今日はとても変わった、しかし読んでいくうちに(女性の方は特に)さまざまな思いを持たれるに違いない、そんな記事をご紹介します。宇宙を旅する人形の話…ですが、そこから語られるのは、女性と科学(或いは工学や数学)の話です。日本の場合、理系に進み、その分野で活躍する女性の数は、西洋諸国に比べると更に少なくなります。子ども達が性別によって夢を諦めたり、控えたりすることなく、どんどん興味のあることを追求していけたらいいと思います。では、ご一読下さい。
天文学者ロッティー人形は、新たな世代の女性科学者を鼓舞することができるか?
重力波は宇宙にさざ波を立てている――国際宇宙ステーションに搭乗して地球のまわりを回っている小さな人形も同じだ。天文学者ロッティー人形は、新世代の女性科学者達を鼓舞するため、宇宙の魅力にとりつかれた6歳の女の子アビゲイルによってデザインされた。しかし、実際のところ、ロッティー大変な任務を負わされているのだ。地球上では、理系(科学、工学、エンジニアリング、数学分野)を目指す理系女子の前途はさほど輝かしいものではない。なぜもっと多くの女性たち科学や数学に関わる仕事に引き寄せられていかないのか、ビッグイシューUKが探る。
――ルーシー・スイート
少女たちの夢を乗せて宇宙を旅するロッティ人形―設計したのは6歳のアビゲイルちゃん
「ときどき空を見上げて考えるんだ……いつかわたしもあそこにいけるかもしれない……あそこに何があるのか、見ることができるのかなって」これは、宇宙探索に夢中になっているカナダ在住の女の子アビゲイルがおずおずと語った言葉だ。この6歳の女の子は、現在、宇宙飛行士ティム・ピークとともに宇宙ステーションに乗って地球のはるか上空を飛んでいる天文学者ロッティー人形のデザイナーでもある。
アイルランドのおもちゃメーカーArklu社の理系人形シリーズのひとつである天文学者ロッティーは、もしかすると宇宙でもっとも力のある女性になるかもしれない。粋な帽子をかぶり、その手には望遠鏡を持って、ロッティーはどんな人形も行ったことがない場所を旅している。そして、世界中のアビゲイルのような少女たちは、いつかそのあとに続きたいと考えているのだ。
理系分野で働く女性の割合はわずか13%。女性を理系から遠ざけるものは何か?
しかし、もしロッティーが国際宇宙ステーションに行ったことで、Arklu社が今後製作する人形の傾向を変化させるだけでなく、宇宙に夢中な少女たちの心に何らかの変化をもたらすのだとしたら――それは大変な任務と言えるだろう。
地球上では、理系を目指す女性たちの前途はあまり輝かしいとはいえない。女性の科学分野への進出や活躍を支援しているワイズキャンペーンによると、2015年に理系の専門課程を卒業した女性の数は2014年と比べて6000人、率にしておよそ5%減少した。現在、理系分野で働いている女性の割合は、全体のわずか13%である。なぜもっと多くの女性が科学や数学に関連する学問を研究しないのか? 幼いころの励ましが足りないのか? 単に女の子は男の子と比べて科学への興味が低いだけなのか?
「その質問をされると、おもしろいなと思います」。天文学者ロッティーの技術アドバイザーで、イギリスのポーツマス大学で天文および天文物理学を教えるカレン・マスターズ博士は言う。「わたしは実際に科学を選んだ女性です。女性から科学や数学を遠ざける何らかの理由があるにせよ、わたしには作用しなかった。でも正直なところ、2016年の今日でも大変なことはあります。常にステレオタイプに立ち向かう覚悟が必要で、それにはエネルギーがいります。だからおそらく女性が科学を続けるためには、それ相応の励ましがなくてはならないのかもしれません」
家庭や社会に溢れる「理系は男性のもの」という意識が女性の理系離れを助長する
『励ましが必要』という点を考えてみると、そもそも問題はそこから始まっているように思われる。ストラスクライド大学のエンジニアで講師のブライアン・ラウドンは、(女性が理系分野に進むのを)思いとどまらせる動きは早い時期から始まるのではないかという。「うかつにも、そのような問題はもう存在しないとずっと思っていたのですが、わたしより若い女性が幼いころから理系の道に進まないようにと、家族からうながされていたと聞きました。わたし自身は、父が車の修理をするのをうしろから覗いて、エンジニアリングについて学び始めました。もし父が「あっちに行ってなさい」と私を追い払っていたら、どうなっていたでしょう?」
女の子が理系を目指す場合、励まされることはまれだ。テレビの科学番組、特に天文学などを見ても、おなじみのブライアン・コックス教授やダラ・オブリエン、(あの)ブライアン・メイ博士など、望遠鏡を駆使する男性ばかりの世界だ。それらの有名科学者達と肩を並べることができる女性科学者は…と、天文学者カレン・マスターズ博士が名前を挙げはじめる――ルシー・グリーン教授、リズ・ボニン、ヘレン・クツァースキー博士とヘレン・アーニー。しかし、それらの名前の中に、誰もが知っているような名前はひとつもない。今のところは。
男性一色の科学の世界に現れた女性物理学者マギー・アデリン=ポコック
ひとりの女性が理系社会における性差のアンバランスさを是正しようとしている。サー・パトリック・ムーアの跡を継いでBBCの科学番組『スカイ・アット・ナイト』のプレゼンターになった宇宙科学者のマギー・アデリン=ポコックである。ティーンエージャーのときに望遠鏡を組み立て、今はイギリスで最も著名な物理学者でもある。
ささやかな人形が新たな世代の女性科学者を刺激することができると彼女は思っているだろうか?「これからの理系の挑戦は、若い女性にもっと多くのロールモデルを提供すること。それからステレオタイプを崩すことができるのなら、何でもやるべきです」とアデリン=ポコックは言う。女の子たちを科学から遠ざけているものは何だろうか?「私が学校を訪問すると、物理を勉強しても意味がないという女子生徒が多い。男子が勉強するものだし、勉強したって教師くらいにしかなれないからと言うのです。でも実際には多様な仕事に就けるのです!
ミサイルの早期警告システムの開発、宇宙船の製造、惑星の発見、気候変動の研究など。わたしは女子生徒たちに、科学によって開ける彼女たちの可能性を示して見せます」
理系の現場での女性差別
しかし理系の世界では女性差別が問題になっているとよく耳にする。昨年、ノーベル賞を受賞した科学者のティム・ハント教授が、女性科学者たちが研究室で「恋愛をしたり泣いたり」しすぎると不平を言って批判された。ラウドンもそのような差別があることをよく知っている。
「より伝統的なエンジニアリング会社では、年配の社員のなかにもっと古臭い考え方があるのを感じることがあります。2008年の景気後退以来、建築業界では女性に偏った人員削減が行われていると報告されており、業界への疑問の声があがっています」
しかし、誰もがそのような経験をするというわけではない。イギリスのエアバス社で宇宙船のエンジニアとして働いているシアン・クリーバーは、女性差別に出会ったことはなかったという。「もちろん女性であるために少数派ということはよくありますが、性差別を感じたことはほとんどありません」。アデリン=ポコックは女性の同僚から、オフィスに入ったら掃除用具入れの鍵を渡されたという話を聞いたことがあるというが、「仕事を始めてしまえば能力を認めてもらえて、(女性であることは)まったく問題にならなくなります」
どんなに手が届かないように思えても、野心を持ち続けること
ロッティーは、科学業界が男性ばかりに占められている状態を変えるのに一役買うことができるのだろうか? 多くの女性科学者をあと押ししてきたのは、子どもの頃に描いた夢である。カレン・マスターズ博士は、子どもの頃に宇宙飛行士になるためのパンフレットを請求する手紙をNASAに宛てて書いたことを話してくれた。シアン・クリーバーは初めて手にした望遠鏡で土星の輪を観察し、天文の勉強をしたことを証明するガールスカウトのバッジを獲得した。アデリン=ポコックは成層圏に情熱を馳せていた。宇宙に行って、テレビ番組のキャラクターであるクランガーに会いたいと願っていたのだ。
「野心を持ち続けることです」。現在は欧州宇宙機関のための探査機を開発しているクリーバーは言う。「手の届かないことのように思えても」
天文学者ロッティーを発明したアビゲイルも知っている――野心とインスピレーションが女の子をとても遠くまで運んでくれることを。
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