第二次トランプ政権で遠ざかる、困窮者支援政策の数々

第二次トランプ政権がホームレス施策に及ぼす影響として、公営住宅や住宅補助金プログラム以外にも、全米各地のコミュニティーにホームレス対策に資金提供している米国住宅都市開発省(US Secretary of Housing and Urban Development: HUD)を通じた動きに注目する必要がある。ワシントンD.C.のストリートペーパー『Street Roots』によるレポートの3本目を紹介しよう。

WASHINGTON, DC – 住宅都市開発省/ iStockphoto

1本目:トランプ政権のホームレス対策:根拠なき迫害で状況が悪化する可能性
2本目:第二次トランプ政権の反移民政策がホームレス問題にもたらす影響

ホームレス対策に資金提供する省の長官は、関連予算を減額する方針

ワシントンD.C.では、2022年と2023年にHUDからホームレス対策として約3千万ドルの助成を受けたが、今後も同じように資金援助を受けられる見込みは薄い。2025年1月28日のAP通信の報道によると、トランプ政権はすべての連邦助成金および融資の凍結を計画している。この報道を受けて、全米ホームレス対策同盟(National Alliance to End Homelessness)は「こうした動きは、国内各地の弱者コミュニティーに対する支援プログラムを危ういものとする。家賃支払いの遅れ、支援サービスの遅れやスタッフの雇用の不安定化をもたらす」との声明を出し、「補助金支給に関するあらゆる問題に備えるよう」各ホームレス支援団体に呼びかけた。

トランプ第二次政権でHUD長官に指名されているのは、テキサス州議員で元NFL選手のスコット・ターナーだ*1。プロパブリカの報道によると、テキサス州議員としてターナーは、若者や退役軍人のホームレス化要因を調査する法案や、住宅支援の関連法案に繰り返し反対票を投じていた。また、国の住宅補助を受けている者への賃貸拒否を認める法案を支持していた。こうした賃貸拒否は「収入差別の元凶」となり、ホームレス状態から抜け出すのを困難にする。

*1 その後、2025年2月5日にHUD長官に正式に就任。

こうしたターナーの過去の行動を理由に、「全米ホームレス連合」と「全米ホームレス法センター」ではターナーのHUD長官指名に反対票を投じるよう上院議員に呼びかけている。両団体がHUD長官の任命に関して立場を表明するのは初めてのことだ。立場を表明せざるを得なかったのは、イーロン・マスクをはじめとする大統領の側近から「ホームレス状態に陥った人々に関する誤った通説や誤情報」が流されているからで、「ターナーは私たちが貧困者支援で重要と考える多くのプログラムを支持してこなかった」と関係者たちは語る。

超党派のアプローチであるハウジング・ファースト施策*2 の推進を

ターナーが長官になれば、現在でも全ての申請者に対応できていない住宅支援プログラムの資金がさらに削減されるのではと懸念が広がっている。ワシントンD.C.ではすでに数千人の申請者が住宅補助を受けられていない。「ターナーが住宅補助制度を支持していないことは由々しき問題です。現在、実際に支援を受けられているのは支援対象者のうち、4人に1人にすぎません」とホワイトヘッド。ハウジング・ファースト施策の廃止、路上生活の禁止など、連邦政府のホームレス対策まで変わってしまうおそれがある。ハウジング・ファースト施策に関する質問について、ターナーは次のように書面で回答した。「指名が承認されれば、HUDのホームレス施策ならびにハウジング・ファーストへの依存について、徹底的に見直すつもりです。どう考えても、現行のホームレス対策は機能不全に陥っています」。

「プロジェクト2025」*3では、ハウジング・ファースト施策を明確に否定している。「ホームレスは状況によって生じるものであり、本人の行動だけが原因ではない」という当然のことを「極左的思想」と評し、それよりも連邦政府は移行型住宅(トランジショナル・ハウジング)の提供にかじを取るべきと述べている。しかし、支援関係者は「ハウジング・ファーストはそもそも共和党政権下で始まった施策。ハウジング・ファーストを極左的立場だと批判するなら、ジョージ・ブッシュ政権は極左政権だったと認めることになります」と反論する。

保守的で知られるテキサス州は2024年のホームレス実態調査において、全米で2番目に大きなホームレス数の減少を達成した。その背景にはハウジング・ファーストの方針である「住宅斡旋+支援サービス」の採用があるという。また、政府が推進しようとしている移行型住宅プログラムは、住居を斡旋する前に、薬物依存症、精神疾患、雇用の確保などホームレス状態に陥る“までの”原因への対処を求めるものが多く、結局、最も支援が必要な人々ほどホームレス状態から脱出できない状況になると指摘する。

*2 ホームレス状態にある人たちに最初に住まいに入居させ、その後で精神疾患や薬物依存など個々人が抱えている問題の改善に取り組む施策で、ホームレス問題の対策としては最も有効というエビデンスが多数ある。
*3 保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」が策定したトランプ第二次政権の政策案。トランプ大統領が就任初日に署名した大統領令の約3分の2は、このプロジェクト2025の政策提言を反映したものだった。

カリフォルニアのフリーウェイ下のホームレスの人たち/iStockphoto

移民を排除したところで住宅費は安くならない

ホームレス状態に陥るのを防ぐうえで重要なのは、低所得者でも手が届く住宅(アフォーダブル住宅)を増やすことだ。ターナーの指名公聴会でも、与野党双方の上院議員が全米各地でより多くの住宅を建設する必要性を強調した。

トランプ大統領は、住宅供給を圧迫し、価格を押し上げているのは不法滞在者たちの存在だ、そのために米国民がアフォーダブル住宅を手に入れにくくなっていると主張し、不法滞在者たちを一斉に国外退去させる計画があると言い張っている。しかしハーバード大学住宅研究共同センターの上級リサーチアナリスト、リオーダン・フロストは、世帯数の増加に関するデータからは、そんな対策では住宅価格は下がらないと指摘する。2023年時点で、過去10年で入国した移民がD.C.都市圏の全賃貸居住者に占める割合は9%、全世帯数に占める割合はわずか4.6%だ。「移民が増えているのは間違いありませんが、世帯単位で見れば、移民は決して多数派ではありません」。しかも多くの移民には在留資格があり、国外退去の対象とならないことを考えれば、なおさらだ。

また、多くの移民は建設業に従事しているため、大規模な強制送還が行われれば、建設分野の労働力が不足し、かえって住宅の建設費用が上昇するおそれがあるとフロストは指摘する。関税の引き上げなどトランプ政権下での政策変更が建設資材の価格を押し上げ、結果として住宅費を上昇させるのではないかとの懸念もある。「特に木材への関税は、建設費用を押し上げることになるでしょう」とラビノウィッツ。ターナーの指名承認公聴会において、上院議員らも同様の懸念を口にした。

By Franziska Wild
Courtesy of Street Sense / INSP.ngo

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