<前編を読む>
商品としての家ではない、「生きている家」
藤岡さんが日曜大工でマイホームづくりを始めたのは、遡ること20年以上前、35歳の時だった。それまでは都会での文化住宅暮らしだったが、新聞に自分で家を建てた人の記事を見つけて、「これなら自分にもできるのでは」と思い立った。
「その時、記事で見たのが素人向きのツーバイフォー(2×4)工法だったんです。日本の在来工法のように柱を使わず、床や壁を1枚ずつ釘打ちで止めていくから日曜大工の延長でつくることができるんです。実際、参考書などを見ながらやって、難しいと思ったところはほとんどなかった」と話す。
当時、藤岡さんは雑誌編集に携わる会社員。当然、休日は暦通りのため、毎週日曜日や祝日、さらにはお盆・正月休みを利用して通いつめ、2年の歳月をかけてコツコツとつくりあげた。
その間、藤岡さんの休日はすべて手づくりマイホームに当てられたが、妻や子供たちが現場に見に来たり、手伝いに来てくれた友人たちとバーベキューなどをするコミュニケーションも家づくりのおもしろさの一つだった。「手づくりマイホームと言うと、たいてい奥様方はいいなーと羨ましがりますけど、男の人は奥さんにせがまれるのが嫌なのか、反応は薄かったですね」と笑う。
家が建つと、内装の仕上げもそこそこに住み始め、今度は離れの仕事部屋づくり、中庭づくりに励んだ。実際、家の中を案内してもらうと、20年経った今でもリビングの天井はパネルがむき出しのまま。最終の仕上げをしていない。その吹きっさらし感が、またオシャレに見えるから不思議。
「仕上げしなくても強度は問題ないから、住んでいる自分たちさえ気にならなければOK。子供部屋なんかも、ずっと石膏ボードむき出しのままでしたけど、子供はいくらでも壁に落書きができるから逆によかったですね。最終の仕上げでクロスを張ったのは、子供が大きくなってからでした」
そう言う藤岡さんは、「家づくりに完成はない」と話す。
子供が家を出ると、リビングは夫婦二人暮らし仕様の内装に変え、去年にはシステムキッチンも使いやすいようにつくり変えた。また、昨年は仕事部屋から最短距離で行けるようにと、外からリビングに出入りできる勝手口をつくった。そう言いながら、藤岡さんの口からは昨日まで家づくりをしていたかのような言葉がポンポンと飛び出す。まるで20年経った今も、家が家主とともに進化し、生きているように。
さらに、「今は玄関の吹き抜けをつくり変えようかな、と思っているんです」と言う。
「結局、業者が建てる家というのは商品なんですよね。商品だから、クレームを避けるために、中身よりもとにかくピカピカに磨いて見栄えよくして、引き渡してしまえばそれでおしまい。でも、手づくりマイホームは、その時代時代に合わせて自分たちのライフスタイルに合わせて直していける。いい材料が安く手に入れば、自分のアイディアでまた手を入れますし。家というのは自分が一番長くいる場所ですから、絶えず自分好みの環境にしておきたいし、それができるのが手づくりマイホームのおもしろいところなんです」
自動機械、インターネットの普及…今なら1年でマイホーム
現在、藤岡さんは、自分でマイホームを建てたいと思っている人のネットワーク・関西BIYの会(ビルド・イット・ユアセルフ)を運営しながら、メンバーの家づくりを支援している。会には、マイホームを考え始める30代の男性たちや、第二の人生をスタートした定年退職後の中年男性たちが多く加盟している。
本だけではわからない現場作業時のコツやテクニックを月1回の勉強会で伝授し、個人レベルの交流ではお互いに家づくりを手伝い合いながら効率的なマイホームづくりを学んでいる。これまでにメンバーたちが建てた家は20数軒に上る。
藤岡さんがマイホームを建てた20年前と比べれば、釘打ちの自動機械は一般的になり、資材を購入できるホームセンターも増え、インターネットの普及でさらに資材購入も容易になった。手づくりマイホームにチャレンジする環境が整いつつある今なら、「人にもよりますけど、会社員が週末を使って家を建てれば、1年ぐらいで完成できるのでは」と話す。
ただ、それでも多くの人がアメリカのように手づくりマイホームを身近なモノとして感じているかと言えば、「そうも思えない」と藤岡さん。
「やっぱり日曜大工で家が建てられると言っても、それなりの勉強が必要だし、なにより覚悟が必要だから、なかなか多くの人が手づくりマイホームを考えるまでにはいかないのかもしれません」と話す。
「でも、よく考えれば、家を建てること自体には何の資格もいらないんです。法的な確認申請には、一級建築士の資格も必要ですけど、実際に戸建て住宅を建てている近所の工務店の大工さんは経験が豊富でも資格を持っているわけじゃないですから。ほんとは普通の家の建築は一般の人が本を読んで理解できる程度のものですから、これからもっと車やパソコンの知識を増やすように、家に対しても個人の認識や知識を深めていってほしいですね」
(稗田和博)
Photos : 中西真誠
ふじおか・ひとし
1949年生まれ。フリーの編集者兼ライター。小さい頃からモノづくりが好きで、サラリーマン時代には日曜大工のまねごとや釣具などを自作。35歳の時、2×4工法で手づくりマイホームを建てる。1994年に、関西でのマイホーム手づくり派を支援する組織「関西BIY(ビルド・イット・ユアセルフ)の会」を発足。著書に『日曜大工でわが家を建てた』『夢の手作りマイホーム』『日曜大工でつくるウッドデッキとガーデンエクステリア』『日曜大工の常識』(いずれも山海堂)など多数。
(2007年7月15日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 第76号より