ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるために出張講義をさせていただくことがあります。
今回は「多世代・多分野・多文化の共生」の実現を目指した市民企画の講座「千里コラボ大学校」にお招きいただき、ビッグイシューのスタッフと千里中央でビッグイシューを販売しているMさんがお話させていただきました。
写真:京谷 寛
普段は高校生・大学生への出張講義が多いのですが、今回は参加者の年齢層も60代~70代がほとんど。30人弱の方々にご参加いただけました。
出張講座の際はいつも「販売者を見たことがありますか」「ビッグイシューを購入したことがありますか」と質問するのですが、今回はこの質問に「見たことがある」=8割、「購入したことがある」=5割近くの方が挙手されました。驚異の購入率です!
千里中央の販売者Mさんは、日曜定休、その他は仕入れ、悪天候や体調不良時を除き、毎日10時~19時で販売しているので、認知されやすいのかもしれません。
“ホームレス状態から脱出しやすい社会”は、ホームレスでない人も生きやすい社会になる
ビッグイシューが取り上げられた番組を視聴したうえで、スタッフが「人々がホームレスになってしまう理由や社会構造」などのお話をした後、社会の「ユニバーサル・デザイン」の考え方についてお話をさせていただきました。
「ユニバーサル・デザイン」は、視覚などの障害がある人に配慮したデザインですが、決して障害のある人だけでなく、障害のない人にも使いやすいという特徴があります。それと同じ考えで、ホームレスの人が路上から脱出しやすい社会というのは、ホームレスの人だけが恩恵を享受するのではなく、ホームレスでない人にとっても生きやすい社会なのではないでしょうか?という提言をさせていただきました。
千里中央の販売者Mさん、ビッグイシュー販売を経てアパート入居が目前に
そして、ビッグイシューの販売者で、現在は「ステップハウス」に入居中の販売者Mさんが、ビッグイシュー販売についてお話しました。

ビッグイシューの販売を始めたのは軽い気持ちから
「炊き出しに並んでいた時にビッグイシューのスタッフに販売をしませんか?と誘われたのがきっかけです。ビッグイシュー基金が主催するフットサルの練習などに顔を出したこともあったので、「そういえばビッグイシューのオフィスではパンをもらえたなあ」と思い出して(笑)。
でも売上にはそれほど期待していなくて、稼いだ自分のお金でコーヒーが飲めて、パンを食べられたらいいな、というくらいの軽い気持ちではじめたのがきっかけです。
いま2年ちょっとやっているのですが、軽い気持ちで始めたのに、皆さんのお陰でだんだん貯金までできるようになってきまして、ステップハウス(※)を経て、3月から自分でアパートを借りられることになりました。」
*ステップハウス:協力的な家主さんから固定資産税分のみで提供された空き物件を活用して、ホームレス状態の方が初期費用や保証人を立てることなく一時的な居所として利用できるようにしたビッグイシュー基金の事業。ステップハウス利用料の一部を積立金にできる仕組みとなっており、ここを足掛かりにアパート入居や就職活動などの生活再建を応援しています。
▼「ステップハウス」に入居している販売者の声
千里中央にはビッグイシューのファンが多い!?
「最初は別の場所で販売していましたが、3週間くらい経ったところで、千里中央の販売者が卒業することになり、「後任にはしっかりした人に来てほしい」と販売サポートスタッフに伝えたらしく、「いかがですか?」と聞かれてやってみました。
もといた場所も、人情があるので離れがたいなあ…と思っていたのですが、千里中央はすごく売れて「こんなに売れる場所もあるのか!」とビックリしたのを覚えています。」
販売をしていてうれしい・つらいこと、両方とも「人」がもたらす
「激励の言葉を頂けるのはすごくうれしいですね。会社に勤めていたころに言われていた「仕事がんばれ」と性質が違うように感じます。販売場所でいただける激励は、心に届く「がんばれ」な気がします。
辛いことは、真夏の暑さ、真冬の寒さ。北摂は大阪中心部に比べても寒いように感じます。寒い時はヒートテックを着てカイロ持つなどして自衛をしていますが、知ってるお客さんの顔見たらほっとして温かくなりますね。(笑)
ほかに辛かったことといえば、ホームレス、という偏見からか、道行く人と目が合うと睨まれたり、露骨に目をそらされたりするときは心が痛かったです。今はあまりないように思いますが。」
販売で気を付けていることは「身だしなみ」。売れるほどに清潔にできる
「販売中気を付けていることとしては、笑顔でいることです。気持ちいいと思うので。
近寄りがたい雰囲気にならないように気を付けています。
髭、爪とかも、気を付けています。そして、皆さんに買っていただくからこそお風呂に入ることができています。
それと駅に急いでいる人にはお釣りや本を渡すときにスピーディにお渡しできるよう、コインケースを用意して見なくてもお釣りをパパッと渡せるようには気を付けています。
1000円なら650円、とさっと渡せるようにしています。」
*編集部注 Mさんの「感じがいい」「こぎれい」ぶりをTweetしてくださる方もいます。
千里中央でビッグイシューを購入。感じのええおっちゃんやった。 pic.twitter.com/9DlQvht09q
— ロッキー (@shugohiroki) 2018年2月7日
モノレール千里中央駅前でビッグイシューの販売員さんに道を尋ねている人がいた。
その販売員さんが若めで小綺麗にしていたからだろうか。
以前なら、考えられないこと。 pic.twitter.com/sISphdZzUG— 肥塚 隆裕 (@takakoezuka) 2017年9月11日
アパートに入居が決定。これからのことは、慎重に考えて進めたい
「おかげさまで3月からアパートに入ることが決まりましたが、まだ気持ちの整理がついてないところもあります。心の整理がついたところで、就職活動して、ビッグイシューを卒業したいなと思っています。
その暁には、ビッグイシューもまとめ買いできるようになりたいなと思っています。(笑)」
6分間リーディングで感想をシェア!
「こんな濃い雑誌だとは知らなかった」
写真:京谷 寛
続いて、ビッグイシューの好きな号を選んでいただき、それぞれが6分間読んで感想を言い合う時間を持ちました。文字が小さいなあ…という感想もありながら、ほとんど肯定的な意見が続きます。
「濃い」ですね!こんな内容を350円で販売しているなんてビックリしました。大阪のカジノ構想に反対している身として、すごく興味深い内容です。(※309号特集「こわされる人間 ギャンブル障害」を読んで)
貝殻の縞模様で地球や月の過去が読み取れるという話に感心した。(※319号「池内了の市民科学メガネ」を読んで)
知らないことばかり書いていて、たいへん勉強になった。感想を言う時間が足りない。感想を言い合う場が欲しい。
他の週刊誌は著名人のプライベートをあげつらうものが多いなか、このような良質な情報ばかりを載せた雑誌もあるとわかって嬉しい。ぜひこれから購入したい。
など、肯定的なご意見が続きました。(ありがとうございます!)
学生さんからの質問とは異なったものが寄せられた「質疑応答」
そして最後に質疑応答がありました。
Q:日本版と海外版との関係は?
「ビッグイシュー」は英国発祥ですが、日本版は名前を使わせてもらっているものの、資本関係はまったく別です。記事は、世界中のストリートペーパーがネットワークを組んで、記事をお互いに融通しています。
英語圏のストリートペーパーはそのまま記事を使えますが、日本版には翻訳が必要なので、翻訳者の力を借りて掲載する記事もあります。
※ビッグイシュー日本版の翻訳者、西川由紀子さんも豊中市民。当日も会場に顔を出してくれました。
参考記事:ビッグイシューを支える「翻訳者」にインタビュー。「翻訳筋肉」がつくビッグイシューのシゴトとは
Q:返本率はどのくらいか?
ビッグイシューは、販売者が「この号がこれくらい売れそう」と自分で考えて売れ残りすぎないように、そしてすぐに切らしてしまわないように考えて「仕入れて」います。買いきりのため、返本はありません。つまり返本率でいうとゼロです。
しかし販売者があまり仕入れない号は、会社の「在庫」になりが会社の倉庫に残ることになります。
Q:認知を高める努力をされていると思うが、認知が高まることで心無い人からの批判や拒否反応も増えていくことへの恐れはないのか。
多くの拒否反応は「知らない」ことから生まれると思っています。そのためSNSを巡回するなどして、「ビッグイシューを売るくらいならバイトすればいいのに」といった、ホームレス問題についての誤解を解く情報を随時お伝えしていく活動をしています。
SNS他の広報活動で認知が高まり、一定の割合でアンチが増えることもあるかと思いますが、認知が高まればそれだけ売り上げも上がる傾向がありますので、増えた売上で広報要員を確保できれば問題ないと考えています。
また、皆さまにおかれましても本日の講座で見聞きしたことを、ご家族やご友人にお話いただけますと嬉しいです。
千里中央図書館がオススメする「貧困」「ホームレス問題」について学べる書籍
最後に、千里中央図書館がオススメする「貧困」「ホームレス問題」についてより深く学べる書籍の紹介がありました。
この「コラボ大学校」では毎回最後に、各講座に関連する書籍を紹介し、図書館を利用いただくことで知見をさらに深めているということで、自主的に学ぶ姿勢を市民同士でサポートするのは「地域の力」だと感じました。
写真:京谷 寛 図書館がオススメする「貧困」「ホームレス問題」オススメ書籍
講座終了後、「千里の販売者さんから買うようにするね」「他の市民の集まりでも講演をしてもらえないか」「寄付を受け付けてくれるのか」など、次のアクションに繋がるご提案を複数いただきました。
市民が企画し、市民が運営している活動の底力を感じた出張講座となり、スタッフ・販売者も刺激をいただけた一日となりました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/