ロック好きの女子を応援する合宿「ガールズ・ロック・キャンプ」

“好きな音楽の方向性”は、個人的に伸ばすものである一方、コミュニティーや時代にも大きな影響を受ける。音楽を楽しむ、というのは非常に個人的かつ共同的な経験なのだ。なかでもロックは、一つの音楽ジャンル以上の存在であり続けてきた。

1950〜60年代、ロック音楽は反抗や自由――自分はその他大勢とは異なる、批判的であり、抑圧や不正に声を上げる――の象徴となった。ジョン・レノンが自身の音楽を通してベトナム反戦を訴え、ボブ・ディランはアメリカ社会の人種差別を見直そうと人々に訴えかけるなど、人気ロック・ミュージシャンが社会活動家となることも少なくない。だが、そんな人気ロックミュージシャンといえば、たいていは“男性”をイメージする人も多い。セルビアのストリートペーパー『リツェウリツェ』の記事を紹介しよう。

ポートランド発「ロック女子」を応援する取り組みが世界に拡散

「ガールズ・ロック・キャンプ」というコンセプトをご存知だろうか。ロック音楽という男性主流の環境で、ロックをプレイしたい女子たちを応援するために2001年にオレゴン州ポートランドで生まれ、その後、世界中の多くの団体によって取り入れられてきた。

Photo: Femix Collective

セルビアでも2017年の夏から、女子限定のロック・キャンプが開催されている。発起人となったのは、若い女性活動家たちのコレクティブ「フェミックス(Femix)」のメンバーたちだ。代表のタジャナ・ニコリッチは、インディーズ音楽界におけるロックミュージシャンの男女格差をなくしていきたいとの思いから、ロック・キャンプ開催を思いついたという。

初回のキャンプには10〜14歳の32人が参加。ベオグラード近郊の山中で一週間、ギター・ドラム・ピアノの初心者向けレッスンの他、作曲や作詞の手法、バンド結成のコツについて学び、最終日には生演奏を披露。それ以降、6つのグループ(ギタリスト、ドラマー、ピアニスト)が参加。2024年の冬には、10〜12歳の女子限定のジュニアキャンプも始動している。「この間、プログラムの改善に努めてきました。参加者たちがだれか他の人の楽曲を演奏するだけでなく、自分のオリジナル曲も作れるように工夫してきましたし、コンサート開催のノウハウを伝えるコースも始めました」

Photo: Femix Collective

「それに、この7年で社会の意識もずいぶん変わり、ロックバンドを組みたい女子たちへの偏見も減ったように思います。まわりのサポートも得られるようになり、私たちの活動を知る親子も増え、信用してもらえるようになりました」

自分の「好き」を共有できる仲間との出会い

毎年いろんな場所で開催することで、国内各地からの参加を促している。いろんな文化を楽しめ、多様性が認められる都市部とはちがい、地方出身の女子にとっては特に、同じ関心を持つ仲間と出会え、手厚い環境で好きな音楽の能力を伸ばせる貴重な機会となっている。「楽器を演奏してみて、こんなことをしてもよいんだと思えることがとても大切なんです」と話すのは、フェミックスのメンバーでドラマーのセリナ・シミック。「自分の好きなものが受け入れられ、志を同じくする友人ができる。自分と同じ緑色の髪をして、ニルヴァーナを聴いて、インディーズ音楽が大好きな友だちができるなんて思いもしなかった、と参加者は口を揃えます。年頃の女子たちにとって、“ここが自分の居場所だ”と思える体験は、とても大切なことです」

Photo: Femix Collective

楽器演奏、歌、音楽製作のコースの他、ユースクラブや同窓生クラブの会員制度もあり、かつての参加者が先輩として年下の女子たちを指導するケースも出てきている。フェミックスでは、女子たちの自信を高めるため、ステレオタイプや社会の逆風に立ち向かうための教育ワークショップや、デジタル・セキュリティー、人前でのプレゼンテーション、音楽ジャーナリズムなどに関する教育プログラムも開催している。

最後にシミックが話してくれた。「キャンプに参加するロック女子たちからは、勇敢さやチームスピリットが伝わってきます。互いにサポートし合うという姿勢は、私たちが学ぶべきことだと思います」

Photo: Femix Collective

Femix
https://www.instagram.com/projekat.femix/

オレゴン州ポートランドの女子ロックキャンプ
https://www.instagram.com/rocknrollcampforgirls/

By Dunja Karanović
Courtesy of Liceulice / INSP.ngo

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