調べもののプロが伝授:図書館レファレンス歴10年以上の高田高史さんに聞く「図書館の使いこなし方」

新しいことが知りたい時、ふとした疑問がわき上がった時、どうするか?

まわりの人に聞く? ググる?

図書館に行って調べたいと思っても、その膨大な蔵書を前にして途方に暮れてしまう。そんな時の道案内は、図書館で調べもののお手伝いをするレファレンス係。10年以上、大勢の人の調べものをサポートしてきた高田高史さんに、調べもののコツや図書館を使いこなす方法を聞いた。


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調べ方のコツがわかれば、大抵のことはオーケイ

レファレンス担当の高田高史さん(神奈川県立川崎図書館)のもとには、利用者からさまざまな質問が寄せられる。取材当日にも、次のような質問が届いていた。

「蓮の葉っぱからプクプクと泡のようなものが出ることがあるのですが、泡の仕組みや成分について知りたいのです。専門的な内容でもかまいません」

何ともマニアックな質問だ。植物学者でもない高田さんは、どうやって回答するのか? お手並み拝見!?

高田さんからの回答は、次のとおり。

ご質問に近いと思われるのは、豊田清修「ハスの通気組織と呼吸」(『植物と自然』12巻11号、1978年)です。
「葉柄からの通気実験」や「ハスの根茎の呼吸」などの項目があり、ハス根茎の気道内のガスの分析もされています。残念ながら本館での所蔵はありませんが、同じ著者による『ハス論文集』(1987年)に収録されていました。この本なら所蔵しています。

他に『蓮』(坂本裕二著、法政大学出版局、1977年)にも冒頭にハスの生態が紹介されています。泡の現象を「低温沸騰」と言うそうです。
児童書『レンコン(ハス)の絵本』(農文協、2008年)にも、「ハスの穴は空気を通すパイプの役目」の項目があります。こちらでしたら、お近くの図書館でも所蔵していると思います。

また論文データーベース「CiNii」で「ハスの葉」と検索すると、「ハスの葉身中央部における開口構造の形態」などの文献がヒットしました。ご自宅から本文を閲覧できるものもあります。当館でわかることは大体これくらいだと思います。ご参考になれば幸いです。

学術論文から絵本に至るまで、懇切丁寧な回答には頭が下がる。こんな質問が寄せられたら普通はギブアップだろう。そもそも蓮の葉っぱから泡が出ているなんて聞いたこともなかったのだから。さすが図書館に10年以上勤めていると博識になると、ひとしきり感心していると高田さんから笑われてしまった。

「私だって初耳でしたよ。蓮にも植物にも全然詳しいわけじゃありませんが、調べ方のコツをつかんでいれば、大抵のことは答えられるようになるんです」

ただし、すぐに適切な回答をするのが難しいこともあるので、直接カウンターに行くより、事前にメールやファックスで問い合わせておくのもいいという。

連想ゲーム?
広げる発想法、検索を楽しむ

では、どうしたら簡単に調べられるようになるのか?

具体例を使って教えてもらうことにした。お題は、「二本松城について書かれた本を探しているのですが?」

まず、図書館のデータベースに「二本松城」と入力して蔵書検索してみたが、残念ながら、「二本松城」というタイトルの本はヒットしなかった。

「そんな時は視点を変えてみてください。たとえば〝日本の名城〟という本に収録されているかもしれません。そのものズバリでダメな場合、広げてみる。私はこれを〈広げる発想法〉と呼んでいるんですが、この作業、連想ゲームみたいで結構楽しいんですよ」

二本松城について何の知識もない場合、百科事典を引いたり、インターネットでざっと調べてみるのも有効だ。

「二本松城が福島県にあること、霞ヶ城という別名があること、幕末の戊辰戦争で落城した城であることなんかがわかれば、連想の可能性はぐっと広がりますよね。福島県や幕末関係の本にも情報があるかもしれません。『二本松城』だけで見つからないからといって、あきらめることはないんです」

ここで一つ注意点だが、発想を広げてもデータベースによってはヒットしない場合もある。たとえば『日本の名城100』(宝島社)という本には、二本松城に関する情報が載っているが、本の目次や項目まで収録していないデータベースも少なくない。

データーベースもさまざまです。データーベースの特色を活かして使い分けるとよいでしょう。二本松城だったら詳しく目次や内容まで出ていそうなものの方がいいかな。二本松城でヒットしなかった場合、どんなキーワードならヒットするのかを考えます。別名を『霞ヶ城』というそうなのでキーワードを変えてみたり、『戊辰戦争』で本を検索してみるのも有効かも。データベースの特色やキーワードの選び方などを伝えるのも図書館員の仕事ですから、ぜひ声をかけてみてください。

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獲物を狙う?
絞る発想法、棚は語りかける

高田さんのイチオシは、図書館の棚を直接見ること。
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効率が悪いように思えるが、検索では気づかない発見があるという。棚を見る際は、図書館の住所表示である分類番号が便利。0総記 1哲学 2歴史……と分類され、さらにここから2(歴史) -1(日本) -2(東北地方)と細かく分類されているので、目当ての本を探しやすい。

棚で探す場合は〈絞る発想〉が重要。ざっと棚全体を眺め、自分の知りたい項目に近い本をどんどん絞り込んでいく感覚です。

データベースは、知りたいことをピンポイントで見つける際には役立つけれど、視野を狭めてしまう可能性もあります。書棚なら探していた本の隣にもっと役立ちそうな本が並んでいたということも少なくないんです。本を探しながら、関連する本も一度に見られるので興味を広げることもできます。もちろん、中身をざっと見て確認できるのも利点ですよね。

だから私は本を探す時は、できるだけ書棚を広く眺めるようにアドバイスしています。

直接棚を見る際も注意点はある。図書館の分類記号は便利だが、クセも多い。

「例の『二本松城』に関する文献を探す際、歴史の棚に行く人が多いでしょう。間違いではありませんが、お城の本は建築の棚に並んでいることもあります。福島県のガイドブックを見てもいいかもしれません。探している本が一ヵ所に集まっているとは限らないので、図書館のどこにどんな分野の本があるのか、ざっと把握しておくといいでしょう」

そのために高田さんおすすめなのが〝図書館ぶらぶら散歩〟。それはスーパーマーケットを巡る感覚と同じなんだという。

「カレーライスに使う鶏肉を買うため、スーパーマーケットへ行ったとします。どうやって探しますか?

たぶん肉売り場の鶏肉コーナーに行ってカレー用チキンを見つけるでしょう。どの棚の何段目にカレー用チキンがあるかという正確な情報はなくても、スーパーのだいたいの配置、たとえば野菜コーナーの後に鮮魚がきて、次に精肉がきて、最後が乳製品……というのを把握しているから、ほしいものがどこにあるかわかる。

図書館も似ているんですよ。また、図書館ぶらぶら散歩をしていると新しい関心や発想が生まれることもあります。これもスーパーマーケットと同じ。『今夜はカレーを作ろう』と決めていることもあれば、スーパーをぶらぶらしながら献立を考える時もあるでしょう。チキンカレーの予定が、魚介類の方がおいしそうで、シーフードカレーになっていたり」

ご本人は謙遜しているが、日々、あらゆる質問に答えている高田さんはやっぱり知識の宝庫に違いない。

「その知識を得たからといって、ナンボの役に立つわけじゃないけど、家でレンコンの天ぷらを食べる時、『この穴は蓮の葉までつながってるんだな』なんてふと思い出したら、ちょっとだけうれしい。利用者の方のふとした疑問やひらめきが新たなビジネスとか、ノーベル賞級の発明につながっていく場合も万に一つあるわけで……そのお手伝いができるこの仕事をとてもありがたく思っているんですよ」

すべてを知ることは不可能だが、何かを知りたくなった時、それを知るための手段なら心得ている──それはいつでも冒険に旅立てるようなワクワクする感覚に近い。冒険の際は図書館員という羅針盤もお忘れなく!

(飯島裕子)

(プロフィール)

たかた・たかし
1969年生まれ。学習院大学大学院人文科学研究科修了。神奈川県立川崎図書館勤務。著書に『図書館が教えてくれた発想法』、共著で『図書館のプロが伝える調査のツボ』(いずれも柏書房)などがある。

*以上、2010年4月1日発売、ビッグイシュー日本版140号より転載

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