自転車で大量の空き缶集めをしている人を見たことがある人も多いだろう。日本では空き缶収集がメインだが、ドイツの都市部では、ペットボトルやガラス瓶のデポジット制度*1があるため、それらの資源を集める人たちが多い。労力がかかる割に、冷ややかな目を向けられ、大したもうけにならない作業に思えるが、ドイツではおよそ100万人がこの回収作業にあたっているとの調査が先日発表された。今回、ドルトムント市で回収作業をしている男性トムに、その作業手順を案内してもらった。
Photo credit: Sebastian Sellhorst
*1 容器を返却することで返金を受けられる制度。
トムは3年前から路上で暮らし、空き缶や空き瓶を集めて日銭を稼いでいるという。私たちはドルトムントの街なかで落ち合った。片側は店やカフェが並ぶ歩行者エリア、反対側からは車が激しく行き交う騒音が聞こえてくる。
「いつから始めたんですか?」と聞くと、トムは笑う。「いつ始めたという感覚はありません。ただ、空き瓶を持っていってデポジットを受け取るだけです。あなただって、どこかに向かう途中で落ちてる空き瓶を目にしたら、拾うかもしれないでしょう? それがそのうち、空き瓶を注意して探すようになり、ゴミ箱のそばに置いてある瓶まで拾い出すんです。なので、よし、明日から空き瓶回収者になろう!と思い立つものではないですよね」
ビール小瓶が8セント、空き缶が25セント
歩きながら話していると、時折、トムは街灯の横に設置されているゴミ箱にさり気なく目をやる。ゴミ箱を10個ほど通過したが、成果は得られなかった。「以前は懐中電灯と手袋を使っていましたが、すぐに使えなくなるんです」と言う。「ゴミ箱に入っているのは空き缶が多く、瓶はそのへんに捨てられていることが多いです。ゴミ箱をあさるには、長い時間は必要ありません。でも、麻薬をやっている人たちがいるエリアでは、(注射針などで)ケガをしないよう気をつけないといけません」
Photo credit: Sebastian Sellhorst
ビジネスカレッジの近くに来ると、最初の幸運が訪れた。トムは歩きながら、2本の空き缶に残っているしずくを切ると――これで50セント(約70円)になる――くたびれたリュックに入れた。「まただ」とトムがチャック部分を見せながら言う。「1日に何度も開け閉めするので、すぐにダメになるんです」。大きい買い物袋や折り畳み式のショッピングカートを使う人も多いらしいが、トムは荷物が増えるのがいやで使っていない。今度は500mlのコーラ瓶をバッグに入れた。これは15セント(約20円)になる。
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「ねらい目は学校の昼休みです」とトムが言う。「学生たちが栄養ドリンクをがぶ飲みして、あちこちに空き缶を置きっぱなしにしますから。空き缶は1本につき25セント(約35円)、かさばらなくて軽い空き缶がベストです。ビンも大きいものだと25セントになりますが、リュックだけの僕には持ち運びが難点です。小さなビール瓶は8セント(約10円)で、手に入りやすいのは夜ですね」
今や年金受給者もライバルに
地元のスタジアムで試合があると、ショッピングカートを持って待機する人たちもいるが、自分はしないとトムは言う。生活費がそれほどかからないからだ。「テント生活で自炊しているので、1日の食費2〜3ユーロ(約300円〜450円)とビール代4〜5ユーロ(約550円〜700円)があれば事足りるんです」
「空き缶を集めて換金すれば、なんとかやっていけます。でも、どんどん状況は難しくなってますけど」とこぼす。「3年前はもっと稼げたんですが、今はゴミ箱をあさる人が増えました。一般の年金受給者ですらやっていますから。僕のエリアだけでも2人はいますね」
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「ベテランメンバーの間では先着順が暗黙の了解となっていて、普通はそれで揉め事は起こりません。でも、スタジアムや複合施設ヴェストファーレンハーレンのあたりは少々事情が異なり、自分たちの縄張りがあって、それを頑なに守ろうとしますね」
ロックダウンで家飲み増
新型コロナウイルスによって人々の生活が麻痺すると、困窮者の生活も崩壊した。公共の場所で物乞いをする、芸を披露する、空き缶を回収するなどして生活費稼ぎができるのは、人々が出歩いているときだけだ。「ロックダウンになって街全体の活動が止まったときは、本当に最悪でした」と振り返る。
「冬場は特に、皆がお酒を箱買いして家で飲み、空き瓶も自分たちで返却していました。だから、(外で飲む人が増える)夏場はまだましです。駅や教会のまわりには、いつも誰かが座って飲み物を手にしていますから。空き缶を回収するには辛抱強くないといけません。薬物を買うために1時間で20ユーロ(約2800円)稼ぎたいような人には向いていません。空き缶拾いなんて、やってられないでしょう」
トムは自分の寝床がある市の北側に向かった。スケジュールは決めているのか、夜はゆっくり休めているのかと聞くと、「路上生活している若者たちと同じで、とにかく一日中歩き回っています」と言う。「朝食は街なかにあるガストハウス(困窮者支援施設)で、昼食はカナ(カトリック教徒が運営するスープキッチン)で食べています。とにかく長時間、同じ場所に居るのが苦手で、動かずにはいられないんです。1日にどれだけ歩いているか、正確には分からないけど」と言って、靴を指さす。新しく見えるが、ソールがはがれかけていた。「1ヶ月前に買いました。ワークシューズなら長持ちするかと思ったのに、まったくダメですね!」
「空き缶拾いのスポットを見つける、長持ちする靴を履くのと同じくらい大事なのが、回収した資源を受け取ってくれる人の存在です。実は、2つのキオスクから受け取りを拒否されたことがあります。僕が路上生活していることが分かると、お前からは受け取りたくないと言われたんです」
「その点、スーパーにある自動回収機はいいですね。代金を受け取るのに列に並ばないといけませんけど。僕のテントの近くにあるキオスクの店長は親切で、持っていくとなんでも受け取ってデポジットを返却してくれ、ビールも安くで売ってくれるんです」
Photo credit: Sebastian Sellhorst
空き缶収集者についての調査結果
市場調査企業「アッピニオ」が、ペットボトル、空き瓶、空き缶回収を行なっている400人を対象に調査を実施した。
・その半数以上が25歳以下の若者で、男性が多いものの女性も42%を占めていた。
・半数以上(56%)は、1日の稼ぎが4ユーロ(約560円)以下。およそ3分の1(28%)は、空き瓶や空き缶回収が唯一の収入源で、公的支援を受けている人もそうでない人もいた。
・およそ4分の1は、他の仕事もしながら、収入の足しにするために行っていた。
・月収は、半数以上(63%)が50ユーロ(約7000円)以下、約25%弱が50〜100ユーロ未満(約7000円〜1万4000千円)だった。
ハンブルグの社会活動プロジェクト「Pfand gehört daneben(Every Bottle Helps:すべてのボトルが役に立つ)」が実施した調査によると、ドイツでは公共の場で空き缶・空き瓶を回収し、デポジット返却制度を利用している人が約98万人いる。
当プロジェクト主導のもと、ハンブルグの飲料メーカー「フリッツコーラ(Fritz-Kola)」では、空き缶回収者たちへの偏見をなくすべく、「空き缶や空き瓶を捨ててしまうのではなく、ゴミ箱のそばに置いておくだけで、デポジットで日々の生活をやりくりしている人たちへの連帯感を示せます」と提唱している。
ゴミ箱をあさる行為は不名誉なだけでなく、ケガをする危険もある。実際に、空き缶回収者のほぼ半数が、ゴミ箱あさりを「不愉快」「とても不愉快」だと感じ、3分の1がケガをしたことがあった。
またこの調査では、市民1000人に空き缶回収者へのイメージを聞いた。すると、多くの人(55%)が「共感を抱く」、およそ半数(46%)が「彼らを助けるため政府にはさらなる支援義務がある」と回答し、43%の人が空き瓶をゴミ箱のそばに置くようにしていた。
また、空き瓶回収者が実際に得ている収入と、一般の人が想像している収入額にはギャップがあることも判明した。約80%の人は「少なくとも1日5ユーロ(約700円)は得ている」と思っていたが、調査対象となった空き瓶回収者のほとんどは、そんなに稼げていない現実がある。
By Sebastian Sellhorst and Alexandra Gerhardt
Translated from German by Frances Gormley, Sophie Bettag, Kirstie Read
Courtesy of bodo / International Network of Street Papers
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