オーストラリア政府が16歳未満のソーシャルメディア利用を禁止する法案を通過させた。アルバニージー首相は「ソーシャルメディアが及ぼす弊害の責任を、若者やその保護者ではなく、ソーシャルメディア・プラットフォームに負わせる」法案だと称える。これによりオーストラリアは世界で初めて10代の若者のソーシャルメディア利用を国レベルで禁止する法案を一年以内に施行することになった。こうした動きを受け、他の国々でも対策が検討されている。全面禁止に疑問を投げかけるカナダのコンコルディア大学DIGS研究室博士研究員クリストファー・ディーツェルらが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。
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北米でも州レベルで進むSNS対策
米国ではフロリダ州が2025年1月1日より、14歳未満の子どものSNSアカウント作成が違法となった。カナダのケベック州では2024年より、教室内での携帯電話の利用が禁止となっている。オンタリオ州でも4つの教育委員会がソーシャルメディア企業に対して若者の学習を阻害していると訴訟を起こしたことを受けて、2024年秋の新学年から学校内での携帯電話の使用が禁止となった。
報道によると、ケベック州でもオーストラリアに倣って、16歳未満の子どものソーシャルメディア利用を禁止する検討がなされている。スマートフォンやソーシャルメディアが若者に及ぼす悪影響を認識している州政府が、連邦政府の対応を待っていられないかたちだ。
トルドー首相はこの度、2024年2月にカナダ議会で提出されたオンライン危害法案(Bill C-63)を2つの法案に分けることを発表した。子どもをオンライン危害から守るための法案(性的脅迫・画像ベースの性的虐待・リベンジポルノ*1・その他オンライン上の性暴力など)と、ヘイトスピーチや暴力・テロリズムを誘発するコンテンツ規制に関する法案とを切り分け、前者の議会通過をスピードアップさせる考えだ。法案の詳細を詰めるうえで、議員らはオーストラリアをはじめとする諸外国の事例を参考にするだろう。
*1 元交際相手などの性的画像や動画を本人の同意なしに公表する行為。
SNSがもたらす若者の不安・うつ
オーストラリアの禁止事例を是とし、有望なソリューションだと見ている人たちは、10代の若者を含めて一定層いる*2。この考えは、ソーシャルメディアは16歳まで禁止すべきと論じるジョナサン・ハイトの著書『Anxious Generation(不安な世代、未邦訳)』など、公の議論でも大きな注目を集めている。
ネットいじめや性的脅迫を受けて自殺したとされるレータエ・パーソンズ、アマンダ・トッド、直近ではブリティッシュコロンビア州の12歳の男子を思い浮かべる人も多いだろう。ソーシャルメディアの利用と思春期の若者の不安症やうつ病との関連性はいくつもの研究で指摘されている。禁止すべきか規制でしのげるのか、若者のソーシャルメディア利用およびオンライン危害に社会としてどう向き合っていけばよいのだろうか。
*2 WATCH — What teens think of Australia’s new social media ban
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筆者のチームでは、カナダの13〜18歳の若者を対象にテクノロジーベースの性暴力を研究している。オンラインの危害、法律に関する知識、どんな方策をよしとするのかを把握するため、全国149人の若者からなる26のグループを対象に調査を実施するとともに、およそ1,000人の若者の全国調査を実施した。最初の結果からは、デジタルプラットフォームやソーシャルメディアの使用により若者がさまざまなかたちで危害を受けていること、その危害はアルゴリズムによって煽られている実態が明らかとなった。テクノロジー世界を安全かつ健全に楽しめるよう、個人のニーズに合ったサポートや情報を求める声も多く聞かれた。
SNS全面禁止か、健全で責任ある「デジタル・シティズンシップ」の学びか
しかし、ソーシャルメディアの全面禁止は現実的ではないようだ。その理由の一つに、ソーシャルメディア企業が未成年の見分け方を確立できていないことがある。年齢確認に顔認識技術またはクレジットカードを使う、政府発行IDカードを要求するなどの案があるが、個人情報の安全性についての問題が持ち上がるのは間違いないだろうし、こうした対策を取ることで若者のダークウェブなど規制のゆるいプラットフォーム使用を促進しかねず、そうなると若者の安全性を守ることがより困難となる。
ソーシャルメディアの利用を禁止したところで、問題の抜本解決にはならないと考える。性教育と同じく、ソーシャルメディア利用においても禁欲ベースの介入策はうまく機能しないだろう。それに、テクノロジーはすでに私たちの日常生活に入り込んでしまっているのだから、若者は健全で責任のあるオンライン世界との関わり合いを学ぶべきだ。
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目下、デジタル・シティズンシップ(デジタル技術の利用を通じて、社会に積極的に関与し、参加する能力)を学んでいる最中の若者たちに、ソーシャルメディアの利用を16歳以降まで先延ばしにすることは、問題を先送りするだけで、決して解決策にはならないのではないだろうか。むしろ、さらに大きな弊害をもたらしうる。
全面禁止は、ソーシャルメディア企業、政府、保護者を本来負うべき責任から解放するだけだ。有害コンテンツやそれらがもたらす悪影響に対処するのではなく、若者を守るべき任務を負っている人々や組織からすべての責任を取り除くのはいかがなものか。
テック企業は収益を最優先させて子どもの安全性や健康を二の次にするのではなく、子どもたちへの影響を念頭に置いて製品開発を進めるべきである。子どもたちには指導やサポートは必要だが、使用を禁止したところで有害コンテンツはなくならず、マイナスの影響が解決されるわけでもない。
それよりも、デジタル・シティズンシップ、若者の権利や責任を重視し、あらゆる年齢の人々が安全で健全なテクノロジーとの関わり合い方を学べる総合的な介入策を提案したい。そのために重要なのはテック企業や政府当局をはじめ、学校やコミュニティ組織など、社会のさまざまな分野が連携を取る必要がある。
安全かつ健全なオンラインとの付き合い方に関して、教育者、保護者、若者向けリソースの選択肢はすでにあるのだから、私たちは今すぐ行動を起こすべきである。SNSの全面禁止に頼るよりも、オンライン危害の根本原因と向き合う包括的な社会変化を推し進め、若者の安全性を促進し、社会コミュニティとしてオンライン危害に立ち向かいやすくなるだろう。
ファイブライツ(5Rights)財団
https://5rightsfoundation.com/
著者
Christopher Dietzel
Postdoctoral fellow, the DIGS Lab, Concordia University
Kaitlynn Mendes
Canada Research Chair in Inequality and Gender, Western University
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※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年12月22日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。
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