地震の揺れで破損起こり、冷却不能に!? 事故から丸7年、いまだ原因解明はされず。幕引きせず、科学的な視点で調査継続を

Genpatsu

国会の報告書のみ、地震の影響に言及
1号機の炉心溶融は揺れによる配管破断が原因!?

 事故から7年が経ったが、未解決の問題が多くある。その一つは事故の原因で、特に福島第一原発1号機の爆発原因だ。3月8日に衆議院議員会館で行われた集会「あれから7年、生活・健康・避難・技術から福島原発事故を再考する」で、科学ジャーナリストの田中三彦さんが未解決の諸問題について報告してくれた。この集いは新潟県が設置した福島原発事故の検証委員会の概要の報告会でもあり、田中さんは県の委員として技術的側面から事故原因の究明を進めている。


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3月8日の集会の様子

 彼は『原発はなぜ危険か』(岩波新書/1990年)の著者でもある。この中で福島第一原発4号機の原子炉容器を製造する過程で法律の基準を超える歪みが出てしまい、ジャッキを使って矯正したことを明らかにした。矯正から10年を経ていたが、自分が原発の設計者として勤めていたメーカーでの出来事、今でいう内部告発は非常に大きな反響を呼んだ。

 彼はまた、福島原発事故後に国会が設置した事故調査委員会の委員として事故調査にあたった。事故調査報告書には、政府、東電、民間、国会がそれぞれ制作した4種がある。前3つの報告書が伝える内容は次のようなものだ。まず地震の揺れで原発が止まり、また、停電が起きたので(鉄塔が倒れたりした)、非常用の発電機が起動して原子炉の冷却を続けていたが、そこに津波が押し寄せて分電盤が水に浸かり、非常用電源も使えなくなった。原子炉は冷却不能になり、燃料が融けて水素が発生し爆発に至った。津波にさえ耐えれば爆発事故は起きなかった――。これについて、当時の東電首脳部は津波による事故の可能性を知りながらも対策を怠ったとして、刑事裁判が行われている。
 しかし、津波だけが事故の原因だろうか? 唯一、国会の報告書のみが、津波の影響に加えて地震による影響の可能性に言及した。特に1号機の炉心溶融は、地震によって原子炉を冷やし続けるための非常用復水器(イソコン)の配管が破断したのが原因ではないか。田中さんは徹底した調査から強く疑っているという。

津波説だけで終わらせようと文書改ざんか?
新潟県調査委員会の追及に期待

 その根拠は大きく3つある。
①当時建物の4階にいた作業員が「畳のように水が流れてきたので慌てて逃げた」と田中さんら調査員に証言したこと。4階で大量の水が流れてきたとすれば、同階にあるイソコンから出てきた水の可能性が高く、配管が破断していたことが疑われる。そして、田中さんは確かに自分たちが聞いた時には「畳のように水が流れてきた」との証言だったが、後に、「ちょろちょろと漏れ出ていた」という程度に変わっていたと述べた。森友学園に関する決済文書改ざんが話題となっている中、原子力分野でも行われていたのかと、衝撃を受けた。確かなことは現場でくわしい調査をしないとわからないが、放射線量が高くてそれができない。

②冷却ができなくなり原子炉内の圧力が高くなると、圧力逃し弁が自動的に開く仕組みになっている。この時非常に大きな音がする。しかも逃し弁は圧力に応じて開閉を繰り返すのだが、2号機では100回近く繰り返していた。1号機でもその轟音を聞いた人がいてもおかしくないが、音を聞いたという証言は得られなかった。ということは、配管が破断したことが濃厚だ。

③1号機の爆発では、5階(屋上階)が吹き飛んだのだが、それに加えて4階の損傷も非常に激しく、4階でも水素爆発が起きた可能性が高いことを爆発の専門家は認めている。このことは4階に水素が出てきたことを意味するが、水素はイソコンの配管が破断したことによる可能性が否定できない。
 以上の3つの理由から、配管が破断したとすれば地震が原因である可能性が高い。そうなれば、原発の耐震安全性の本格的な見直しが必要になる。東電や原子力学会、原子力産業界は原発の耐震安全性に問題が拡大することをかたくなに避けて、津波説だけで終わらせようとしている。再稼働に大きく影響してくるからだ。

 福島原発事故の教訓を後に活かす、世界に活かすためには科学的な目で調査を継続する必要がある。しかし、実態は科学とは遠いところで原因究明の幕引きが行われているようだ。新潟県の調査委員会での追究に期待したい。
(伴 英幸)

(2018年4月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 332号より)

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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