住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.5を読む

住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.6

司会:ありがとうございました。続きまして第四章「住宅セーフティーネットを検証する」というところについて川田菜穂子委員から聞いてみたいと思います。よろしくお願いいたします。

住宅セーフティーネットを検証する

川田:みなさんこんにちは。大分大学の川田と申します。私からは「住宅セーフティーネットを検証する」ということで、住宅困窮者と言われるような層が拡大する中で、どうしても住宅市場で住まいを確保できない人たちが増えてくる。その中で、どういった対策があるのか。こういったセーフティーネットは今、どのようなものがあって、どういったことが論点になっているのかを説明したいと思います。スクリーンショット 2014 07 24 11 59 20

前にある図は主に低所得者を対象とした住宅セーフティーネットの仕組みを簡潔に表しています。主に住まいのセーフティーネットは2段階あるあります。

第一の段階にあるのは、公営住宅を中心とする直接に住宅を供給するという仕組み。それから、民間借家への円滑入居を促進する仕組み、それから、住宅支援給付という形で住宅手当を支給する仕組みもあります。ただ、公営住宅以外の二つに関しては普及が進んでいません中心的な役割を担っているのが公営住宅の供給になります。

それから次の段階として生活全般を包括的に保証する生活保護があります。その中に住宅扶助という家賃補助を支給するという仕組みがあります。

ただこれからお話するように、公営住宅にはなかなか入れない、生活保護後の住宅扶助もなかなか支給されない状況のなかで、セーフティーネットから落ちてしまう人が沢山います。そういった層をフォローしているのが、第2の住宅市場と言ったらよいのでしょうか。無料低額宿泊所や、脱法ハウス、ゼロゼロ物件といったものです。いわゆる貧困ビジネスと呼ばれるような、低所得層を対象とした住宅市場が発展していて、公的なセーフティーネットの受け皿になっているのが現状です。

公営住宅の絶対的な不足

時間がありませんので公営住宅と住宅手当の二つを中心にお話します。まず公営住宅に関しては、いちばん大きな問題は、絶対量が不足していることです。

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今、管理戸数が217万戸ですが、2005年をピークに、どんどんストックが減ってきてます。募集戸数に関しても、現在、9.7万個ということで、これは10年間で半分に減っています。

なぜ募集が出ないかというと、入居者が固定化されているとか、老朽化して改修も募集もされない住戸が増えてきているという問題があります。なかなか入れないということで公営住宅の応募倍率全国平均で9倍ぐらいになっています。都心部であれば東京で平均30倍、大阪であれば平均20倍、さらに人気のある物件になると200倍300倍といったような当選確率が極めて低い状況になっています

一方で応募倍率が高い物件もあれば、非常に不便な地域にある、応募者が全くいないような公営住宅も沢山あります。そういった地域偏在もひとつ課題になっています。

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それから入居資格のカテゴリー化といった問題もあります。公営住宅は、低所得者であれば誰でも入れるわけではありません。主に入居が難しい人は若い単身世帯です。公営住宅法の改正があり、原則として若い単身世帯も入居可能になったのですが、自治体の条例で規制しているところもあります。若い単身世帯は、どんなに生活に困っていても公営住宅に入れないといった現状があります

住宅や設備、施設も老朽化が進んでいます。また、高齢者であったり、障害を持っている方であったり、母子世帯であったり、いわゆる社会的弱者と呼ばれるような世帯が集住する傾向にあるので、コミュニティーのバランスの問題もあります。

最近は地方分権という国の施策の流れで住宅政策に関しても、自治体の裁量が拡大しています。その中で公営住宅を積極的に供給するような自治体はほとんどありません。今後は、ストックがさらに減るのではないかと思います。


十分に機能していない住宅扶助

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公的な住宅手当として、生活保護の住宅扶助の仕組みがあります。しかし、なかなかハードルが高くて受給世帯が少ないということがあります。

先進諸国の中でも例えばイギリス、フランスといった国であれば、低所得層を対象とした公的住宅手当は全世帯の2割前後が受給しています。日本ので公的住宅手当(住宅扶助)の受給率は大1.5%程度しかありません。非常に受給者が限定された仕組みになっています。

問題としてやはり受給率が極めて低く、受給資格があっても受けられないということがあります。それから、住宅の物的水準について設定がないことも問題です。劣悪で狭小な住宅に住んでいても、住宅扶助の限度額いっぱいの住宅扶助が支払われているケースもあり、貧困ビジネスに繋がっているということもあります。一方で、都心部では、住宅扶助の上限額であってもまともな住宅が確保できないという問題もあります。住宅扶助と市場家賃、住宅の質がそれぞれ見合っていないことが課題になています。

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住宅扶助の代理納付というのが数年前から出来るようになりました。これまで住宅扶助額が直接被保護者に支払われていたのが、大家さんや不動産業者さんに直接的に振り込むことができるようになりました。地域によって代理納付の普及に差があるということなのですが、賃貸住宅に入居している一般的な低所得層よりも、住宅扶助を受給している被保護層のほうが「手堅い」お客様になる可能性があるといったことも、貧困ビジネスの拡大に影響しているかと思います。

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リーマンショック後には、日本で初めての家賃補助制度として住宅支援給付が誕生しました。これは2年以内に離職した方で65歳未満の方を対象に家賃補助をおこなうものですが、離職者だけに対象を限定していること、認知度が低いこと、家賃の補助がされても敷金礼金など初期費用を捻出する仕組みがないなどの理由で普及していません。失業が長期化するなかで受給期間が原則3ヶ月と極めて短いことも大きな課題です。

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そういった制度的な不具合からなかなか普及していないのが大きな問題になっています。以上です。


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住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編

part.1
徳武聡子さんが語る「追い出し屋問題」のいま:目立つ過酷な家賃取り立て

part.2

part.3


part.5

part.6
東京都の「公営住宅」の応募倍率は平均30倍。若い単身世帯は、生活に困っていても入居できない(本記事)

part.7

part.8

part.9

資料
「住宅政策提案書」:2013年11月1日