高齢者福祉の未来と、デンマークの「理想」と「現実」(2/2)

前編を読む

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Kildevæld Sogns Plejehjemの共有スペース-2

日本の特別擁護老人ホームでは、起床時間、食事場所、食事内容、就寝時間などは、施設によって決められていることがほとんどであるが、デンマークでは入居者自身が、それぞれ決めることが出来る。「Kildevæld Sogns Plejehjem」には、美容室やフットセラピー、スポーツジムが併設されており、好きな時に好きなだけ利用が可能。フィジオ・セラピスト(理学療法士)の指導のもと、週3回スポーツジムで運動する個人プログラムも組まれる。もちろんすべて無料。


デンマークでは医療と福祉介護が一体となっており、最期まで自宅に住み続けながら、必要な時にはケアを受けられるという地域包括ケアのシステムが確立されている。現在のほとんどの日本の特別養護老人ホームでは、医療行為が出来ないため、入居者が疾病あるいは胃ろうなどで手術が必要になった場合、必然的に病院に移らなければならない。医療と福祉介護が分離しているために、住み慣れた住居を離れなければならないのが現状だ。

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Kildevæld Sogns Plejehjem 内の美容室

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Kildevæld Sogns Plejehjemの共有スペース-3

デンマークの高齢者福祉の未来

タケトモコ:デンマークの高齢者福祉における将来とヴィジョンを教えてください。

マルギットさん:「今後ますます人々が健康で長寿になっていく中で、必要とされるのは、さらに短期的な支援を充実させることでしょう。高齢者は、今後、さらに自主的で活動的になっていくでしょう。それにあわせて高齢者の自主性を保つためのネットワークもより必要とされるでしょう。この分野ではさまざまな挑戦がありますが、私は高齢者のポジティブなところをどれだけ引き出してあげられるか、というところに最善の努力を尽くしています。将来的には高齢者が社会にどのように貢献していけるかということも大切なテーマです。」

「共通の庭」、最新高齢者向け介護付き住宅

次に、今年完成したばかりの「共通の庭」(fælledgården)という、高齢者住宅・介護型住宅を紹介する。中庭が広く、色鮮やかな花や植物に囲まれているモダンな作りが印象的。現代的な建築&デザインで、すべてバリアフリー。全室トイレ・バスルームはもちろんのこと、バルコニー付で、193世帯が入居可能。デイ・アクティビティのプログラムも豊富で、認知症予防と治療にも力をいれており、ここはコペンハーゲンに5つある認知症のナレッジセンターの1つだそうだ。 この地域を統合する福祉センターという役割を備えた、コペンハーゲンでも最新型の高齢者住宅・介護型住宅だ。

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fælledgårdenの外観-1

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fælledgårdenの外観-2

限りなく近い、デンマークの「理想」と「現実」

デンマークには、個と公の両方に必要とされる「モラル」がバランスよく存在している。一般的な日本人が持つ「モラル」と異なる点は、彼らは自分の意見を明確に主張し、プライベートな時間や生活を互いに尊重する。

古くから移民を受け入れてきた経緯を持つためか、個人が社会へ参加しているという意識が高く、他者の違いについても許容範囲が広い。デンマークは欧州の中でもマイノリティの人権保護に抜きに出ており、それぞれの人が自分らしく生きられる社会を求めること、市民が力を会わせて理想的な社会を構築していくことが大切にされており、地域における市民参加型の社会システムが確立している。 他者との違いを受容する社会の器を作っていくために、先駆的なテーマの市民運動も盛んに行なわれている。

デンマークの高齢者介護の現場を、実際にこの目で見て話を聞くと、日本の社会福祉制度や介護制度は大幅に遅れていると感じざるをえなかった。デンマークの介護の現場は、本人の自立性を最大限に尊重する為の制度と精神が両立しており、介護に関する家族への経済的・精神的負担は限りなくゼロに近い。介護する側もされる側も同様に、どんな立場でも生きることに積極的になれる制度、自立性を徹底的に尊重する精神性、本来あるべき、「自分らしく生きる」権利があらゆる観点から守られている。

コペンハーゲン滞在中の1ヶ月間、デンマーク人たちと話して、彼らの「理想」と「現実」の距離はとても近くにあるのだということを実感した。老若男女問わず、いつも自然体であること、自己選択・自己決定を尊重し、「自分らしさ」を生かしつつも、決して無理はしないこと。マイノリティに寛容で、他者との違いをポジティブに包摂していこうとする制度、そして、これらを支える国民の精神性が生かされる社会があること。———これが「世界一幸せな国」であると言われる所以なのかもしれない。

タケトモコ
美術家。アムステルダム在住。現地のストリート・マガジン『Z!』誌とともに、”HOMELESSHOME PROJECT”(ホームレスホーム・プロジェクト)を企画するなど、あらゆるマイノリティ問題を軸に、衣食住をテーマにした創作活動を展開している。
ツイッター:@TTAKE_NL
ェブサイト:http://tomokotake.net/index2.html