罪を犯した人を収容する矯正施設で、聖職者が提供する“パストラルケア”とは

ドイツのある矯正施設では、4人の聖職者がパストラルケア(収容された人を「犯罪者」としてではなく「一人の人間」として向き合い、その内面・苦悩・希望に寄り添う、心と魂のケア)に従事している。地元のストリートペーパー『トロット・ヴァー』が施設を訪れ、プロテスタント牧師のディーター・キュンメルと、イスラム教徒のアイセル・エズデミルに話を聞いた。

様々な背景を持つ約1000人の男性が過ごす、ひとつの村のような矯正施設

ドイツ・バーデンヴェルテンべルク州ーー 高い壁と有刺鉄線に囲まれ、要塞のようにそびえ立つ1号棟。歴史あるこのシュトゥットガルト矯正施設、かつてドイツ赤軍派の“有名人たち”が収容されていた1970年代当時は厳戒態勢が敷かれていたが、今はすぐそばに住宅地が広がり、洗濯物が揺れている。

シュトゥットガルト矯正施設の1号棟/Photos by Florian Stegmaier

現在は700人以上の勾留者と、最長1年半の短期刑を科された約250人の受刑者が収容されている。「貧しくて罰金を払えなかったような人たちもいます」と事前に聞いていた。ホームレスの人が寒さをしのごうと公共交通機関を利用し、無賃乗車で摘発されたようなケースだ。

州最大のこの刑事施設を、キュンメルは“ひとつの村”のようと言う。厨房から洗濯場、診療所、郵便局、車の整備場まであり、約300人の職員が働き、収容者は約1,000人、全員男性だ。そこに、1号棟から大きな叫び声が聞こえてきた。決して平和な村ではない。5畳ほどの監房の中で起訴や裁判を待つ収容者たち。「大きな重圧がかかっている施設です」とキュンメルは言う。

4つの宗教に対応したパストラルケアを提供

管理棟には、パストラルワーカー用の広々としたオフィス、図書室、古い教会がある。イスラム教徒向けのパストラルケアを担当しているアイセル・エズデミルは、2018年から試験的にパートタイムで採用されている。他、この日は不在だったが、フランシスコ修道会のシスター・ヴェラとプロテスタントのパヴェル・ステップの、計4人の聖職者がパストラルケアを行っている。祈りや対話に加え、監房生活の足しになればと、チョコレートやクレヨン、カレンダーなどちょっとしたプレゼントをすることもある。また、パストラルケアを通じて申請すれば、所内にある40本のギターを借りることもできる。
活動の中心は、キリスト教の礼拝とイスラム教の金曜礼拝で、それぞれ約80人の収容者が参加する。「多くの人が礼拝に参加しています。心の拠りどころを求める収容者たちが、宗教にそれを見出すようです」と話すエズデミル。施設内では、宗教や宗派の違いはほとんど問題にならないという。「外の世界では異なる神の概念が、ここでは融合するようです」

外ではお互いに壁のある宗教が、ここでは融合する

エズデミル自身、キリスト教の礼拝に同席し、クリスマス前の4週間(待降節)にジンジャーブレッドの寄付を取りまとめる。キュンメルも先日、家族を亡くしたイスラム教徒の相談に乗った。断食月(ラマダン)にキリスト教の牧師が金曜礼拝を手伝うこともある。互いを認め合い、連帯感を持つことが大事なのだ。
「礼拝の場では、犯罪者かどうかは関係なく、みな同じ人間。施設内では偏見の壁がありません」。このように宗教の多様性を認め合うことは、外の社会のモデルになるのではとキュンメルは言う。エズデミルも、「裁判前は、まだ有罪かどうかが確定していない状態ですから、その人をありのまま受け入れています」。
ここでは道徳的な説教は行わない。「私は人と行為を分けて捉えています。聖職者として相談者に耳を傾け、心の重荷を和らげるよう心がけています」とキュンメル。

施設内の教会にて、ディーター・キュンメル(右)と、イスラム教徒のアイセル・エズデミル(左)/Photos by Florian Stegmaier

面会室を見せてもらう。収容者はここで、月に2回、45分間、家族と面会できる。小さな子どもがいる家族には、特別面会の事前申請を行えば、牧師たちのオフィスでコーヒーとプレッツェルをつまみながら面会することも可能だ。このように、パストラルケアはカウンセリング的な活動にとどまらない。「私たちは安心できる自由な空間を提供しています」とキュンメル。「矯正施設システムの一部でありながら、収容者について書き留めることも、だれかに報告することもしません」。守秘義務が守られているからこそ、収容者たちも心を開いて相談することができるのだろう。

強いストレス状態を支えるパストラルワーカー

施設内での仕事に危険はないのか問うと、キュンメルからは「自転車で通勤しているときの方がよっぽど危険ですよ」と返ってきた。収容者と面会する際は刑務官2人が同伴することになっているが、「収容者たちは敬意をもって接してくれます。勾留直後の不安定な時期は特に、訪問者がうれしいようです」とエズデミル。親族や弁護士が訪れる前の、まだショックが大きい段階でサポートを提供できるのもパストラルワーカーの強みだ。「ほとんどの人が『悪夢を見ているようだ』とこぼします。外の世界で自分を作り上げていたものすべてを失ってしまったように感じるのです」

裁判前の勾留は、刑事司法制度の裁量のもとで行われる最も重大な措置である。訴訟手続きやそれにかかる期間も見えないため、実刑よりも強いストレスになりうる。「彼らがショッキングな状況に適応できるよう、宗教を支えとした支援をするのが私たちの務めです」とエズデミル。収容者が刑務所生活に適応するには、大体3〜4週間かかる。その間、自身のアイデンティティへの疑問が次々と浮かび上がる。「自分は何をして、ここで何をしているのか……そうした質問を幾度となく尋ねられたことがあります」

拘置所ならではの環境をキュンメルが説明する。「ここでは、人々は閉鎖的な空間に閉じ込められています。時には雑居房にまったく異なる背景を持つ人々が一緒くたに押し込められるのです」。ほとんどの収容者はうまくやっているが、ときに衝突も避けられない。裁判前の勾留期間は最長で6か月、その不安定な時期にいかに対処するかがパストラルケアに求められる課題でもある。

「社会復帰の支援はコミュニティへの投資」

人員の入れ替わりが激しいこの施設では、他の施設のように音楽サークルなどを提供することは難しい。「大半の時間、収容者たちはほったらかしの状態で、スポーツなど体を動かす機会もほぼありません」とキュンメル。これは社会復帰を難しくする。「収容者たちの多くはまた外の世界に戻るのですから、彼らの社会復帰を支援することはコミュニティへの投資になるはず」。
刑務官の研修にも携わっているキュンメルは、「刑務官を目指す人たちには、監房のドアの開け閉め、友好的な話し方など、収容者との接し方に配慮する大切さを伝えています」と語った。

帰路、今日二人から聞いた「収容者たちのことを、自分と一緒に捕えられた人たちだと考えてみてください」との言葉が胸に浮かんだ。

By Florian Stegmaier
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of Trott-war / INSP.ngo

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