根拠なき数字、市場の現実、そして政治による科学的情報の抑圧――。6月に相次いで示された原子力政策の動きは、深刻な問題をはらんでいる。
経産省の試算に重大な欠落
長期停止除外制度は無視
2026年6月5日、経済産業省は原子力小委員会に「今後の原子力政策の方向性と行動指針」(案)を提示した(※)。その核心は、2050年代までに最大14基分、約1600万kWの原発を建て替えるという大規模新設計画だ。私はこの委員会に委員として参加しており、この目標に強く反対した。原発の是非以前に計画の根拠となる試算に、重大な欠落があるからだ。
経産省の計算はこうだ。国の想定電力需要は1.1兆~1.2兆kWh。原発比率を20%とすると、必要な設備容量は約3588万~3914万kW。一方、運転開始から60年経過した原発を順次廃炉にすると、設備容量は2040年度で3360万kW、50年度で2300万kWに減少する。だから新設が必要、というわけだ。
しかしこの試算は、25年にこの委員会で議論し法改正まで行った制度——(福島第一原発事故以降の)長期停止期間を運転期間から除外する仕組み——を一切考慮していない。この制度を適用すれば、40年度の設備容量は3700万kW以上、50年度でも3300万kW以上が維持できる。しかも指針案では稼働率の向上も目指すという。稼働率が上がれば同じ設備容量でも発電量は増えるため、必要な設備容量はさらに小さくなる。
皮肉なのは、長期停止除外制度はほかならぬ原子力業界が求めて導入したという事実だ。新設より運転期間の長期化のほうが安価であることは自明であり、事業者がこの制度を使わないことはありえない。経産省が主導した制度の効果を、自らの試算が無視している。経産省は制度を導入したばかりで実績がないから想定しなかったというが、14基という数字の根拠は皆無だ。
科学を黙らせようとする政治
不都合な活断層情報はスルー
現実もこの計画を裏切っている。同じ委員会で、大手電力が出資する電力中央研究所の朝野賢司委員はこう述べた。「自由化された電力市場では、原子力は発電事業者にとって我が国における最大級のリスク資産」であり、「1兆円を超える初期投資、十数年に及ぶ建設・審査期間、無限責任を基本とする賠償制度、地域合意など、政治・社会・技術・市場のリスクが重層的に存在する」と。これは原発を推進する研究機関の委員の言葉だ。民間企業がリスクを引き受けられないことは、業界内部でも共通認識になっている。だから国が支援を拡大すべきだというのが朝野委員の主張だが、それはすなわち、国民にコストとリスクを転嫁することを意味する。
そして最も憂慮すべきは、6月9日に自民党政務調査会が発表した提言だ。「原子力安全規制・原子力防災の充実・強化等に関する提言(中間報告)2026」は、国土地理院が発表した原発周辺の推定活断層について、発表の仕方を「慎重に検討すべき」とし、原子力規制委員会に対しても「業務に手戻りを生じさせることを避けるよう」求めた。

この断層は、石川県・志賀原発(北陸電力)の敷地内を縦断している可能性が指摘されている。国土地理院は地形の特徴から科学的に活断層の存在を推定した。それを「業務の手戻り」と表現し、学術的な知見の発信を政治が抑制しようとする——これは科学の独立性の根幹を揺るがす姿勢だ。
2011年の東京電力福島第一原発事故から15年。あの事故が突きつけたのは、科学的知見を軽視した時、何が起きるかという教訓だったはずだ。にもかかわらず今、根拠を欠く新設計画が押し進められ、不都合な活断層情報は政治的に封じ込めようとされている。私たちはまた同じ過ちに向かっているのではないか。
松久保肇(まつくぼ・はじめ)
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/
※2026年7月1日発売の『ビッグイシュー日本版』529号・「原発ウォッチ!」第230回より転載しました
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