ヒトは何でできているの?—分子解析が解き明かす生物の多様性(1/2)

二酸化炭素から植物、動物、人へと循環する分子レベルから、生物の多様な生態を解き明かす陀安一郎さん。その研究を支える分子解析法とは何か?

P20tayasu

肉食派?それともベジタリアン?髪の毛でわかる食生活

やや唐突な質問だが、あなたの身体は何をもとにつくられていますか?

そう聞かれて、即座に答えられる人はどれぐらいいるだろう? 「肉ばかり食べている」という人もいれば、「魚が中心」という人もいるだろう。あるいは「ダイエット中なので野菜」と答える人もいるかもしれないが、さて本当にそうなのかは定かではない。

そんなふだんの食環境を、わずか数本の髪の毛から分析して、まるで健康診断のように数値を出してくれる調査がある。

髪の毛調査をしている陀安一郎さんは、「健康診断ではないですが、一般の人からご提供いただいた髪の毛から、みなさんの炭素・窒素同位体比を解析して、その人がふだんどんな食環境にあるかを調べているんです」と言う。

炭素・窒素同位体比って何だろう?と思わないでもないが、まずは下のグラフを見てもらいたい。縦軸は人間の体内にある重い窒素の割合を表していて、横軸は重い炭素の割合を表している。この窒素と炭素の量が人によってそれぞれ異なり、さらに住んでいる国やその時代によって違うのがおもしろい。

スクリーンショット 2013 07 10 7 51 26

陀安さんは、続ける。

「簡単に言うと、左下の方向にいけば、植物性タンパク質(野菜・豆腐・納豆など)の影響を多く受けていて、上の方向に行くほど、魚の影響を受けているんです。あと、右の方向は、トウモロコシなどの飼料を餌に育てられた肉類の影響を受けていると考えられます。

例えば、実際の髪の毛から得られた各国別のデータを見てみると、左下の方にあるのはインドの菜食主義者で、やはり野菜を多く食べていることがわかりますよね。

逆に、ブラジル人やアメリカ人は右の方にありますが、北中米大陸ではトウモロコシ飼料などのC4植物(サトウキビやトウモロコシなど、高い二酸化炭素濃縮機能を備え、高温乾燥した過酷な地域でも生育できる植物)で家畜を育てているので、その肉の影響を受けていて、牧草で家畜を育てるヨーロッパのオランダは一番左にあります。

ちなみに、江戸時代の日本人の髪の毛は、魚と野菜(米)の割合が高くなっています」

<後編「陀安一郎さん「身体の元素構成を調べれば、その人の食生活がわかるんです」(2/2)」に続く>

(2007年12月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第83号