投獄から「よき市民」までの道のりは、ほとんどの人々にとっては長い長いプロセスだ。カナダでは、ほとんどの元受刑者は、彼らが釈放の条件を必ず満たし、社会復帰のために明確な努力をするのを保証するために、社会復帰訓練施設へ送られる。
カナダのモントリオールのストリートペーパー(※)、リティヌレールは、3年間この苦しい戦いをし、社会に自分の居場所をみつけようと努力してきたピエールに話を聞いた。「まず、線を見つけ、そのどちら側を歩くかを決めなければならない」と、彼は言う。
※ストリートペーパーとは:ホームレス状態の人の仕事をつくるために発行され、ホームレスの人が路上で販売をする雑誌・新聞。
3ヶ月、3年、あるいは30年の刑期。その後はどうなるのだろうか。仮に、教訓を得て、社会への負債を返済したとしよう。「駆け引き」にはもう懲り懲りで、これからは真っ直ぐで狭い道を歩くつもりだ。再び「良き市民」になれるだろうか。前科者として、社会の仕組みに再参加することができるだろうか。再び仕事を得て、履歴書にある大きな空白がなかったふりをすることができるだろうか。
社会復帰というギャンブルにかけた人々の足跡を追ってみる。
ピエールはこの苦しい戦いを選んだ一人だ。彼は元受刑者で、求職者名簿に名を連ねてもう3年になる。「とても難しいです。どんどんお金を稼ぐことに慣れて、長い間何の心配もなしに暮らした後で、一番下の階段からもう一度やり直すことは、簡単ではありません」と語る。
他の多数の人達と同じように、ピエールは「オペックス82」という社会復帰組織に助けを求めた。この組織は、犯罪歴のある人が再就職できるように支援することを専門としている。受け入れ条件は、18歳以上であることと、犯罪歴があることだけだ。
理事長のミッシェル・モネットは、「犯罪歴があるということは、今日では、終身刑を受けたようなものです」と、断言する。ハーパー首相の政府(前の保守党政府)が、減刑を申請できる期間を10年から、と増やし、申請費用も前の75ドルから631ドルへと大幅に値上げしたため、誰も申請しなくなったからだ。
元受刑者にとって、多くの分野の就職口は単純に対象外だ。「傷つきやすいと思われる顧客と接する仕事(病院、学校、デイケアセンター、育児所など)は、最初から除外されています。民間企業も差別します。身上調査を行うのは普通のことですが、犯罪歴があることだけにフォーカスし、その内容に注目しないことが問題です。10年前に詐欺罪に問われたからといって、床をモップで拭いたり、釘を打ったりできないということはないですよね?」と、モネットは言う。
元受刑者が贖罪をする道は極めて困難
ピエールは手続きに慣れている。毎週30人ほどの人々がオペックスに仕事に応募するためにやって来る。
オペックスでは、無料のコーヒーやクッキーの他に、ビジターがインターネットや電話、ファクシミリを使えるスペースを提供している。
ここでは日報を提出することが義務付けられている。でたらめで押し通すことはできない。オペックスのプログラムは自発的参加が建前だが、ビジターの中には保護観察官からプログラムに参加することを「強く推奨」されて来るものもいる。
実際にはすべての受刑者が、刑期の終了前に、一般的には刑期の3分の1か3分の2を終えた時点で出所するということをまず理解する必要がある。今日では、彼らは、出所後にまず社会復帰訓練施設へ送られる。施設は、元受刑者が釈放の条件を満たし、社会復帰に向けて実質的な努力をすることを確認する場所でもある。
フランソワ・ベラールは、モントリオールの社会復帰訓練施設サンローランの家の責任者である。彼は、更生サービス局が彼に求める管理監督の任務と、支援と信頼を基盤とする社会復帰の任務とは矛盾しないという。
選ばれた受刑者たちの30%以上が「失敗」し、刑務所に戻るという現実があるにもかかわらず、ベラールはそう信じている。彼は、「監視は支援の一部です。もしクライアントが自分の約束を守らないと決めたのなら、それは彼が刑務所へ戻る選択をしたということです」と、語る。
François Bérard, director of the Maison Saint-Laurent halfway house.
Credit: L’Itinéraire
元受刑者が贖罪をする道は極めて困難だ。特に対立する価値観や全く違うライフスタイルといった、通常は相容れないものの間で板挟みになった時など、誰を信頼すればよいのか判らなくなることがある。「まず、線を見つけなければならない、それからそのどちら側を歩くかを決めなければならない」と、ピエールは言う。
さらに彼は続ける。「私たちは皆、薬物やアルコールは禁止という条件付きだ。そして保護観察官は、私たちが仕事を見つけるよう、できる限りの圧力をかける。社会復帰訓練施設はその圧力を伝達する。だから余計に、やらなければならないことと、表向きに言っていることの間で自分の道を見つけるには、時には手を抜く必要もあるわけだよ」
刑務所内の仕事では、受刑者らが実際の労働市場で仕事を得るための準備にはならない
デビッド・ヘンリーは、オペック82が加入するケベック社会復帰機関連合の次期コーディネーターだ。彼は、仕事があることは社会復帰に成功するための主要因ではあるが、それだけでは決して十分ではないと、断言する。
「これまでに法律上の問題を起こしたことがないボーイフレンドかガールフレンドを持つことが、社会復帰に成功するための主要因だと、私たちはよく思います」
ヘンリーやオペックスのチームは、ハーパー前首相の時代は犯罪歴のあるものにとっては厳しかったと振り返る。法律と秩序の擁護者を自負する政府だったが、その任期中には、信じられないほど多数の社会復帰を目指したプログラムをカットした。
結果として、受刑者たちが中等後教育を修了することはできなくなった。実際の仕事に役立つトレーニング・コースはほとんどなくなり、例えば、オペックスから派遣されていたような、まもなく釈放される人々が、市民や職業人として復帰することを助けるアドバイザー制度もなくなった。
こうした支援プログラムが以前は、受刑者と、出所後に社会復帰を目指す人々を助けていた。刑務所内にある仕事では、受刑者らが実際の労働市場で仕事を得るための準備にはならないと、オペック82理事長のモネットも認めている。
「清掃員としての経験は、履歴書では大したプラスにはなりません」と、彼は説明する。地方の刑務所の平均受刑期間は3ヶ月であるため、この期間内で何らかの活動に参加することにはあまり意味がない。
受刑者の支援を行っているいくつかの提携団体のコーディネーターとして、ヘンリーはこの問題の概観を把握している。前の保守党政府は、ヘンリーらの声を聞こうともしなかったが、新しい政府(ジャスティン・トルドー現首相、自由党)が、ヘンリーの組織などからのアドバイスを受けて、刑罰制度の総点検を行おうとしていることを、ヘンリーは歓迎している。
刑期が短いほど、社会復帰の可能性は大きい
ヘンリーによると、カナダにおける犯罪率はこの何年間か減少傾向にあるのに、刑務所の収容人数は増え続けている。受刑者がはやく刑務所を出れば出るほど、再犯率は減少するという調査があるにも関わらず、現状はそんな状況だ。
したがって、社会復帰訓練施設や仮釈放中の再犯率は、事実上ゼロだが、一方で長期間投獄されている人の社会復帰は非常に困難となっている。
「長期間の刑に服した人にとって、銀行カードの使い方、バスの乗り方、社会で暮らす方法を学び直すには、大変な努力が必要です。その結果、仕事を見つけることは更に困難です。保釈される人が多いほど、長期間服役する人が減り、社会復帰の可能性が大きくなります」と、オペックス82のコーディネーターのキャロライン・ルベルは言う。
その生きた証拠がピエールだ。確かに彼は服役し、再犯し、さらなる刑期を勤めた。そして彼は、今後は努力して、もう服役しないと決めた。その代わりに、彼は仕事に〝お勤めをする”ことに決めたのだ。今も彼は時々思う。正義と法はどちら側にあるのだろうかと。
Courtesy of L’Itineraire / INSP.ngo
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