スポーツイベントというメディアで、社会問題に明るく楽しく切り込む…シンポジウム「1つのボールが人生を変える」第二部レポート(3/4)

編集部より:10月22日に開催されたシンポジウム「1つのボールが人生を変える」の講演第2部の模様を書き起こし形式でご共有いたします。
※主催:NPO法人ビッグイシュー基金/スポーツフォーソーシャルインクルージョン実行委員会


蛭間:
それでは第2部に移りたいと思います。
先ほどご紹介のあった素敵なゲストの皆様に来ていただいています。
まずゲストの方に10分ほど自己紹介をお願いします。
続いてレイチェルさんの発表にどのようなご感想を持たれたのか、そして今日のパネルディスカッションへの期待などお話いただければと思います。では、まずアーティストの日比野さんお願いします。

パネリスト自己紹介

日比野克彦さん:サッカーが社会にどう役に立つのかという視点

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日比野:ホームレス・ワールドカップがあると聞いたのは今年の3月くらいでした。
「え、そんなのあるの?」って。藝大の僕の教え子が、長谷川さんと知り合いでそれで知りました。
人間ってサッカーしてわくわくしますよね、もちろんホームレスの人も。でもホームレス・ワールドカップって想像してもなかなか想像しきれない世界があって。ホームレス・ワールドカップってどういう仕切りで誰がやってどんな試合をやっているんだろうって不思議に思っていたんですが、今日レイチェルさんの話を聞いて、ちゃんと組織立ってやっているんだと感じました。

ホームレスの定義が日本と海外で違うというのも、蛭間さんの著書『ホームレス・ワールドカップ日本代表のあきらめない力』で知って本当に知らないことだらけでこの1時間で色々とぐ~っと入ってきました。

そして、冒頭の田嶋会長のお話しも、今年会長に就任されて、サッカーファミリーという言葉がありましたね。サッカーファミリーって会長が言ったんだからもう大丈夫です(笑)

僕も今、サッカー協会の社会貢献委員会の委員長をやらせてもらっていて。サッカーがいわゆる代表のような部分もあるけど、一方でサッカーが社会にどう役に立つのか、ホームレス・ワールドカップそしてダイバーシティカップ、ダイモンカップ。そうしたものはまさにサッカー協会がもっともっと侍ジャパンを応援するのと同じくらい力を注いで応援すべきことです。

その中でホームレス・ワールドカップは、やはりさすがワールドカップのサッカーというものが単に応援だけでなく、どれだけ社会に役に立つのかということを感じました。プロ選手もどういう社会貢献ができるのか、勝つだけでなくチームとしてその地域にどう貢献できるのかということもJリーグチームの役割であり、評価となっている。やっぱりサッカーを文化としてとらえているヨーロッパにおいて、ホームレス・ワールドカップが行われているというのをすごく感じました。

フランスでのホームレス・ワールドカップの映像を先ほど見ましたが、初戦がアルゼンチンで会場がフランスなんですよね。これは日本1998年とまったく同じじゃないですか!初めて日本がワールドカップに出て、アルゼンチンが初戦で、僕は現地に観に行っていたんですけど、もうそれだけで「ありがとう」って気持ちになりました。それって僕同じだと思って。ホームレスのストリートで本を販売している彼らが、僕たちの代表がピッチに立ったということで「ありがとう」。一つ舞台に上がれたっていうのが。実際に、98年に日本が初めて出たときに、それまでアジアの壁が超えられなくて、何か閉じこもっていた。そこが何か「よっしゃ」と扉を開けることができた。まぁ結果的には3連敗で終わったんだけど。でもそのワールドカップに出た、ホームレス・ワールドカップに出たっていう役割はすごくあると思います。というまず感想です。

スポーツとアートの融合~マッチフラッグプロジェクト、日比野カップ~

あと3分くらいで僕が取り組んでいるマッチフラッグプロジェクトについて紹介させてもらいます。
これは熊本のマッチフラッグの活動です。

その活動場所はストリートや美術館でやっていて、それを復興支援として熊本でやりました。マッチフラッグは熊本から始まったんですけど、この時は熊本城をイメージしてロアッソ熊本を支援するプロジェクトをしました。旗をロアッソのクラブハウスとか試合会場に持って行って。ロアッソの現役の選手、商店街の被災を受けた方、美術館のスタッフなどが一緒になってやりました。アートとサッカーをつなげる活動として。
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写真(日比野氏提供):熊本マッチフラッグプロジェクトの様子(2016年)

 フラッグっていうのは、スタジアムで人の視覚を増幅して、ピッチ上の選手たちを応援するっていうとても優れたツールだと思います。
 マッチフラッグプロジェクト、南アフリカワールドカップにも行きました。日本全国で旗を作って持っていきました。活動場所は美術館、かつJリーグのチームがあるところでミュージアムとサッカーをつないでいくということをしました。いろんな地域で持ち込んで、南アフリカに持ち込んで。やっぱり気持ちも高まりますよね。フラッグをみんなで作るんだけど、持ち込みが結構大変なんです。スタジアムによってレギュレーションが違って、分割して持ち込んだりね。そういったマッチフラッグの活動をワールドカップでしています。
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写真(日比野氏提供):南アフリカワールドカップ・マッチフラッグプロジェクトの様子(2010年)

 あと、水戸の美術館で展開している、「日比野カップ」っていうのがありまして。段ボールでサッカーゴールを作って、マジックでユニフォームに描いて、全部手作りで作ろうと。僕は図工と体育が好きだったので、午前中図工、午後体育という最高の一日で。毎回テーマを決めてやっています。今年のテーマは「R」で、ボールがRの形だったりして。その中でサッカー経験者もボールがへんてこりんだと初心者と一緒になってできるんですね。それで、今年からは水戸では弱視のサッカーチームを結成していて、弱視だけのチームは全国で初ではないかと。なので本当に楽しくサッカーをしてくれています。そんな活動をしています。表彰のカップも段ボールで作っています。

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蛭間:ありがとうございます。では、次にダイモンカップの糸数さんお願いします。

糸数温子さん:ローカルから発信する、沖縄最大の女子フットサル大会「ダイモンカップ」

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写真(横関一浩):ダイモンカップの糸数温子さん(あっちゃん)

糸数:はい、こんにちは。私は沖縄から来ました。皆さんどんな気持ちで今日来ましたか?私は、この場に来るのにすごく緊張して。胃が痛い胃が痛いと言っていたら飛行機1本乗り遅れちゃいました(笑)ビッグイシュー基金の長谷川さんにお声掛けいただきましてこの場に来ることが出来ました。が、話を伺うと、JFAの田嶋会長がいらっしゃる、ホームレス・ワールドカップのレイチェルさんが来日する、そして野武士ジャパンコーチの蛭間さんがモデレーターとなって、子どものときからテレビで見ていた日比野さんとパネルディスカッション。「そこに私も並んで座るの?」座っているのは、立てないからです。立つと足ガクガクです。そんなわけでよろしくお願いいたします。

 先ほど、レイチェルさんがグローバルでマクロな話をしてくれたので、私は沖縄というローカルな場で、もっとミクロな話ができたら面白いかなと思っています。私たちは2012年から沖縄で女子のフットサル大会をしています。大会コンセプトは「応援・感謝の見える場所づくり」で、もっと市民みんなが参画する社会を目指して4年間やってきました。さらに言えば、私たちは、「貧困・孤立に抗するコミュニティづくり」という裏テーマを掲げています。スポーツを使ってある特性を持った人たちが集まるコミュニティを可視化し、そこをハブにして双方向にコミュニケーションをとりながら情報共有していこうというのがねらいです。設立当初から社会的な孤立とか貧困や格差、教育について考えていて、すでに地域で活動しているNPOや支援団体とどうやったらつながってもらえるかということを考えながら毎年の大会でチャレンジしています。

 今日は、まずダイモンカップについて知ってもらうために、5W1Hということでお話を進めさせてください。

まず「When」。2012年から年に1回、毎年大会を開催しています。第5回大会は11月、来月です。

「Where」、私たちは沖縄で活動していますが、これからは全国的にスポーツを使って社会貢献していこうという団体とつながっていきたいなと思っています。5月には台湾に行ってきました。沖縄という立地の良さを活かして、アジアの中でスポーツをつかってどうやって社会貢献していけるのかということを考えています。

フットサルを通して、みんなが参画(さんかく)できる社会へ

 「Who」、私たちが誰を対象にしているのかということでいうと「女性」です。とりわけママさん。ダイモンカップは全国的にも珍しいスポーツイベントです。アマチュアア大会にも関わらず来場者は選手が1割。応援が9割。選手よりも応援に来てくれる人の数が多いんです。この大会を通じて市民の社会参加を進めていきたいという狙いがあります。女性の社会進出、それからパートナーの育児参加、外に出やすい環境を作れないのかと考えています。それから忙しいお母さんに対して、「余暇」という視点でも。「そんなに忙しいんだったらフットサルやってる時間なんてないんじゃないの?」っていう価値観を壊したくて、イベントをやっています。

それから今までは、シングルマザーの団体の方にも声をかけてやっていたんですが、今年からは11/18(金)に「〇▼◇(まるさんかくしかく)クラス」というものを作って、いろんな生き辛さを抱えている団体と一緒になって進めている予定です。みんな参加する団体ごとに「難しいな」というところをそれぞれ持っているので、そういったところを交換しながら、スキルを交換しながら、「これだったら一緒にできるよね、みんなができるよね」っていうところ話し合っています。来月にはビッグイシューから長谷川さんたちも来てくれるということなので、早速ダイモンカップとダイバーシティカップのコラボレーションが生まれるということでわくわくしています。
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写真(横関一浩):ダイモンカップの糸数温子さん(あっちゃん)

「感謝・応援」の見える晴れ舞台

 そして「What」。私たちは何をやっているのか、「スポーツイベントをやっています」、「フットサル大会をやっています」、「NPOとの出会いの場を作っています」、包括して言うと、スポーツイベントというメディアを使って、その中で格差や貧困という社会問題に対して明るく楽しく切り込む場を作っています。

大会のカテゴリーはこれまで4つでした。35歳以上の女性が出場できるOver-35(略してオバサンGOクラス)の出場チームは50代のチームが中心です。10年以上続いているチームもいくつかあって非常に活気があります。でも、これまで彼女たちは自分たちや有志の関係者が企画してワンデイの試合を組む以外に、彼女たちが主役になれる大会がありませんでした。ベンチにはお父さんと子どもたちがいます。昨年度まではビギナークラスでは子どもと一緒に参加するチームもありました。チャンピオンクラスさながらに本気でアップしているお母さんたちもいますね~(ビデオの様子)。

お母さんたちが大会をやりながら、大会会場で配られている資料が皆さんのお手元にあるものです。大会の雰囲気はこんな感じです。お母さんたちの大会なので、子どもたちが会場でどう過ごすか、またその子どもたちを見る応援団をいかに楽しませて「あの大会なら来年も一緒に行くよ」と言わせるかを大事にしています。

それから「お母さんがんばって!」という応援をどう可視化するかということも考えていて、これがダイモンカップ版のマッチフラッグですね。最近は離島や県外からのチーム参加もあり交流が始まっています。この動画は体育館のピッチの様子ですが、この2階では健康相談、生活相談が受けられたり、就労支援のブースがあったりします。また会場内ではフードバンクセカンドハーベスト沖縄さんと協力してフードドライブを実施しています。来場者に対して「お米を1カップ」持ってきてください!と呼びかけて、実際のNPO活動をされている方々とつながるはじめの一歩の具体例を示していくことを大事にしています。

蛭間:ありがとうございます。素晴らしいですね。ダイモンカップは規模でいうとどのくらいでしょうか?

糸数:一番来場者の多かった2014年で3500人です。野鳥の会みたいに受付でカチカチ数えています(笑)

蛭間:すごいですね!ありがとうございます。では次はビッグイシュー基金の長谷川さん、お願いします。

長谷川知広:ホームレス・ワールドカップに衝撃を受け、気付けば10年

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写真(横関一浩):ビッグイシュー基金の長谷川知広

よろしくお願いいたします。長谷川と申します。
自己紹介させていただくと、私は2007年にホームレス・ワールドカップのことを知りまして、衝撃を受けたんです。衝撃というのは、ホームレス・ワールドカップというのがホームレス力を競っている大会なのか、何の大会だったのかがまったくわからなくて。それで、調べてみたら実は日本のチームが参加していることを本で知ったんです。その本を読むと、日本はコテンパンに負けているんですけど、朝宿舎で掃除をしていたり、試合のあと喧嘩したけど仲直りしたり、いわゆるホームレス状態の人たちが2週間とかの中で変化していく様子を知って、すごく衝撃を受けたんです。そのことを知って自分も参加したいと思ってビッグイシューに連絡を取ったら、もうチームがなくなっていたんです。笑 

それはすごくもったいないなと思って、自分はサッカー経験がなかったんですが、友人にコーチをお願いしたりボールをもらったりして、2007年頃活動を始めました。それから10年経って、今日はレイチェルさん、日比野さん、糸数さんも来ていただいて、お話ができるので本当に興奮しています。

 活動の紹介ですが、私たちは元々「野武士ジャパン」というチーム名でホームレス・ワールドカップを目指す活動をしていました。蛭間さんとも一緒にホームレス・ワールドカップに参加して、戦って来ました。

日本対アルゼンチン戦で印象的だったのは、負けたあとに選手たちが「みんな強かった、マラドーナみたいだった」と言っていたんです。わかりますか、この言葉が示していること。日本の選手にはメッシに見えなくて、マラドーナに見えていたんですよ。世代が分かりますよね。

うちの選手の平均年齢が50歳くらいで、アルゼンチンの選手がマラドーナに見えてしまったんですよね。それはやはり日本と海外のホームレス事情が違うことを示しています。レイチェルさんによると他の国の平均年齢は20代だそうです。50代と20代では差があってそれは勝てないですよね。結果は決して自慢できるわけじゃないですが、チームとして敢闘賞を取っています。みんな頑張っていました。その大会までにパスポートを取るために戸籍がない方、ご家族との関係が切れている方が、10年ぶりにご家族と連絡を取ったり、アパートに入って住所を得たり、たくさんの変化が起きています。試合結果だけでなく、それに至るプロセスという点で本当にいろんなことが起きた場でした。

ダイバーシティカップの挑戦:サッカーを通した出会いの場、多様性を認める場へ

 では、なぜホームレス・ワールドカップから今ダイバーシティカップなのかということについてお話しさせてもらえればと思います。私たちは、日々の練習を、近所の小学校の体育館をお借りしています。コートの抽選に漏れたときは公園で練習をしたりしています。

ある時、公園で練習していると、隣で楽しそうにリフティングの練習をしているおじさんがいたんです。それで「一緒にボールを蹴りませんか?」とお誘いしたところ参加してくれました。それから彼は自分のことを「たらちゃん」と呼んでくれと。私たちも初めて出会った人だったので、自分達のチームのことも紹介をしたところ、彼はホームレスとかそんなの気にしないし、一緒にサッカー楽しめればいいよと言ってくれたんですよね。で、そのときに人との出会いがサッカーを通じて作れることがすごく尊いなと思いました。普通、公園にいる人と仲良くなれるなんてなかなかないじゃないですか。サッカーがあったからこその出会いですね。そして後から知ったのは、たらちゃんは実はデザイナーだったんです。それでうちのチームのビブスとかデザインしてもらえませんか?ということを頼んだら、引き受けてくれて、ダイバーシティカップのビブスはたらちゃんがデザインしてくれたものなんです。

日比野さん糸数さんのお話と共通するんですけど、本当にサッカーってプレーをするだけじゃなくて、サッカーを通じて人との出会いとか、ビブスを作るとか、応援歌を作るとか、本当にいろんな出会いがあるんですよね。そこから我々の活動の軸を、勝ち負けを競うホームレス・ワールドカップから、身近な国内の大会、そして多様性を認める場を作ろうという方向にシフトしていきました。ダイバーシティカップについては、お手元にある黄緑の冊子に詳しく書いてあります。ダイバーシティカップは、ホームレスの人だけでなく、うつ病の方、引きこもりの方、LGBTの方、養護施設出身の方、難民の方、依存症の方、いろんな人が参加する大会です。もちろんサッカーが好きで参加する人もいますし、人と関わる方も苦手だと感じる人もいるので、最初にアイスブレイクをして緊張がほぐれるようなものを取り入れています。ここでダイバーシティカップの大会の様子を映像で見ていただけたらと思います。皆さんに見ていただきたいのは参加者の表情なんですよね。お一人お一人の属性をラベリングしてしまえば、引きこもりとか、うつ病とそういったことになるんですけど、皆さん本当に素敵な表情でプレイをしています。

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プレイだけじゃない、それぞれの出番があるサッカーの場へ

ダイバーシティカップは、サッカーを通じて出会いの場を作り、多様性を認める取り組みです。参加者同士立場は違えど、話をしてみると、共通する点、違う点共にあるんですけど、サッカーをした後って体も心もほぐれていて、心の垣根が低い状態でお互い話せるんですよね。私が最後に伝えたいのは、サッカーの場にはいろんな参加の形があることです。受付ですとか、チラシも。今回のシンポジウムのチラシも、ラベリングをすると、福島の被災者の方で、ひきこもり経験のある方がデザインしてくれました。サッカーを通して参加者が変化するということもあるでしょうし、スポーツ以外の参加の形も様々つくれると思うんです。そして、そういった出番をたくさん作っていければと思っています。やっぱりホームレスの人とか、うつ病の人とか、色々カテゴリーがあって、社会的な偏見もあると思うんですけど、人と人が出会う場を作ることで、社会的に認知していける場をつくっていければと思っています。
ありがとうございました。

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