デザイン会社が週に1回駄菓子屋「コトリ堂」を開店する理由

東武線志木駅(埼玉県)から徒歩圏内にあるマンション1階の1室は、月曜の午後だけ駄菓子屋に変身する。それ以外の時間は「主にシルバー人材センター*を応援するデザイン会社」なのだという。なぜデザイン会社がシルバー人材センターを応援するのか、そしてなぜ週1で駄菓子屋をやっているのか。株式会社トリガーコーポレーション代表の高橋 恭子さんに話を聞いた。

photoⒸSHUSAKU TAWARA

*シルバー人材センターとは、おおむね60歳以上の高年齢の人たちに地域で働く機会をコーディネートする機関。原則として市区町村ごとにセンターがある。

「大人になるって楽しそう」と思える仕事を応援するデザイン会社

高橋さんは2011年の創業以来、「子どもたちが“大人になるって楽しそう”と思えるような仕事」、「自分が関わることでちょっとでも世の中にプラスになるような仕事」をしたいと、“ギャラ”より“志”重視で、まちの様々な事業者の広報を数多く手掛けてきた。

その理由を高橋さんは「商店街で花屋をやっていた親のもとに育ったので、親が働いている間に、隣のパン屋さん、お向かいの魚屋さん・八百屋さんなどのおじいちゃん・おばあちゃんたちに面倒見てもらって、可愛がられていました。それで自分は“商店街の大人はみんな楽しそうだな”、“将来は何屋になろうかな”、と働くことにすごくポジティブな印象を持っていたんです。だけど、自分が子育てするようになってみると、今の子どもや若い人の中には“大人になりたくない”とか“働きたくない”っていう声も多いでしょう?だから、自分自身、嫌々働く姿を見せるんじゃなくて、こんなにいいことあったよ、喜ばれたんだよって言えるような、大人になることはポジティブであると示すような仕事がしたくて。」と話す。

高橋 恭子さん(右)と会社スタッフのあんちゃん(左)。photo©️SHUSAKU TAWARA

そんなポリシーで会社を運営して数年経ったある時、あるシルバー人材センターの案件が舞い込んだ。シルバー人材センターの仕事に「年を取っても働かないといけないのかな」「定年後、経済的に厳しくなるのかも」と少しネガティブな印象を持っていた高橋さんだったが、実際のセンターの仕事について話を聞くと、持っていたイメージと大きく違った。

「年を取っても楽しい」「孤独じゃない」と伝えたい

シルバー人材センターの仕事としては草刈りなどの作業がよく知られているが、センターによって手掛ける事業は実に様々だ。子育て家庭の家事援助をしたり、保育園などで保育補助をしたり、畑仕事をやって採れた野菜を使ったカフェや弁当屋を運営したりというセンターもある。中には映画制作、保育園の運営、地元のローカルラジオ局で番組を持っているアグレッシブなセンターまであるという。

トリガーコーポレーションの制作物の例

「70代、80代とかになっても、誰かに求められる仕事がある、新しいことに挑戦する仲間がいる、そんな楽しい場所がある、っていうことを私自身知らなかったんです。 “大人世代や仕事は楽しいよ”ってことを子どもたちに見せたいと思ってやってきたんですが、私たちの上の世代になっても、“年を取っても楽しいよ”、“孤独じゃないよ”という希望があることを、広く伝えていきたいって思ったんです。」と高橋さんは語る。

その後近隣のシルバー人材センターの間で高橋さんの仕事の評判が広まり、様々なセンターの広報を請け負ううちに、現在は埼玉県を中心に、全国のセンターのチラシ制作やホームページリニューアル、広報セミナーの講師などの仕事が事業のメインになっていったのだそう。

コロナ禍でまちから“楽しみ”が消えたことを受け
「子どもにちょっと楽しめる場所を」と駄菓子販売を開始

そんな高橋さんが週1の駄菓子屋「コトリ堂」を始めたのは、コロナ禍がきっかけだった。この地域では年に一度、様々な事業者が出店する祭りがあり、高橋さんの会社も出店していたが、コロナ禍で中止になってしまった。休校や外出制限などの日々、子どもたちに楽しみがほとんどない―。子どもが大好きで、それを不憫に思った高橋さんが、「近所でちょっと楽しめる場所があったら」と考え、夏休み限定で週1の駄菓子屋をやってみないかと会社のスタッフに提案。スタッフも「いいですね!」と賛同し、トライアルオープンにこぎつけた。夏休み限定のつもりだったが、思ったより好評で、それ以降も週1ペースで駄菓子屋をオープンしている。

「最初は衣装ケースに入るくらいのお菓子を並べてただけだったんですが、リクエストに応えてるうちにどんどん増えてきて、デザイン会社のスペースも侵食されてきてしまっています(笑)。小さな店ですが、多い日は1日に100人くらいの子どもたちが来ることもあります。ちょっとした行列ができちゃうくらい。もうちょっとゆっくりできるスペースにしたかったんですけどね。」と高橋さんは苦笑する。

子どもたちから駄菓子のリクエストも受け付けている。photoⒸSHUSAKU TAWARA

▲毎週子どもたちでにぎわう店内。

「私は元“鍵っ子”で、放課後の過ごし方を決めるのは自分、というのが当たり前でしたけれど、今の子どもたちは自分でやりたいことを決めるという機会が少ないですよね」と高橋さん。自分一人で好きなものを選んで買うという経験をしたことがない、小6までお金に触ったことすらないという子もいる。進学先も親が選んでしまい、本人の将来も本人が選ばない。そんな子どもが大きくなって自由にお金を使えるようになると、タガが外れたようになってしまうケースも少なくない。だからこそ、高橋さんは子どもたちにコトリ堂で「自分で決めて、失敗する」経験をしてほしいと考えている。

「小さいうちから、自分の予算内でどうしよう、と考えてやりくりして、決めてほしい。リスクを自分で取ったうえで、美味しくなかったな、くじ引きで欲しいのが出なかったな、みたいな小さな失敗をしたり懲りたりする、という経験をしてほしいんです。そういう経験がないと、“一度失敗したら終わりだ”なんて思ってしまいますから」と高橋さん。

▲本業の合間に駄菓子を仕入れる。子どもたちが買いやすいように、仕入れ値で販売することも多々あるそう。

駄菓子屋にビッグイシューを置く理由

そんなコトリ堂では、駄菓子屋には珍しく『ビッグイシュー日本版』も取り扱っている。

photoⒸSHUSAKU TAWARA

「私が商売人の子どもだったということもあって、事業が失敗したら、可能性の一つとして路頭に迷うこともあるのでは、という危機感があったのか、ホームレスの人たちに関心が以前からあったんです。あと自分が子どものころに転校をきっかけに“よそ者”扱いされた経験から、若いうちからマイノリティや困ってる人の役に立てたらという気持ちもあって。」

そう考えていた高橋さんは、フリーランス時代には国際交流NPOで日本語教育のボランティアや、DV被害者支援のボランティアなどを行ってきた。会社を立ち上げてからは多忙になってしまい、ボランティアはできなくなってしまったが、それでも会社として何かできないかと、シングルマザー支援としてひとり親の女性を雇用する事業に取り組んだこともあった。

しかし、ひとり親は子どもの体調によって勤務が安定しないことも多く、デザイン事業も忙しい。やむなくひとり親の支援事業は休止。そんなときにコロナ禍が原因でビッグイシューの路上販売が困難になったことを知り、“自分の視野も広がるし”と、委託販売を決定。

「駄菓子屋に来る子どもたちはビッグイシューの読者層とは違うんですけどね。駄菓子屋もそうですが、営利目的じゃないので(笑)。何かチャレンジしてみて、失敗してもなんとかなる、っていうセーフティネットのある社会にしたいんですよね。駄菓子屋に来てる子どもたちにも、失敗しても“一巻の終わり”じゃない、ってことを、先入観を持つ前に知っておいて欲しいと思って。人生って、うまくいかないこともたくさんあるけど、それでも大丈夫なんだよって。私だって、ひとり親支援の事業も失敗したけど、またチャレンジできてますしね」と力説する高橋さん。

ビッグイシューの取り扱いを始めたことをきっかけに、毎号買いに来ては寄付をしてくれる常連さんが現れた。また、近隣の絵本カフェとコラボしてビッグイシューのバックナンバーが読めるカフェを開催したところ、「持っていたイメージと違って読みやすかった」「またやってほしい」と好評だったこともあるそう。

高橋さんは「ビッグイシューは、失敗してもまたチャレンジできる、セーフティネットのある社会をつくるのにとても大事なツールだと思っています。コトリ堂での販売をきっかけに、雑誌の内容を知ってもらったり、販売者さんから買ってもらうきっかけになったりしたらいいな、と思っています」と笑顔で話してくれた。

月曜の駄菓子屋
コトリ堂

埼玉県志木市本町5-1-23レアルコート店舗1
毎週月曜日14時〜17時(祝日定休)
https://cotori-do.trigger-corp.com/
https://www.instagram.com/cotori_do/

株式会社トリガーコーポレーション
https://trigger-corp.com/

ビッグイシューの委託販売制度

より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、カフェやフェアトレードショップ等、ビッグイシューの活動に共感いただいた場所で委託販売を行っています。

委託販売店の例

委託販売先一覧
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