ホームレスの人は無職なの?/ビッグイシューが大阪府立豊島高校に出張講義

有限会社ビッグイシュー日本やNPO法人ビッグイシュー基金では、教育機関や各種団体などに出張して講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は大阪府立豊島高校。身近にある人権問題に関心をもち、自分の問題として考えるきっかけとする「テーマ別人権学習」の講師としてご依頼を受け、NPO法人ビッグイシュー基金の野村と、京都・西院のビッグイシュー販売者であるKさんが伺いました。この記事では、当日の講義のエッセンスをご紹介します。

ホームレスという言葉の持つイメージ

最初に野村より、“ホームレス”という言葉に持つイメージを生徒のみなさんに質問。「家がない」「臭い」「無職」などの回答が寄せられました。「家がない」というのは確かにその通りですが、「臭い」、「無職」というのは本当でしょうか。もちろん家がないため、清潔にすることができない環境に置かれている当事者も多くいますが、身だしなみに気を付けて清潔にしているホームレスの人もいれば、仕事をしている人も多くいます。「豊島高校の人=明るい」などと一括りにできないのと同様、ホームレスという言葉が人そのものではなく、その人の状態を表す言葉であることをお伝えしました。

ホームレスの定義と現状

次に、日本のホームレス状態の人の数が2007年に18,564人だったのが、2024年には2,820人まで減少していること、特に大阪では現在856人のホームレスがいるとされていることを説明しました。

しかし、この数字は屋根のない状態で生活している人のみをカウントしており、ネットカフェや施設での生活者、不安定な居住にある人などは含まれていません。つまり、日本のホームレス数の減少は、必ずしも問題が解決されているということではなく、定義の違いによる統計上の特徴も反映されているということなどを説明していきました。

ホームレスになる原因と社会的背景

そして、“ホームレスの人は努力が足りない”、”自己責任”などと言われがちですが、そもそも努力できる環境にあったのかという視点も重要です。たとえばヤングケアラー、DV、貧困など、勉強したくてもできない家庭環境の人もいます。また、ホームレスになる理由も、派遣切り、倒産、災害、病気、介護離職など、様々です。一度ホームレス状態になって住所や連絡ツールや保証人をなくしてしまうと、本人がどれだけ努力したいと思っても再就職が難しいという状況もあります。この仕組みを打破するために生まれたもののひとつがビッグイシューです。

ビッグイシューの活動と支援の仕組み

ビッグイシュー日本が発行した雑誌をホームレスの人たちが路上販売することで、1冊500円の雑誌の半額が販売者の収入となる仕組みや、ビッグイシュー基金の住居・生活支援、フットサルや講談などの部活動など、楽しみのサポートにも力を入れていることなどを紹介していきました。

中卒で就職、働いて電撃結婚するも離婚で家を失い…

続いて、販売者による実際の体験談コーナー。京都府 阪急西院駅で販売しているKさん(56歳)は、兵庫県尼崎市生まれで、弟が2人いる5人家族に育ちました。子どものころを振り返ると、家族の都合で、家を転々とする生活だったそうで、Kさんがおとなしい子どもだったこともあり、友達がいなかったと言います。「家にお金がないので働いてほしい」と親に言われ、中学を卒業してすぐに電器メーカーで検品などの仕事をするようになりました。4年働いたところで、職場の先輩が飲食店を始めることになり、飲食業の道へ。

そして29歳の時に出会った女性と、1週間の交際期間を経て電撃結婚。しかしすぐに義両親と反りが合わなくなり、短期間で離婚することになってしまいました。結婚時にKさんの資金で家を購入していましたが、離婚の際に相手方の親に資産を持っていかれ、住む家を失ってしまいます。結局、淀屋橋周辺のテント村で生活するようになってしまいました。

その後、西成で道路工事やガードマンなどの日雇い労働をしながら生活するなかで、ビッグイシューと出会います。しかしこの当時は思うように売れず、すぐに販売を辞めて東京に移り、生活保護を受けながら仕事をして生活を立て直していました。

その後、母親が癌になったことをきっかけに、55歳の頃に大阪に戻り仕事を探します。しかし大阪での就職活動はうまくいかず、実家にも「帰って来ないで」と言われ、再び生活に困窮。そうして再度ビッグイシューの販売を始めたのです。

現在は、ビッグイシューの販売と、大阪市の高齢者特別清掃事業の仕事を組み合わせて生活を維持しています。将来的には、自分で住まいを借りることと、長年の夢であるたこ焼き屋の開店を目標としていると語りました。

高校生のみなさんにメッセージとして「高校生は家族を大事にしてほしいですね。

あと自分の目標に絶対に向かっていってほしい。何か困ったことあったり、悩んだことがあったらちゃんと相談してほしいです。僕は全然相談しないで自分勝手に進んで、こういうことになってしまってるので…。自分で勝手に決めて判断しない方がいいと思います」と伝えました。

「イメージが変わった」生徒のみなさんの感想

出張講義のアンケートでは、「イメージが変わった」「この授業を受けて良かった」といった声をたくさんいただきました。

個人に要因があると思っていたが、(略)社会や家族にも要因があることを知った。

授業を受けるまではホームレスに対して偏見しかなかったですが、誰でも起こりうると分かり、自分の環境に感謝…

“努力は、運や誰かの努力の上に成り立っている”という言葉を聞いて今後の人生にもすごく役立つ言葉だと思った。

努力できる環境があることに感謝して、家族や友人を大切にしたいと思った。

etc…出張講義に耳を傾け、アンケートに答えてくださった生徒のみなさん、講義を企画してくださった関係者のみなさん、ありがとうございました!

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/

参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」

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