充実した社会福祉制度で知られるデンマーク。近年、高利息の消費者金融の借金返済に苦しむ人が増え、その原因のひとつはギャンブル障害だとみられる。デンマークの政治家セーレン・ゲイド氏は「莫大な借金や依存のリスクをもつギャンブルは、タバコと同様に広告を禁止すべき」と語る。
※下記は『ビッグイシュ―日本版』373号(SOLD OUT)からの転載です。
“ギャングのローン”は命も奪う。
ギャンブル市場、自由化で拡大、規制システムに1万7千人登録
デンマークの元防衛大臣で、現在はEU議会の議員を務めるセーレン・ゲイド氏は、消費者金融の利息規制と、借金の大きな原因となるギャンブルの広告禁止を訴えている政治家だ。彼はデンマークのストリート誌『Hus Forbi』に対し、「消費者金融の利息は法律で上限を定めるべき」と語る。
「デンマークの銀行で消費者ローンを利用する場合の利息は通常年間10%以下ですが、消費者金融は規制がないため年間の返済費用が4倍から7倍にも膨れ上がるケースがあります。消費者金融を利用する人は、信用格付けがないか、あるいは何も考えずに行動しているかのどちらかでしょう。返済が困難になると、元の高利息の借金返済のために、さらに高利息のローンが必要になります」
ゲイド氏は消費者金融を「ギャングのローン」と呼んでいる。ローン返済が売春や犯罪、ひいてはホームレス状態の引き金になることも多い。「消費者金融は実際には負債者の指を切ることはないでしょうが、命を奪いかねない仕組みなのです。問題は、一般の人々が借金返済にかかるコストについてほとんど知らないことです」
デンマークの国会ではかつて、社会主義人民党が利息上限を「20%」に定めるべきだと提案したが、成立には至っていない。現在は政府も野党も、消費者金融の利息について何らかの措置が必要だと感じているが、欧州議会の議員であるゲイド氏は、これはEUとして規制すべき問題だと言う。
借金を負い、消費者金融を利用せざるを得ない原因のひとつはギャンブルだ。デンマークのギャンブル市場は34%が宝くじ、26%がスポーツくじや競馬など結果を予想する「ベッティング」、22%がオンライン・カジノ、14%がスロットなどのマシン、4%がカジノ施設で成り立っている(※1)。
※1 デンマーク税務省の管轄下にある規制当局「デンマーク賭博機構(Danish Gambling Authority)」、18年の報告書より。市場の割合は、国際的に使われる基準GGR(Gross Gaming Revenue)=ギャンブル企業の粗利に基づく。
国立デンマーク社会研究所の調査(2016年)によれば、同国では約3人に2人が何らかのギャンブルを行っているが、そのうちギャンブル障害者は約1万人いると推計(※2)。近年増えるオンライン上のギャンブル利用と、施設型カジノへの入場を規制するシステム「ROFUS(※3)」に自主的に登録した人は、1万7千人を超えている。
05年時点でギャンブル障害者は6000人と推計されていたが、16年の調査で増加したのは、その間に行われた規制緩和が一因とみられる。デンマークでは12年からギャンブル市場を大幅に自由化させてきた。一部のギャンブルを除いて寡占市場を解体させ、外国企業も参入できるようになったため、市場が拡大し人々がギャンブルと接する機会は増えた。
オンラインゲーム上のギャンブルが若者を侵食。
規制緩和後、広告数が3倍に
最もギャンブル障害に陥りやすい傾向にあるのは18~39歳の男性で、彼らがよく利用するのは、ネットを通じて気軽に賭け事ができるオンライン・ベッティングだ(※4)。主にはネットで購入できるスポーツくじや競馬を指すが、近年はオンラインゲーム上で課金によりランダムにアイテム(仮想の景品)を獲得する「ルートボックス(※5)」や、希少価値のある仮想アイテムを賭けてスポーツ試合の結果などを予測する「スキン・ベッティング」が問題となっている。
デンマーク賭博機構の局長バージット・サンドは「責任あるギャンブルとは、責任を共有すること」だと語る。「国の規制当局として、ギャンブル市場の規制管理だけでなく、未成年や社会的に弱い立場にある人々を、ギャンブルがもつ潜在的な悪影響から守ることが使命だと思っています。当局、政治家、ギャンブル企業、ギャンブラーの周囲の人など、すべての人がこの責任を負っているのです」
規制緩和後の7年間で、ギャンブルに関する広告数はほぼ3倍になった。デンマークの調査会社Kantar Gallup社によると、12年にラジオとテレビで流れた広告は一日あたり平均426件だったが、18年には平均937件、今年は8月までの集計で平均1197件となった。時には消費者金融のCMとともに流されたり、サッカーの試合が始まる直前にスマホで買えるくじのCMが流れることもある。業界では、子どもがテレビを見る時間にはCMを流さないとする制限や、ネット・SNSでの広告規制を含む自主ルールを制定する動きがあるが、法的な規制や全面禁止までには至っていないのが現状だ。
サッカーくじについては、おなじみのCMがある。元ナショナルチームの選手ブライアン・ラウドルップが、専門家としてスタジオに出演する直前に流れるCMで、彼自身がファンに向かって「サッカーをする人が作った、サッカーをする人のための」スポーツくじだと勧めている。このCMはスウェーデンのオンラインギャンブル企業「ユニベット」のものだ。
ゲイド氏は言う。「あれはひどい。まるで『さあ、ギャンブル障害者よ、お金を賭けてこのゲームをしようよ』と言っているのと同じ。デンマークには1万人のギャンブル障害の人がいます。ギャンブルはタバコやアルコール、薬物と同様に依存性があります」
だが、そもそもデンマーク代表チームのスポンサーは国営宝くじ会社「ダンスケ・スピル」だ。その利益の一部は社会的および文化的活動に寄付されているが、だからといってゲイド氏は批判を控えたりはしない。
「人々を不幸に誘い込んでおいて、サンタクロースのふりをするのはひどい。私はスポーツくじを禁止しろとまでは言いません。その宣伝をやめるべきだと言いたいのです」。EUの指針では、タバコの広告はテレビやラジオ、紙媒体やインターネットで全面禁止されている。「それはタバコが健康を損なうという理由からです。だったら、ギャンブルの広告も禁止すべきでしょう」
(Poul Struve Nielsen, Hus Forbi / INSP / 編集部)
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