有限会社ビッグイシュー日本やNPO法人ビッグイシュー基金では、ホームレス問題や貧困問題、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、企業や学校から依頼を受け、講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、「京都大学ソーシャル・コミュニケーションデザイナー養成講座」。昨年に引き続きお招きいただき、有限会社ビッグイシュー日本の大阪事務所長・吉田耕一とNPO法人ビッグイシュー基金スタッフの西浦、販売者のMさんがゲストスピーカーとしてお伺いしました。
「社会のあらゆる場面において、デザインの視座からコミュニケーションをリードできる人材を育成する講座」ということで、「人権」、「自己肯定感」、「セルフヘルプ」というテーマを意識しながら、実践のなかでの気づきについてお話しました。

「思いやり」ではなく「バリア」としての人権
講義の冒頭、吉田は人権についてこんなたとえ話で語り始めました。
「戦国時代に僕が織田信長だったら、“ちょっと気に食わない”ってだけで皆さんをバサバサ斬っても罪に問われない。中世ヨーロッパで貴族だったら、“ちょっとかわいいな”って平民に『俺の妻になれ』って言えてしまう。今じゃありえないですよね」
人権は自然に備わった優しさではなく、権力の暴走を止めるために人類が作ってきた仕組みです。吉田は、権力を持つほど共感性が下がるというカリフォルニア大学の研究結果にも触れながら、「だからこそ、権力者の暴走を防ぐために憲法があり、その中に基本的人権があるんです。人権って、思いやりとかマナーじゃないんです。権利であり、バリアなんです」と説明していきました。
転落は一瞬、回復は困難──自己肯定感が奪われるプロセス
続いて吉田は、「普通に暮らしていた人が、仕事・家族・お金を一気に失う」構造について語っていきました。
「落ちるときは階段を転がり落ちていく。でも、もう一回この階段を登ろうとすると、めちゃくちゃしんどい。それで将来の希望を失う。このときに自己肯定感が低下していると思うんです」

「そんな時、『お辞儀の角度90度でやってください』って言われて、前向きな気持ちになりますか? ならないですよね」
ここで吉田が強調したのが、ビッグイシューの根幹にある「セルフヘルプ」の考え方です。販売者は従業員ではなく、「自分の店を持つ本屋の店主」という位置づけで活動します。
「自分で考えて、自分で決めて、売れなかった結果も自分に返ってくる。それが、すごく大事なんです」
外から人を変えようとするのではなく、「自分で選んだ」という感覚を取り戻してもらうことが大切だと吉田は語りました。
若者と社会全体に広がる「自己肯定感」の問題
自己肯定感の話題は、ホームレス状態の人だけの問題ではありません。吉田は、日本財団の調査データを紹介しながら、日本の若者が「自分は必要とされている」「将来の夢がある」と答える割合が、他国に比べて低いことを指摘。
貧困支援の現場で見ている課題は、実は社会全体と地続きなのです。

ビッグイシュー基金の役割──生活・社会・市民をつなぐ
続いて、西浦からビッグイシュー基金の活動について説明。有限会社ビッグイシュー日本が「仕事」を軸に支えるのに対し、基金は生活全般や社会へのアプローチを担っています。

歯科検診や医療機関への同行、寒さ対策の物資支援、「路上脱出・生活SOSガイド」の制作・配布など、活動は多岐にわたります。また、「楽しむこと」を重視したスポーツ・文化活動も特徴的です。
「お金があるだけで幸せなのか、というとそうじゃない。余暇とか、楽しいことも大事なんです」と西浦。
クラブ活動は、当事者が「やりたい」と言い出したものを基に立ち上がります。仕事以外でも「自分で決める」を大事にしています。
販売者Mさんの語り──ギャンブル依存と路上生活のリアル
続いて、販売者Mさんによる体験談。Mさんは、営業職でのノルマによる挫折、職を転々とする中でギャンブル依存に陥った経緯を、淡々と語ります。

「最初はビギナーズラックで勝ってしまうんですよ。それで忘れられなくなる」–負けが続いても「次は取り返せる」という感覚に縛られ、借金が膨らみ、家族関係も崩れてしまいました。
「やめようと思えばやめられると思ってたんですけど、やめられなかった」
リーマン・ショックで派遣の仕事がなくなり、ついに路上生活に至ったMさんは、名古屋城近くの公園で野宿を始めます。
生活保護や自立支援センターを経ても、ギャンブル依存から完全には抜けられず、再び路上に戻る。その中で、運動でもしようかなと始めたビッグイシューのフットサルの活動をきっかけに、ビッグイシュー販売とつながります。
「かわいそうだから」ではない関係性
Mさん曰く、ビッグイシューの仕事は「かわいそうやから買う、じゃなくて、ちゃんと仕事として見て買ってもらってる。それが分かるのが、すごく嬉しい」。
「支援する側/される側」という関係ではなく、尊厳を持って社会とつながることが自己肯定感の回復につながっていく様子を見て、参加者の皆さんから大きな拍手をいただきました。

参加者からの声
講義後のアンケートでいただいた声を一部抜粋してご紹介します。
ホームレス支援に伴う新しい取り組み作りや考え方、思想を学べ、私なりに今までより日本人社会に対する考えを深掘りさせていただける講義でした。今、仕事場にギャンブル依存症の人がいます。いろいろ情報を調べたり、本人と話したりしているのですが、なかなか理解出来ない部分がありました。
今回実際に体験者としての話を聞けて、本人の意識やベクトルの方向を変える仕組み作りが大切なんだと思いました。「やめられないんですよね~」という言葉が印象的でした。ビッグイシューの皆さま、色々な気づきや学びを本当にありがとうございました。
吉田さんとのやりとりのおかげかもしれませんが、Mさんのお話が辛く苦しい内容に感じませんでした。(実際はとても苦しい体験だったと思いますが。)そんな事があったと受け入れておられるからこそなのかもしれません。「また、賭け事するかもしれんもんな」とさらりと吉田さんが問うておられたところも、「Mさん」のそのまんまを受けいれておられる懐の深さを感じました。
本講座の事務局 末長さんからのメッセージ
本講座は、「“誰ひとり取り残さない”を建前で終わらせない」ことを理念としており、社会の中で仕組みを実装していく視点を大切にしています。
ビッグイシューの「ホームレス状態にある方の自立を応援するために、働く場をつくる」という取り組みは、支援する・されるという関係性を超えて、社会におけるコミュニケーションのあり方そのものを変えていく、まさに持続的な仕組みの実践だと感じています。受講生にとって、現場のリアリティに触れ、視野を広げる貴重な機会になると考え、講義をお願いしました。
ビッグイシューの活動紹介、途中のワーク、販売員さんのお話など、どの内容にも印象的な学びがありました。去年(2024年)来てくださった販売員さんに再会できたことも、個人的にはとても嬉しい出来事でした。
そのうえで、今回とくに心に残ったのは、吉田さんがお話しされた「人権って何?」という問いかけでした。私自身、これまで「人権」という言葉はどこか強く聞こえてしまうように感じて、使うのを躊躇してしまう場面もありました。
けれど吉田さんが、 「戦国時代は、殿様の気に食わないことで町民が切り捨てられることもありました。でも現代はそんなことはないですよね。それは“憲法”という、すごい仕組みが発明されたから。僕はこれを“火”の次にすごい発明やと思ってる。」
と、ユーモアを交えて話してくださった説明を聞き、腹にストンと落ちるものがありました。
(ちなみに、ここでは簡潔にまとめてしまいましたが、当日はもっと面白い語り口でした!)
普段、私は「人権が保障されている状態」を当たり前として生活していますが、この“当たり前”は、長い歴史の積み重ねの中でようやく獲得されたものだと改めて感じました。
だからこそ、誰かの人権が侵害される状況があるなら、少しずつでも仕組みを変えていかなければならない。
今回のお話を通じて、そのことを改めて強く感じました。ありがとうございました。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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