2026年春、ベルリンに住まいの安定しない若者向け支援センター「BUTZE」がオープンする。7階建て、総床面積3,650平方メートルに及ぶこの施設で、若者がホームレス状態を生き抜き、また脱出できるよう、さまざまな支援を提供していく。

ドイツ国内の若者ホームレスは3万8千人という現実
2022年にドイツ連邦労働社会省が発表した初の全国調査報告書によると、ホームレス状態にある人のうち、14〜27歳の若者は約3万8千人と見積もられている(※ドイツの人口は約8,400万人)。親による虐待から、ネグレクトから、養護施設から、希望を見い出せない故郷から逃げ出してきた者たちだ。
ベルリン東部のリヒテンベルク地区にて、 ストリートキッズ支援団体(ドイツ語表記はStraßenkinder e. V.)が、すべての支援をワンストップで提供できる施設BUTZEの建設を進めている。「構想は10年ほど前からありました」と話すのは、メディアPR担当の責任者イザベル・バウマンだ。
1996年にボランティア事業としてアストリッド・バウマンとエクハルト・バウマンが立ち上げたこの団体は、20年以上にわたり、路上の子どもたちのケアを行なってきた。2000年に法人化してからは、エクハルト・バウマンが代表を務め、現在は42名の常勤スタッフが3つの拠点で毎日最大200人の子どもや若者たちに支援を提供している。「長年の支援活動を通して、われわれの弱点も見えてきました。新拠点BUTZEでは、そうした分野を改善していければと思っています」とイザベル。
ひとつの拠点で幅広い支援をカバーできることの意義
たとえば、身分証明書の申請、健康保険会社とのステータス確認などのために、スタッフが予約を取って、若者に付き添うことがよくある。そうした予約は午前中に設定されることが多いが、眠る場所もままならない若者にとっては、午前中の決められた時間に決められた場所に現れることは簡単ではない。予約時間に現れないと、あらためて予約を取り直さなければならず、問題が解決しないまま時間だけが経過することになる。
「BUTZEではいろんな宿泊形態を、合計40枠提供するつもりです。それにより、若者とスタッフが一緒に朝を迎えられ、さまざまな手続きがスムーズに進められるようになるでしょう」
既存拠点ではすでに、食事や衣服、シャワー室の無料提供などのサービスを行っているが、「一つの拠点ですべて対応できるようになれば、すでに厳しい路上生活を送っている若者たちの負担を軽減できます。各部門のスタッフ同士が常にやりとりし、お互いの取り組みを理解しているので、若者の状況についてより包括的に考えられるようになるはずです」

BUTZEには、共同キッチン、相談ルーム、就職前の職業訓練スペース、路上支援用の拠点、歓談スペースが整備される予定だ。緊急宿泊用も中期滞在用もすべて個室で、安全性とプライバシーを確保する。こうした支援施設では通常ペット同伴は禁止されているが、BUTZEではペット同伴も可能だ。「私たちの知る限り、ドイツ国内にこんな事業はありません」とイザベルは誇らしげだ。

BUTZE
https://strassenkinder-ev.de/butze/
巨額支援金により駅前の土地を確保
BUTZEプロジェクトをはじめ、同団体の事業はすべて寄付で賄われている。主要スポンサーは、2020年より同団体の支援を行っている、国際メディア複合企業「ベルテルスマン」の会長を務めるトマス・ラベ夫妻(Birgit and Thomas Rabe Foundation)だ。「必要な資金は膨らむ一方で、当初は1200万ユーロ(約20億円)との見積もりでしたが、最終的には2100万ユーロ(約36億円)が必要になりました。それでも事業を遂行できていることに感謝しかありません」とイザベル。
資金面に加えて難題となったのはベルリン市内での土地探しだった。最終的に同団体が購入した土地(Wönnichstraße 8)は、地下鉄(Uバーン、Sバーン)のリヒテンブルク駅の斜め前、石畳の通りに建つ約800平方メートルに及ぶ角地で、長年手つかずの場所だった。近くには、1軒のディスカウントストアと古い建物が立ち並んでいる。
現在、団体が支援対象としている若者の多くは17 〜22歳だが、もっと年少や年長の利用者もいる。「いわゆる“成人年齢”がホームレス状態をもたらすことも少なくありません」とイザベル。「ひどい家庭状況からやっとの思いで逃げ出せた子どももいれば放り出された子もいます。養護施設での支援対象は18歳までとされ、管轄が児童福祉事務所から社会福祉事務所に移ります。そのはざまで、支援からこぼれ落ちるケースが少なくないのです」
小さな子どもたちへの教育支援はグレーな領域ではある。例えば、養護施設を逃げ出した子どもは、警察に補導されると、児童福祉事務所に照会されると同時に、法律によって通うべき学校が指定される。「そういう子どもたちが私たちの施設にやって来たら、スタッフ間で情報を共有しますが、逃げ出した環境に連れ戻されるケースもあります」とイザベル。

住まいのない若者の多くは、自分は裏切られ、捨てられ、忘れられた存在だと感じている。BUTZEが提供するさまざまな支援の基盤となるのは、そんな子どもたちとの間に信頼を築くことだ。
ストリートキッズ支援団体 Straßenkinder e. V.
公式サイト https://strassenkinder-ev.de/
Instagram https://www.instagram.com/strassenkinder_ev/
By Enna Mindo
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of Trott-war / INSP.ngo
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