鹿島建設の元営業部長が8300万円もの多額の脱税容疑で仙台地検から起訴されたと、6月29、30日に複数のメディアが報道した。それらを総合すると、東北営業支店の元部長は福島県富岡町で被災建物の解体事業を請け負う共同企業体(JV)の所長をしていた2017〜18年の間に、下請けからの謝礼金や給与計2億2千万円を申告せず、これにかかわる所得税約8300万円を払わなかった。このJVは、鹿島建設、三井住友建設、飛島建設の3社が共同で組んだもので、下請け企業は200社を超える。そして2015~19年の期間には、上記の解体事業を環境省から270億円で受注している。
下請け企業は200社超JV、270億円の事業受注
2億2千万円のうち、1次下請けの三重県の業者からの謝礼金が約2億円とほとんどを占める。元部長はそのお金を車の購入費や遊興費に充てていたという。金額の多寡があるが、2次~6次といった下請けも同様のことを行なっていただろう。
国税局が所得税法違反の疑いで強制捜査したのは20年2月のこと。元部長は同年12月に鹿島建設から懲戒解雇された。
謝礼などは他社でも同様だ。報道によれば、準大手のゼネコン「前田建設工業」の複数の元現場幹部らが復興事業に絡み、下請け業者から接待や現金提供を受けていた。前田建設のJVは12、13年に楢葉町の除染作業などで320億円を、また双葉町での除染・解体工事120億円、中間貯蔵施設の本体工事269億円をそれぞれ環境省から受注、合計710億円にも及ぶ。13年から5年間の間に、下請け企業は仙台市や東京銀座の高級クラブなどで接待づけ。ある企業の接待は計30回に及ぶという。このほかにも北海道や九州でのゴルフ旅行、さらにはハワイ旅行などが企画されて、前田建設の現場幹部らの旅費や滞在費を下請け業者が負担していた。これらのことは17、18年の弁護士による内部調査で判明したという。売り上げの急増が調査のきっかけとなったようだ。他のJVも同じようなことを行っているに違いない。
工事費水増しで接待費捻出東電株売却でも補填は困難
除染や解体事業などはそれぞれのJVが申し合わせてエリア分けを行っているので、競争原理は働かない。多くの下請け企業が金品や接待で仕事を受注するのだろうが、それらの費用の多くは工事費の水増しで捻出されている。
不正な謝礼金などは元をたどれば私たちの税金である。税金がこのように使われていることに怒りを覚える。
福島原発事故による除染や中間貯蔵などにかかる費用は、経産省の2016年末の見積もりでは約6兆円。この6兆円には税金が投入されている。そこには考慮されていない帰還困難区域の除染などの費用を考えれば、実際の費用は今後増えるだろう。事故後に政府が1兆円を投じて購入した東電株を売却して補填するとしているが、その場合は1株1500円ほどで売却できないと元が取れない。現状350円前後と低迷していることを考えれば、株売却による補填は望めない。
このために東電経営の黒字化が求められ、それゆえ柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働が不可欠だというが、とても納得できるものではない。
福島原発事故からの復興事業では、建設業界の水増し事業費操作による裏金の捻出がこれまでも問題になってきた。湯水のように投入される国費に、事業者の自浄作用は働いていない。企業倫理の問題もあるが、少なくとも、行政のチェック機能の強化が求められる。
(伴 英幸)
(2021年8月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 412号より)
伴 英幸(ばん・ひでゆき)
1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけに、脱原発の市民運動などにかかわる。著書に『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
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