水が飲めずに死んでいくアフリカゾウ――共存のために人間ができること

アフリカゾウの数は、1800年代には2600万頭いたが、今や41万5千頭にまで減少している。ヨーロッパ諸国による植民地化、密猟、開発がすすみ人間に生息地が奪われていることが主な原因だ。そして近年、この大きな動物は、また別の深刻な問題に直面している。アフリカゾウはその固有の生理機能から、毎日数百リットルもの水を飲む必要があるのだが、気候変動がアフリカの広範囲に長期的で深刻な干ばつをもたらしているため、十分な水が飲めなくなっている。この状況が変わらなければ、アフリカ――そして世界――は、地球からこのユニークな動物を絶滅させてしまうおそれがある。

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今年発見されたゾウの死骸。ケニヤで続く干ばつによるものと考えられる。
DANIEL IRUNGU/EPA

ゾウが死ぬと多くの動植物が影響を受ける

ゾウは生態学的、文化的、経済的に価値があるだけではなく、さまざまな生態系をつなぎとめるうえでも非常に重要な役割を果たしている。そのため、数が減少すると広範囲に悪影響を及ぼしうる。とくにアフリカの生態系はゾウの生命と深くかかわっている。ゾウは食料を得るために、木々を踏みつけ、木の皮をはがす。これにより森林が草原に変わり、小さな種が共存できるようになる。ゾウは水を求めて乾燥した河床を掘る。これにより、ほかの動物がアクセスできる水たまりがつくられる。さらにゾウの群れが移動することで、フンに含まれる種が拡散する。

しかし近年の気候変動により、アフリカ南部・東部は強烈な干ばつに襲われている。なかには20年以上続くものもあり、多くのゾウが水不足に陥っている。2003年時点の研究でも、ジンバブエのゾウが干ばつで命を落としていると指摘されている。2016年には、エルニーニョ現象がアフリカ南部に被害を与え、さらに多くのゾウの死亡事例が報告されている。地元の保護団体は水を得るための穴を掘削し、なんとか救済できないかと取り組みを進めている。干ばつにより入手できる食料も減少し、ゾウが飢えに苦しむ原因となっている。のどが渇いた母親ゾウからは十分なミルクが出ず、赤ちゃんゾウが正常に発達できず、死んでしまっている。

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干ばつにより赤ちゃんゾウが正常に発達できなくなる。
Attila Balazs/EPA

放熱しづらいゾウには大量の水が必要

暑さのストレスには人間やほかの生き物も苦しめられているが、とりわけゾウは干ばつや熱波に弱い。その理由は、ゾウは発汗による放熱がむずかしいことにある。体内温度が高くなると、細胞、組織、臓器の機能が妨げられ、病気になりやすいのだ。

図1は、ゾウが熱を蓄積・放散するしくみを示している。代謝活動、身体的動作、環境からの吸収によって熱をため込みやすい一方、放散は必ずしも効率的ではない。その分厚い皮膚や汗腺の少なさが、放散スピードを遅くしている。

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図1ゾウが熱を吸収・保持、および放熱するしくみ

陸生哺乳動物の中でも最大級のゾウは体重が8トンに及ぶものもいる。大きな体の容積により熱が発生しやすいのに対し、熱を逃がす表面積(皮膚)は小さいため、熱の処理に水分が欠かせない。1日に数百リットルの水を飲むほか、泳いだり、泥や水をかけることで、その蒸発作用で発汗と似た状態をつくり、体内温度を下げている。

フェンスを撤去し、ゾウを自由に歩き回らせる必要性

介入策として人工の水源(管、井戸のような穴、ポンプを使う)を設置することもあるが、地域の人々が使う水資源とのバランスの問題や、水源のまわりに大勢のゾウが集まることで、環境に永続的なダメージを与えたり、ほかの動物の食料が減少するおそれあがるなどの問題がつきまとう。

ゾウは歴史的に、干ばつの間は水のある場所へと移動してきた。しかし植民地時代以降、土地の所有権の定義や密猟者の抑止などのためにフェンス建設がすすめられ、ゾウの移動は制限されてきた。気候変動による影響が深刻化するいま、フェンスを撤去し、ゾウやほかの野生動物が自由に動き回れるようにすべきである。

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アフリカゾウが自由に移動できる環境を整えるべき
Ben Curtis/AP

植物群落の保護エリアを設け、野生生物がその中を自由に移動できるようにする「緑の回廊(wildlife corridor)」が解決策になるかもしれない。インドや米国では、巨型動物の保護で成功事例が報告されており、アフリカでもうまくいく可能性がある。しかし、アフリカ南部や東部で「緑の回廊」を取り入れるには、まずフェンスの撤去が必要で、植民地時代からゾウと共存してこなかった近隣コミュニティは、この変化に適応する必要がある。密猟も増えるかもしれない。ゾウが歩き回ることで観光客がアクセスしにくくなり、観光業の収益が減少するおそれもある。

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Shutterstock

とはいえ、ゾウと共生してきた集落もある。人間と野生生物のトラブルを減らせると示した地域密着型のプロジェクトもある。密猟の減少や、集落の生活の質を向上させた事例もある。ボツワナのカラハリ野生動物保護区での地域管理プロジェクトなど、地域の知見を活用した成功事例もある。研究では、ゾウと人間との共生が社会的にも生態学的にもプラスに働いたとする結果が出ているのだ。

アフリカゾウが干ばつを生き延びるためには、こうした地域密着型の新しい保護戦略がいっそう必要となる。でないと、すでに減少し始めているゾウの数はますます減り、アフリカの自然生態系の健全性や安定の維持、ひいては人間の生活にも打撃を与えるだろう。

著者
Rachael Gross
PhD Scholar in Applied Conservation Ecology, Australian National University

Rob Heinsohn
Professor of Evolutionary and Conservation Biology, Australian National University

The Conversation
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※本記事は『The Conversation』掲載記事(2023年1月5日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

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