ビッグイシューではホームレス問題や活動の理解を深めるため、学校や各種団体に出向いて講義をさせていただくことがあります。
この講義の発案者は教頭の川口先生。前任校でもビッグイシュー販売者の講演会を企画してくださり、「ホームレス問題や働くことの意味を、もっと多くの子どもたちに知ってもらいたい!」と、今回もご依頼をいただきました。
販売者とビッグイシューは、ビジネス・パートナー
スタッフよりまずはビッグイシューの事業の紹介。「みなさん、駅前などで赤い帽子をかぶって雑誌を掲げてる人を見たことありますか?」との問いかけには「うーん?」と首を傾げている様子。
これから街で販売者を見かけた時にどんな人たちなのか知っておいてもらいたいと、ビッグイシューの成り立ちと販売の仕組みについて説明。
販売者は1冊450円の雑誌を220円で仕入れ、販売します。1冊売れるごとにその差額の230円が、販売者の儲けに。販売開始時の10冊は無料でお渡ししています。10冊全部売ると4500円。それを元手に、次の雑誌の仕入れや生活費に充ててもらっています。
「販売者の方々は支援の対象ではなく、ビジネスパートナーです。私たちが出版社だとすると、一人ひとりが本屋の店長さんのようなものです」とお伝えしました。
ホームレスは、人柄や性格ではなく、「状態」を表す言葉
ホームレス状態の人に「汚い」「仕事もしないで怠けている」などのイメージを持つ方もいるかもしれません。ビッグイシューから伝えたいのは、「ホームレス」という言葉はその人の状態をあらわす言葉であり、人柄や性格を決めつけるものではないということ。
スタッフからは「販売者さんの中には、おとなしい人もいれば明るい人もいる。得意なことも英語・詩・絵などいろいろです。いろんな人がいることをみなさんに知ってもらいたいです」と伝えていきました。
ホームレス状態から脱出しにくい要因こそが社会的な課題
スタッフから「なんでホームレス状態になるのか、わかる人?」との問いに、徐々に手が上がります。「家族の事情」「会社が潰れたから」「お金がないから」などど、どれも正解!な回答。
ホームレス状態になるのには段階があります。まずは仕事がなくなり失業状態になる、それと前後して家族と離れる→住む場所がなくなる→所持金が尽きる→路上生活を余儀なくされる、というパターンが少なくありません。
路上生活に至るまでに、本人の自信が喪失し働くことのハードルが上がる・働いていても低賃金・保証人がいなくて住まいを確保できない…といった課題が生まれてきます。
個人的な事情のようにも思えますが、こうした状態にいる方々を支援する社会的な仕組みが整っていないことは大きな課題です。こうした深刻な背景があることについて、生徒のみなさんはうなずきながら集中して聴いているようでした。
販売者・西岡さんの体験談「あなたは私の友達です」
次に販売者の西岡さんが登壇。スタッフからのインタビュー形式で体験談を語ります。
西岡さんは大阪市生まれ。実は地元が加美北小学校のすぐ近くだったそうで、西岡さんから「みなさん、大和川わかります?」との問いかけに「あ、知ってる!」との元気な声が上がります。
西岡さんは中学生の頃、近所の書店で競馬雑誌に出会い、馬の写真を見て騎手に憧れます。騎手を目指すことは叶いませんでしたが、馬に携わる仕事がしたい!と単身で北海道へ。ずっとやりたかった馬に乗る仕事や、馬を育成する仕事を経験しました。10年ほど勤めたあるとき、ご家族の介護のため大阪へ帰ることに。
介護が終わり会社の寮に住んでいた西岡さんでしたが、リーマンショックにより、当時勤務していた会社で雇い止めに。ある日突然、住まいと仕事を同時に失う体験をしたのでした。
途方に暮れていたところを支援団体に声をかけられ、なんとかサポートにつながりました。しかし自分に合った仕事にはなかなか出会えず、困っていたとき、図書館で見つけた「路上脱出・生活SOSガイド」でビッグイシューの存在を知ります。
そうしてビッグイシューに出会った西岡さん。現在は、梅田スカイビル近くの連絡通路付近で販売しています。
「連絡通路の壁に、虎の絵が書いてあって。それに、『虎吉』って名前をつけて。毎日声をかけてから販売を始めるんです。虎ちゃん、おはよう!って。」
スクリーンには、虎吉の絵が映し出され会場からも笑いがこぼれます。
ユーモアたっぷりな西岡さん。嬉しかったエピソードとして、近くの企業に勤める外国人の常連さんが、転勤になったから…とチョコレートを持ってきて「あなたは、私の友達です」と伝えてくれたことに胸がいっぱいになったと話します。この仕事で辛いのは、常連さんとのお別れがあることだそう。
つらいこともあるけれど、素敵なお客さんとの出会いがある。そんな実際の販売エピソードには、生徒のみなさんも興味津々。ふんふんと頷いて聞いていました。
小学生からの鋭い質問!“もし過去に、戻れるとしたら?”
実際の販売の様子を聴いたあとは、質疑応答の時間。どれも鋭いものばかりでした。実際にいただいた質問をご紹介します。
1 もし、過去に戻れるとしたら、いつがいいですか?
西岡さん:過去に戻るっていうのは、考えたことないです。過去があって今があるんです。今があって未来があるんです。だから今ここを大事にするっていうことですね。その時は大変だったけど、今から考えるとなかなか楽しかったなと。
2 衣服はどうしていますか?
西岡さん:今は買っています。お金なかった時は、ビッグイシューにいけば、衣服とか食べ物とかカイロとかもらえるので。
(スタッフ)一般の方から寄付としていただくことも多いので、それをみなさんに使ってもらうこともあります。
3 売れなかった時って、どういう気持ちになりますか?
西岡さん:最初の頃は、なんで売れへんねんと思ってましたが。今は、売れる時は売れるし売れない時は売れないしと開き直っています。
(スタッフ)そこに至るまでには、常連さんがついてくれたりとか。色々販売の仕方がわかってきて、という経緯がありますよね。
西岡さん:そうですね。コンビニとかで店員さんの感じが悪いと、二度と行きたくないって思うことあるでしょう。そうなると近づきたくないと思うので、声をかけやすい雰囲気を意識しています。
販売者からのメッセージ。「働くことは、命を使うこと」
ビッグイシューの販売を続けながら、西岡さんには今後、大きな目標があります。
「今後の目標は、アニマルセラピーカフェを作ることです。」と話します。
日本では年間3000頭もの猫や犬が捨てられ、殺処分されている現状に心を痛める西岡さん。コツコツ勉強を続け、「メンタル心理カウンセラー」の資格を取得。いずれカフェを作って保護された動物と、人間も癒されるような場にすることを目標にしています。
動物も人間も、大切な一つの命。最後に、生徒の皆さんへのメッセージも、そんな西岡さんの思いが詰まっていました。
「小学校6年生のみなさん、今、将来の夢、やってみたいこと、あります?」
この言葉に、ほとんどの生徒さんが挙手。これには先生たちも驚いた様子でした。
「働くって、『はたを楽にする』と言うんです。だから、どんな仕事をしても、無駄な仕事なんてないんです。」
駅のトイレ掃除をしてくれる方やごみ収集の仕事をしている人がいるから街が綺麗なのだと、西岡さんは語ります。
「使命って言葉、聞いたことあると思うんですけど。」黒板を使って大きく「使命」という字を書きます。
「使う、命って書くんです。自分の命を何に使うか。この先ずっと長いんですけど。ゆっくりでいいんで。自分の命の使い方を考えてみてください。決して命っていうものを、粗末にしないでください、ということをお伝えしたいです。」
真摯な西岡さんのお話に、会場一同から大きな拍手が。こうして講義は終了しました。
「印象が変わった」ー子どもたちからの声
ここで、ビッグイシューの講義を受けた生徒のみなさんから届いた感想を紹介します。
『ホームレスの方の印象が変わりました。ビッグイシューで働いている理由などが聞けて、勉強になりました』
『ビッグイシューを売っている人がどういう気持ちで売っているのか、どんな思いをしてホームレスになったのかっていうことがよくわかった』
他にも、「ビッグイシュー販売者という仕事や販売者に至る背景や気持ちを知った」「一度買ってみたい」といった感想が、寄せられていました。
「子どもたちの仕事観を広げられたと思う」
講義終了後、学年主任兼6年1組担任の籔内達也先生と2組担任の高内希美先生より、教育の現場で感じる子どもたちの仕事観やキャリア教育への想いについてお話を伺いました。
まずは学年主任の籔内先生。
「職業体験をする前の子どもたちは、働くことに対してネガティブなイメージが強いようでした。“パワハラ“、“長時間労働させられる“などです。でも、職業体験をしてみて、ネガティブな感想ももちろんありますが、その中身が変わってきました。“お金を稼ぐって、難しいことだと思った“とか。前向きなものに変わってきたんです。この先どんな仕事に就くかわからないですが、これからいろんな仕事や生き方があると知ってもらいたい。その一つとして、ビッグイシューの販売者さんの話を聴くことで価値観が広がったのではないかと思います。」
続いて、高内先生からもこんなお話が。
「ビッグイシューの事前学習をしていて疑問がたくさん出てきたようで『これ聞いてみようね』となったことが、今日のお話の中で解決されていったんじゃないかなと思います。」
子どもたちの仕事観を広げるためにさまざまな仕事や生き方を知り、考える機会として機能したようでした。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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