日本での電子書籍利用者はここ数年で増え続け、2021年度には2016年度の約1.6倍の3,120億円程度となると言われている。(impress 2017年7月27日付記事より)
作家の内田樹さんは著書「街場の文体論」のなかで、電子書籍になく「本」にあるものとして「厚み」を挙げる。当たり前のように聞こえるかもしれないが、「厚み」は人が「本」を読むうえで案外重要な「情報」なのだ。
(略)残り頁がわからないと、本ってすごく読みにくいんです。たぶん、いろいろな理由がある。
第一の理由は、自分が本のどの部分を読んでいるかによって、言葉の解釈が変わってくることです。
(中略)
同じようなエピソードでも、同じような形容詞でも、それが物語のどの頁で出てくるか、前のほうか真ん中あたりか終りのほうかで解釈が変わる。そういうことを僕らは自然にやっている。皆さんはたぶん人間は同じ読解力、同じ読解ルールで本を最初から最後まで読み通していると思っているかもしれません。違いますよ。実は一頁めくるごとに僕たちは解釈の仕方を変えている。
(略)
読書と言うのは「今読みつつある私」と「もう読み終えてしまった私」の共同作業なのです。
紙の本は、「読む前の本の厚み」を、手のひらで感じ取り、脳の中で言葉を解釈している…というのだ。そう言われてみればそんな気もしてくるのではないだろうか。
同様に、「電子書籍ストア」や「本屋」になく、図書館だけが持つ力というものもあるだろう。これまでにも『ビッグイシュー日本版』では図書館のもつ力と優しさを伝えてきた。
・「にぎやか、問題解決―いいね!図書館」2017年2月1日発売、ビッグイシュー日本版304号
・調べもののプロが伝授:図書館レファレンス歴10年以上の高田高史さんに聞く「図書館の使いこなし方」2010年4月1日発売、ビッグイシュー日本版140号
そして満を持して(?)2018年1月15日発売の『ビッグイシュー日本版』327号の特集は<あなたもつくれる!「小さな図書館」>。
電子書籍が伸びているこの時代に、「紙の本」の、しかも「自作の小さな図書館」を紹介するのはなぜなのか、その「厚み」に迫りたい。
「ホンノワまちライブラリー」/大阪
家の前に置かれた、巣箱のような本箱(上記写真右)。町の住民とのつながりのなさを痛感し、「自分でもできることを」と大阪の高島直子さんが「マイクロ・ライブラリーサミット」に参加して始めたものだ。今ではこの取り組みが市内8カ所に広がっているという、この小さな本箱に込められた想いやまちの変化が本誌で紹介されている。
その他、「星空の小さな図書館」は古民家シェアハウスの敷地にあり、「ナガヤ図書館 おとなり3」は古い長屋を改装した一室で活動。渋谷のコワーキングプレイスに併設の「Co-ba library」は会員制…など、それぞれの興味やセンス、構築したい人間関係に合わせて運営されており、「自分が運営するならどんな図書館になるかな」と想像力を刺激される。
「Co-ba library」
「マイクロ・ライブラリー」と「まちライブラリー」
本を通じて人とつながる、個人が遊び心で始める“小さな図書館”の魅力
そんな個人が営む“小さな図書館(マイクロ・ライブラリー)”が個人宅やカフェ、お寺や近隣スペース、大学などに広がり、その数は現在全国で1500を超えると言われている。
東京・阿佐ヶ谷のまちライブラリー「ピッツァフォルノカフェ ビーンズ阿佐ヶ谷店」にて礒井純充さん
礒井純充さんは産学連携・会員制図書館「六本木アカデミーヒルズ」などの立ち上げにもかかわってきた人で、2008年に自ら始めた「ISまちライブラリー」を皮切りに、11年に「まちライブラリー」を提唱し、各地にそのネットワークを広げてきた。
さらに13年には、それぞれの図書館をゆるやかなネットワークでつなぎ、なぜ、どんな思いでどんなことをしていて、何に苦労しているのかを見える形にする「マイクロ・ライブラリーサミット」を開催している。
そんな活動が実を結び、大阪府立大学のサテライトキャンパスの活用について相談が舞い込み、礒井たちは議論を重ねて「まちライブラリー@大阪府立大学」では「植本祭」を開き、本も人も集めてきた。
本誌ではそんな磯井さんの語る、「まちライブラリー」の魅力と運営のコツを厚く語ってもらっている。ぜひ本誌をご覧いただき「まちライブラリー」を始めてみませんか。
いそい よしみつ 「まちライブラリー」提唱者、森記念財団啓発普及部長、大阪府立大学観光産業戦略研究所 所長補佐。大阪市出身。1981 年、森ビル株式会社入社。社会人教育機関「アーク都市塾」、産学連携・会員制図書館「六本木アカデミーヒルズ」などを立ち上げる。11 年より「まちライブラリー」を提唱。全国にネットワークを広げている。 13 年より、全国の私設図書館を集めた「マイクロ・ライブラリーサミット」を開催している。 http://machi-library.org/ |
『ビッグイシュー日本版』327号ではこのほかにも、
・スペシャル企画:パディントン2
・リレーインタビュー。私の分岐点:ギタリスト 小川 和隆さん
・国際:ドイツ、世界中から毎年1000通のラブレター。オークが結んだ二人の物語
・ビッグイシューアイ:高まる原発と再処理工場の事故リスク。日本最大の活断層「中央構造線」が動き出した――広瀬隆さん
・ホームレス人生相談:20代学生さんからの「人目を気にしないといけない?」のご相談。
など盛りだくさんです。
ぜひ路上にてお買い求めください。
ビッグイシューの「図書館」関連のバックナンバー
THE BIG ISSUE JAPAN304号
特集:にぎやか、問題解決――いいね!図書館
https://www.bigissue.jp/backnumber/304/
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