2026年1月現在、世界35カ国で92のストリートペーパーが発行されている。ストリートペーパーとは、ホームレス状態にある人や生活困窮者が、路上で販売することで収入を得て、自立を支援する雑誌や新聞のこと。それらが互いに繋がり、記事や情報をシェアし合う国際ストリートペーパーネットワーク(INSP)を中心に、ドイツ語圏を中心とするストリートペーパー事業団体のネットワークでは、年に一度、総会を開催している。各誌の関係者にストリートペーパーの意義について話を聞いた。

社会正義という観点から世界を見つめる
ストリートペーパーは、家を失うとはどういうことか、困窮するとはどういうことかについて、大手とは異なる方法で伝えるメディアです。既存メディアへの信頼が揺らぐ昨今、独立したメディアという立場を貫いています。紛争、戦争、世界的に増えゆく貧困、政治的にとても困難な時代を生きている私たちにとって、社会正義という観点から世界を見つめることがとても大切。だから私たちの活動に意義があると考えます。今ほど、ストリートペーパー事業が求められるときはないのではと思っています。
マイク・フィンドレー・アグニュー/INSP代表取締役
「第四の権力」としての責任を果たせるジャーナリズム
私はスウェーデン最大手の新聞社で20年間働いていましたが、社会問題や社会正義を問う機会という観点で、私が望むような社会への影響力は果たせませんでした。デジタル化の波に飲まれ、すべてにおいてクリック数が基準。アクセス数を増やすため、犯罪や有名人の話題ばかり取り上げるのです。持続可能な社会を築くため、私は「第四の権力」としての責任を果たせるジャーナリズムに携わりたいと考えました。ストリートペーパーは様々な立場の人々を巻き込み、声なき人たちに語りかけるメディアです。民主主義にとって重要な調査報道も行います。世界各地のストリートペーパーは、良質なジャーナリズムと困窮者の雇用創出によってなりわいを提供し、社会参加を促し、自立のチャンスを提供する、そんなジャーナリズムに携われて大変光栄です。
サラ・ブリッツ/ 『ファクトゥム』(スウェーデン・ヨーテボリ)編集長
『ファクトゥム』販売者の声
販売者自身のストーリーを伝えるジャーナリズム
ストリートペーパーは販売者が収入を得る手段であると同時に、販売者自身のストーリーを伝えるジャーナリズムです。ノルウェーでは、初期の販売者のほとんどが薬物問題を抱えていて、強い偏見がありました。販売者たちがどんな人で、どんな事情を抱えて生きてきたのかを伝えることで、人々の受け止め方を変える取り組みを行ってきました。近年は、ヨーロッパ南東部からやってきた移民の販売者に対する偏見という新たな問題に直面しています。こうしてかたちを変えていく差別や偏見に対する取り組みを続けています。社会的に排除されがちな人々がどんな人なのか、彼らの尊厳を守りながら伝えていくことを大切にしています。
ヴィゴ・マスタッド/『エルリック・オスロ』(ノルウェー・オスロ)編集者
『エルリック・オスロ』販売者の声


社会正義の実現に向けた貢献
ジャーナリズムを追求する上で、しっかりとスタンスを表明することが重要です。現状を描くだけでなく、変化を起こすこともやっていきたい。社会正義の実現に向けた貢献、記事を書くときも販売者のサポートにおいても、その思いが私たちの活動全般を支えています。
ジュリア・ライター/『メガフォン』(オーストリア・グラーツ)編集者
民主主義が抱える危機への一つの打開策
ストリートペーパーにはすでに約30年の歴史がありますが、ジャーナリズムと社会事業を組み合わせるというこの理念は、まさに今日の危機への答えになると思います。すべてを失ってしまった人々、心身に不調を抱える人たちも、慈善支援ではなく、自らの手で人生を立て直せるチャンスを求めている。ストリートペーパーはその手段となる事業です。
その一方で、ジャーナリズムは“現場に根ざした”ものであるべきと考えますーー触れられて、目に見える、明確にまちの一部となるもの。路上販売という独特のチャネルが、社会的な障壁を越え、人々が互いに学び合う機会となっています。地域密着型のジャーナリズムと、人と人との出会い、この二つが、民主主義が危機にさらされ、連帯感を失い、深まる分断という民主主義が抱える危機への一つの打開策となるはずです。
バスティアン・ピュッター/『Bodo』(ドイツ・ボーフム、ドルトムント)編集マネージャー

『bodo』販売者の声

分断が進む中、私たちに必要なのは議論ができる社会
販売マネージャーとして、さまざまな関係者をつなぐ役割を担っています。ストリートペーパー事業も”橋渡し役”と位置づけています。かつては柔らかかった他者との境界は、いまや壁になってしまった——私たちはそんな時代を生きています。ますます社会の分断が進む中、オープンな姿勢で交流をうながす組織が存在すること、それがさまざまな関係者を対話の場へと導いて、相互に行き来できる関係性を生み出していることは、とても意味のあることだと思います。私たちに必要なのは議論ができる社会、その意味でストリートペーパーの存在はきわめて重要だと思います。
クリスティアン・ハーゲン/『ヒンツ&クンツ』(ドイツ・ハンブルク)販売マネージャー
『ヒンツ&クンツ』販売者の声


どんな状況でも何も発信しなければ大切なことが見逃されてしまう
弊誌は1992年にホームレス状態など社会的に困難な状況にある当事者たちによって創刊され、以来、路上生活者をはじめ、困窮状態にある人々の代弁者になることを重視してきました。昨今のメディア事情において、私たちの声がいかに重要であるかを確信しています。どんな状況でも何も発信しなければ大切なことが見逃されてしまう。ケルンには86の地区があって、毎週開かれる市場、教会、スーパー、学校があり、私たちもそうした地域社会の一部なのです。
市民所得(Citizen’s Income)の削減、困窮者へのより厳しい対応、高齢者を対象とする賃貸契約の解除や強制退去など、諸問題に関する抗議や集会に参加することで、コミュニティの存在を示し、声を上げる取り組みも行っています。また、路上生活者も参加できる議論の場を設け、市長選挙のときには彼らから寄せられた質問を全候補者に投げかけました。路上生活者の声を届ける、私たちがいなければ広がっていくばかりの溝を少しでも埋めたい、そんな思いで日々取り組んでいます。
クリスティーナ・バッハー/『ドラウセンズアイター』(ドイツ・ケルン)編集長
『ドラウセンザイター』販売者の声

夢は、リクシャーで雑誌の宣伝やツアーガイドをすること

薬物依存症から回復、今では仲間を支える側に
良質な記事を書く、それを販売者が販売することで生活の糧となる
私自身、両親が離婚してから貧しい生活を強いられました。一部の教師たちからひどい扱いを受け、学校でもみじめな思いをさせられました。母がシングルマザーだからと、お前の家族は“反社会的”という教師までいたんです。突如として不公平な扱いを受けることがある、この経験は私に大きな影響を与え、貧しい人々の支援に関わる仕事をすることが私の中で最優先となりました。良質な記事を書く、それを販売者が販売することで生活の糧となる。今それが実現できています。
セヴェリーネ・ヴァール/『シュトラーセン・クロイツァー』(ドイツ・ニュルンベルク)編集者
『シュトラーセン・クロイツァー』販売者の声

社会問題について議論する場を提供し、それが収入を得る手段となる
これまでの仕事でも社会事業に関わってきました。司法省では犯罪者支援や保護観察制度などに携わっていました。 ストリートペーパー事業には多くの当事者が重要な役割を担っていますし、社会問題について議論する場を提供し、それが収入を得る手段となっているため、大変意義深いと感じています。理想を言えば、政府の補助金や寄付者に頼らずとも事業を運営できるようになればよいのですが。
ヨー・タイン/『ヘンペルス』(ドイツ・シュレースヴィヒ゠ホルシュタイン州)理事
『ヘンペルス』販売者の声


販売者を“目に見える存在”に
ストリートペーパーは販売者にまちの中での居場所を提供し、他の人たちのように“目に見える存在”になれているので、都市の社会生活に大きく貢献できていると信じています。本誌の核は都市空間や都市社会にあり、ブレーメンの街とそこに暮らす人々のストーリーを伝えています。毎号、必ずしも貧困問題を中心テーマにしているわけではありませんが、販売者ストーリーは欠かさず掲載しています。路上と同じくインターネット上でも存在を示すため、販売者の声などデジタルコンテンツを充実させ、彼らの関心事、悩み、ニーズを伝えています。
ハイデ・ケート(コーディネーター)&メリス・シヴァスリ(SNSマネージャー)
/『ツァイトシュリフト・デア・シュトラーセ』(ドイツ・ブレーメン)
社会福祉を削減する政治家たちに対して、「これ以上は許さない」と言いたい
ストリートペーパー事業は私の政治活動の一部でもあるため、とても意義深いです。貧困下にある人たちとの取り組み、彼らの声を届けることにやりがいを感じています。数年前から、連盟としてハウジングファースト施策に基づくプロジェクトを立ち上げ、アパートを買い上げ、住居を提供するとともに、生活まわりのサポートを行っています。また、ケータリング業者とタッグを組み、販売者向けの職業訓練も行っています。ストリートペーパー同士が連携し、社会福祉を削減する政治家たちに対して、「これ以上は許さない」と言いたいです。困窮者のために立ち上がり、彼らの尊厳を守っていく必要があります。
シャルロッテ・ロッゲ/『fifty fifty』(ドイツ・デュッセルドルフ)ケースワーカー
物乞いを強いるのではなく、尊厳のある選択肢を提供するストリートペーパー事業は不可欠だと思います。販売者として成功すれば、一般の労働市場で働けるチャンスにつながるはずです。弊誌が行っている街歩きツアープロジェクトのガイドの仕事を通して、生活保護の受給をやめた人たちも出てきています。
デリア・ドゥデラ/『fifty fifty』(ドイツ・デュッセルドルフ)ケースワーカー
『フィフティ・フィフティ』販売者の声

一般の日刊紙にはない、ユニークな点は社会課題を多くの人々に届けること
ストリートペーパーを通して社会課題を多くの人々に届けることができます。それが、国内や海外の政治、スポーツ、芸術ネタを主流とする一般の日刊紙にはない、ユニークな点だと思います。
マルギット・ロート/『BISS』(ドイツ・ミュンヘン)編集長

ⒸBISS
『BISS』販売者の声

社会参加とジャーナリズムの両立
ストリートペーパーは社会参加とジャーナリズムを両立させられる場。収入を得る機会を提供しながら、社会で見逃されがちな課題を取り上げる。この仕事に大きなやりがいを感じますし、純粋に楽しめています。
エヴァ・シュヴィーンバッハー/『20er』(チロル)編集長

他では触れられない記事を読むことができる
ストリートペーパーでは他では触れられない記事を読むことができる、といった声を読者の皆さまからよくいただきます。弊紙ではとにかく社会課題に重点を置き、社会の底辺に生きる人々、そうした人々の支援に取り組む草の根レベルの活動を取り上げるようにしています。
ウーテ・アシェンドルフ/『FREIeBÜRGER』(ドイツ・フライブルク)理事
人間の尊厳を揺るがす政治の台頭に抵抗する
こうした会議に参加すると、志を共にする仲間たちの存在を実感でき、大きな刺激を受けます。組織、チーム、状況は異なれど、仲間が世界各地にいる。これこそ、ストリートペーパー事業の強みだと思います。共同キャンペーンを打ち出す、人間の尊厳を揺るがす右派政治の台頭に抵抗するなど、このパワーをさらに活かしていけるはずです。社会の右傾化が進み、不安定になれば、販売者にもダメージが及び、状況は悪化するでしょう。社会の動向を注視し、販売者を守る具体策を考えると同時に、われわれならではのジャーナリズムを明確に示していく必要があると考えています。
サンディ・フェルトバッハー/『Kippe』(ドイツ・ライプツィヒ)編集者
By Diana Frei and Lea Stuber
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of Surprise / INSP.ngo
世界各地のストリートペーパー一覧
https://www.insp.ngo/network
日本の販売者の声
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