イギリス発祥、貧困問題の解決に取り組むストリートペーパー「ビッグイシュー」は、アジアでは台湾、韓国そして日本に広がり、各国独自の取り組みを展開している。
例えば「ビッグイシュー台湾」では毎年、年末に14人のアーティストが参加するポスタータイプのカレンダーを販売する。2026年版のカレンダーは特に売れ行きが良く、発売1週間で1万冊を超える販売数を記録したという。このカレンダーには、日本や韓国のアーティストも参加しており、ビッグイシュー台湾からの「ビッグイシュー日本と韓国でも販売しませんか?」という提案を受け、急遽、日本では台湾からの輸入販売を決定、韓国でも発売に向けて協議中だという。
ビッグイシュー台湾COOで編集統括の陳芷儀(レイチェル)さんが、今回のカレンダー企画についてメールインタビューに答えてくれた。
今回のカレンダー企画は、どのようなきっかけで生まれたのでしょうか。
毎年カレンダーを制作することは、The Big Issue Taiwan の恒例となっています。
販売者や読者の皆さんが一年をきちんと納め、新しい年を迎えられるように、という思いを込めています。クリスマスや年末年始、そして旧正月へと続く季節の空気とも重ね合わせています。
これまで雑誌の特集を制作してきたなかで、読者の猫への反応がとてもよいと感じていました。猫の佇まい、癒し、そして少しツンとした態度は、そこはかとない癒しをもたらすと感じられたのです。
そこで2023年から、従来のカレンダーを猫をテーマにした「2023 CATlendar」として制作したところ、非常に好評をいただきました。それ以降、この流れを継続しています。

毎年、猫や犬をテーマに、私たち編集部が好きなクリエイターの作品を選び、許諾を得てカレンダーを制作しています。数年続けてきたことで、この企画自体を知ってくださる読者も増え、今年は特に人気を感じました。嬉しい驚きと同時に、販売者たちの勤労意欲にもつながっていることを、とてもありがたく思っています。

企画段階で特に大切にしていたコンセプトや世界観はありますか。
読者の皆さんをエンパワメントし、生きる喜び、前に進むための原動力といったものを届けたいと考えていました。カレンダーは、十字に折られた状態で、中を開くには破る必要があります。この仕掛けによって、新しい年の毎月ごとに「新しいページを開く」感覚を味わってもらえたらと思いました。毎月が、まるで「開封」するような小さな喜びになることを願っています。

イラストレーターを選ぶ際に大切にした基準や条件は何でしょうか。
とてもシンプルで、編集部のメンバー全員が「好き」と感じることです。そして、できるだけ多様な表現や創作のかたちが含まれるように意識しています。

日本のイラストレーターが参加することになった経緯を教えてください。
私たちは以前から、日本のイラストやデザインのスタイルがとても好きで、そのセンスに憧れ、学んできました。特定の国に限定しているわけではなく、SNSを通じて、世界中のクリエイターを探しています。日本や韓国だけでなく、東南アジア、欧米のアーティストも一部含まれています。雑誌づくりでも同じ姿勢で取り組んでおり、カレンダーも例外ではありません。
Contributors
January|保坂有美 Yumi Hosaka @hyhy8877
February|CONVENIENCE YOUNG @convenienceyoung
March|Agathe Singer @agathesinger
April|沖昌之 Masayuki Oki @okirakuoki @okimasayukiintaiwan2026
May|辻野清和 Kiyokazu Tsujino @kiyomaru5
June|Elke Vogelsang @wieselblitz
July|Pablo Delcan @prompt.brush @pablodelcan
August|Jin Young Choi @jychoioioi
September|YEYE @yeye_0214
October|Merle Goll @merlegoll_illustration
November|Drawingdawum @drawingdawum
December|Agathe Singer
2027 January|Gomatsu @matsugoda
2027 February|Pablo Delcan
台湾で実際に発売してみて、どのような反響がありましたか。
ここ数年は Reels がとても普及し、読者の方々が自主的に開封動画を撮影するなど、大きな反響があります。さらに、他のネット上の読者と「どこで販売者に出会えるか」を共有してくださる姿も見られました。
台湾版の読者の皆さんからのカレンダー購入報告:https://www.instagram.com/stories/highlights/18106259896727129/
私たち社内のリソースは限られていて、本当は自分たちでも開封動画を撮ったり、もっとオンラインで読者の皆さんと交流したりしたいのですが、日々忙しくなかなか時間が取れません。だからこそ、読者が自発的に動いてくれることに、心から感動し、感謝しています。
また、販売者さんから「カレンダーがとてもよく売れて、読者からも前向きな声をたくさんもらっているので、休むのが惜しい」と言われたことも、とても印象に残っています。
この企画は、最初から国を越えたコラボを想定していたのでしょうか。
最初から国をまたがるコラボを想定していたわけではありません。ある日、編集長がふと思いついたアイデアでした。この数年、日本や韓国のビッグイシューと交流を重ねてきた中、特にコロナ以降、運営の難しさについても話し合ってきました。アイデアが浮かんだ時点ではすでに年末が迫り、とてもタイトなスケジュールでしたが、カレンダーの成功を日本や韓国のビッグイシューと共有したいと思いました。
この友好的な関係が、始まりに過ぎないことを願っています。今後、もっと多くの面白い共創ができたら嬉しいです。路上で販売を続けるビッグイシュー同士が、互いに励まし合いながら進んでいけたらと思います。販売者の人たちに「自分の力で生きていってほしい」と願うのと同じように、私たち自身も自分たちの方法で生きていかなければならないと感じています。
国は違っても、「ビッグイシューとして共有している価値」のようなものはありますか。
最も重要なコアとなるものは、販売者に仕事の機会を提供し、雑誌販売を通して自立し、生きていく力を得てもらうことです。その力は、販売者を通じて、また雑誌の内容を通じて、読者にも伝わっていくと思っています。AIの時代だからこそ、こうした人と人との関わりは、より貴重な価値になっていると感じます。

国を超えたコラボについて、どう感じましたか。
本当に急に始まったコラボで、各国の印刷文化の違い*もあり、台湾からカレンダーを空輸する必要が生じるなど、様々な試行錯誤がありました。それでも、とても良い経験でした。日本や韓国のパートナーがすぐに検討に入り、積極的に関わってくれたことが印象に残っています。これこそが、ビッグイシューが国を超えてつながるブランドである価値だと思います。ビッグイシュー以外に、これほど自然に、面白く国際協働が生まれる雑誌はあるでしょうか。
*当初はビッグイシュー台湾から納品データを受領し、日本国内の印刷会社で印刷することも検討したが、日本ではなじみのない仕様であったため、価格・スケジュール面で折り合いがつかなかった。
このカレンダーを通して、使う人にどんな時間や気持ちを届けたいですか。
一年をゆっくりと納め、軽やかな気持ちで新しい年を迎えてほしいと思っています。年末や新年は、どうしても「新しい目標」や「新年の抱負」を求められ、ややプレッシャーを感じる時期でもあります。ビッグイシューの猫犬カレンダーが伝えたいのは、「あなたはもう十分頑張っている」というメッセージです。猫や犬たちに癒されながら、軽やかに新年を迎えてほしい。そして来年、月ごとに、私たちの温もりがそっと寄り添えたら嬉しいです。
日本の読者のみなさまへ
台湾、日本、韓国、そして世界のどこであっても、ビッグイシューの読者でいてくださる皆さまへ。忙しい日々の中で足を止め、このような一冊を手に取り、支えてくださっていることに、心から感謝しています。
ビッグイシューのチームは、編集・制作に真摯に向き合いながら、販売者を支えるために日々力を尽くしています。雑誌の路上販売を取り巻く環境は年々厳しくなっていますが、それでも私たちは、人と人とのあいだに生まれるやりとりこそが、もっとも大きな前向きなエネルギーを生むと信じ続けています。皆さんにも、同じように感じていただけたら嬉しいです。
台湾 Big Issue チームより、
2026年がみなさまにとって良い一年になりますように。
新年あけましておめでとうございます。陳芷儀 Rachel Chen
最高執行責任者 兼 主編
ビッグイシュー台湾
https://medium.com/thebigissue
「2026 calenDOG/CATlendar」仕様
サイズ:
25×18cm(表紙・裏表紙、およびポスターを十字折りした販売時のサイズ)
50×36cm(内側ポスターの展開サイズ)
※ポスターカレンダーは接着剤で固定されていますので、開封の際はゆっくりお取り扱いください。
日本での販売価格:2500円
発売開始:2025年12月25日予定(限定500部)日本各地の路上で販売します。

