ナポリの目抜き通りでピザ屋の店主として働くエンツォ・カパッソ(30)。彼の物語からは、ナポリという街が若者を犯罪者にすることもあれば、更生させる懐の深さも兼ね備えていることが伺い知れる。
恵まれない環境に生まれ育った大勢の若者と同じく、困難な青春時代を過ごした。若くで母親を亡くし、ナポリ中心部にあるピザ屋での仕事に精を出そうとしたが、そこでの仕事はあまりにきつく、稼ぎも低かった。
Orna WachmanによるPixabayからの画像
“楽な金儲け”に引きずり込まれ、ひったくりを繰り返すようになった。ほどなく逮捕され、ニシダ島にある少年院に入れられた。
「少年院での数年は厳しかった」エンツォは振り返る。
「面会に来てくれたのは婚約者のマリアナだけでした」
「人生はもう終わった…くらいに思ってましたが、フェラーラ判事が自分で仕事を探して来なさいと48時間の外出を許可してくれました。厳しい人でしたが、人生をやり直すチャンスを与えてくれたことに感謝しています」
出所してから2年間は、マザー・テレサの家*の姉妹団体が運営する施設でホームレスの人たちの炊き出し係としてボランティアで働いた。その後、ナポリ国立博物館の近くにあるピザ屋『アイエッロ』で働き始めたエンツォ。毎日毎日、何百枚ものピザを焼き、稼いだお金でオートバイを買った。自分の店の開業資金も貯められた。
*インド西ベンガル州コルカタにあるボランティア施設。
自分が情熱を持てる仕事で正当に稼ぐ充足感
そして昨夏ついに、トリブナーリ通りに自分の店『カサ・カパッソ』をオープンさせ、夢を叶えた。数多くの有名ピザ屋が軒を連ね、毎日、何千人もの観光客が訪れる大通りだ。
店名は、イタリア語で「家」を意味する“カサ”に、自分の苗字“カパッソ”をつけて『カサ・カパッソ』。「家」は自分らしくくつろげる場所、拘置所とは真逆だ。
拘置所で唯一の面会者だったマリアンナと家族になれたことも彼の更生を支えた。結婚し、一緒に働き、2人の息子にも恵まれた。
「家族の支えがあったおかげで、勉強したいとモチベーションが湧き、大学でホスピタリティ学を学ぶことができました」と笑顔で語る。ミラノに2店舗目を開店したいとも考えている。
過去の厳しい日々を経て、今では「正当に稼ぐ」満足感を得ているエンツォは、若者たちに向けてこう語る。
「手っ取り早く悪銭を稼ごうとしないで。共犯者にならないで。悪取引に応じないで。そんなことをしても人生を危険にさらすだけです」
それよりも、自分が情熱を持てる仕事で正当に収入を得る方がはるかに良いと。
「今の生活をとても誇りに思っています。店も順調ですし、若者に仕事を提供し、彼らの家族をサポートできています」
「人生をやり直すチャンスを得られたことを、決して忘れません。過ちを犯すことは簡単ですが、努力と強い決意を持って働けば人は変われるし、より良い人生を歩むことができます」
By Marta Zanellan/Daniela Palumbo
Courtesy of Scarp de’ tenis / INSP.ngo
サムネイル写真:PexelsによるPixabayからの画像
【オンライン編集部追記】
新型コロナの深刻な影響を受けたイタリア。「カサ・カパッソ」も3月以降は休業を余儀なくされている。1日でも早く営業再開ができるよう、このコロナ禍の終束を願う。
エンツォが経営するピザ屋「カサ・カパッソ」Facebookページ
Casa Capasso
イタリアの人気トーク番組にゲスト出演したエンツォ
https://youtu.be/q272hQgm-R4
エンツォ・カパッソのInstagram
https://www.instagram.com/enzo_capasso89/
『少年院』関連記事
・少年院は刑罰の場所ではない!少年たちはどういう経緯で少年院に入り、どのように過ごしているのか-矯正施設スタディツアー見学レポート
・少年鑑別所・少年院を経た少年が「働き続ける」ようになるまで-矯正施設スタディツアー資料より
・少年院を出所した子どもは、就職できるか否かで「再犯率」が大きく変わる。若者支援における「出口」の重要性
オンライン編集部オススメ映画『プリズン・サークル』
ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?
ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。