「脱力する」生き方が、男の暴力を未然に防ぐ



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(メンズサポートルームの中村正さん)

必要な加害男性側の再発防止方策



DVへの対応の一つは、DV防止法の保護命令(退去命令や接近禁止命令)によって、家庭内に介入して加害者と被害者を分離することにある。しかし、分離した後、大きな精神的ダメージを受けた被害者をケアする仕組みが緊急の課題であるのと同じように、加害者の更生指導、再発防止、未然防止への働きかけが重要。


法的に罰せられても、加害男性は自分の暴力を、家事などがきちんとできない妻や彼女への教育であるとか、「自分も悪いが、暴力を引き出した相手にも非がある」と思いがち。駐車違反でキップを切られた時に逆上する人のように、「みんなやってるのに、どうして自分だけが罰せられるんだ」と考えているケースが多い。

メンズサポートルームでは、こうした加害男性に対応するため、京都と大阪でグループワークや語る会を開催し、暴力を男の視点からとらえ、なぜ自分は暴力をふるったのか?脱暴力化するためにはどうしたらいいのか?を考え、気づき、男性が家庭内で暴力なしで生活する方法を学ぶ機会を提供している。




”私“メッセージで、男らしさを脱ぐ



なかでも暴力を乗りこえるためのグループワークは、社会の中で植えつけられてきた過度の”男らしさ“を塗り替える作業が中心になる。多くの男性は、競争社会や家族制度などの中で、「男は強くなければいけない」「勝たなければいけない」といった抑圧的な男性文化の中で育っている。それが、妻や彼女への暴力につながる男性特有の「感情鈍磨」「言語化困難」「攻撃・行動化」を生む土壌になっている。

そうした自分を縛っている”男らしさ“に気づくため、まず安全の保障された男同士のグループワークという世界で、自らの体験や感情を「私」を主語にして語ってもらう。これは、「私メッセージ」というコミュニケーションスキルで、普段、男性が使いがちな「我々」「男というのは…」「社会では…」といった主語を使わないのがポイント。理屈や論理・分析的な言い方も極力抑え、感情語を多く使うことで、暴力や攻撃性と近いところにある”男らしさ“を脱学習していく。同時に、暴力に訴えないセルフマネージメント力、ソーシャルスキルを身につけながら、被害女性に謝罪を行う土壌をつくっていく。

ただ、現在は”男らしさ“から自由になることは、「落ちこぼれ」「負け組」「ダメ男」という負のラベルを貼られることも意味しかねない。今後は、この「脱力する生き方」が、新しい社会の価値観と結びつき、「降りる」ことが進化であるということを示していくことが、加害男性の暴力の未然防止にもつながる。

(稗田和博)




中村 正(なかむら・ただし)
1958年生まれ。NPO法人「きょうとNPOセンター」常務理事、立命館大学大学院教授。家庭内暴力の加害者のためのグループワークを行う「メンズサポートルーム」を主宰。著書に、『「男らしさ」からの自由』(かもがわ出版)ほか。










(2006年8月15日発売 THE BIG ISSUE JAPAN 第55号 特集「愛と暴力の狭間で—D.V.(ドメスティック・バイオレンス)からの出口はある」より)


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