。例年なら北極の上空に留まるはずの寒気流が張り出してくる「極渦」に襲われたのだ。連日の寒波と大雪で、米経済が一時マヒ状態に陥ったのはご記憶だろう。
当地でも数日にかけて零下30℃という、外に数分出るだけでも命が危険な状態だった。企業は休業、学校も休校、交通機関はマヒ、店はすべて閉店という状態だ。
さて、その時、現地のホームレスはどうしていたのだろうか。
昨冬、州で一番の大都市シカゴには、前年比11.4%増の11万6千人のホームレスがいた(家を追われて家族や友人宅に身を寄せる人、車上生活、シェルター住まいの人を含む)。
その中から26人の死者が出ている。住まい、暖房、援助が十分でなかったためだ。数人は精神的な病を持っていた。
路上生活者はシェルターに避難したのだが、ある超満員の施設では一晩に千人ものホームレスが、マット一枚を敷いた床で暖をとった。
また、雪がなく交通機関が動いている夜には、終日運行のバスに乗って当てもなく市内を一晩中巡ることが、凍死から逃れる唯一の方法だった人も多い。ゆっくり寝られないが、死ぬよりはましだ。
筆者の住む街は、シカゴから南に車で2時間の州中央部にある。危険な寒さの晩は、教会が食事やシェルターを提供したおかげで、一人の死者も出さなかった。
大雪や危険な日の集合場所が決まっており、秩序ある避難が可能だったことが大きい。
とはいえ、冬を乗り切ったホームレス男性が一人、夏の最中に線路脇で不審死を遂げるなど、安全・安心からはほど遠い。
一般の社会でも対処が困難な気象条件や災害が襲う時、人と人の関係性の外にいる人たちは、より厳しい条件に置かれる。その備えが、「自己責任」の米国の路上では薄いのである。