吉祥寺でビッグイシュー日本22周年 上映イベント「OUTCAST FILM FESTIVAL SPIN OFF」&写真展(8/9-11)——仕掛人のMadeGood.Films の鈴木さん&会場提供の清瀬さんに聞く

2025年9月でビッグイシュー日本版創刊から22周年。それを記念し、8月9日〜11日、吉祥寺サンロード商店街にあるespace Á L. L.で、ドキュメンタリー映画の上映イベント「OUTCAST FILM FESTIVAL SPIN OFF」と迫川尚子さんの写真展「新宿ダンボール村」が開かれます。

この企画を進めてきた、ドキュメンタリー映画の配給・上映を手がけるMadeGood.Films の鈴木さんと、吉祥寺の会場を提供してくださった清瀬さんにお話を伺いました。

■ きっかけは「もっと多くの人に観てほしい」一本の映画から

——今回の上映企画、どこから始まったんですか?

鈴木さん「渋谷ユーロスペースで“アウトキャスト・フィルム・フェスティバル”をやったときに、いくつかの映画を上映させてもらったんです。どの作品も本当に素晴らしかったんですが、とりわけ『ダーク・デイズ』をもっといろんな人に観てもらいたいと思ったんです」

『ダーク・デイズ』は、1990年代のニューヨークの地下トンネルに暮らす人々たちを描いたドキュメンタリー。2000年に公開され、「サンダンス映画祭」で3つの賞を受賞したこともあり、アメリカでは当時かなり話題になった。

「監督自身が、2年かけてトンネルに暮らす人たちと一緒に作った映画ということもあって、ビッグイシュー日本さんと一緒に上映会ができないかと思って、ご相談しました。」「ビッグイシュー日本のスタッフの方とお話しているうちに、社会システムの中ではじき出されてしまった人だけでなく、その生きづらさがどこにあるのか、についてなども考える機会を創りたいという要望が出てきて『アカーサ〜僕たちの家〜』と『ミッドナイト・ファミリー』を一緒に上映するご提案させていただきました。」

■ いつか上映スペースをやりたいと思っていたら、トントン拍子に

——清瀬さんは、どんなきっかけでこのイベントに関わることに?

清瀬さん「最初のきっかけは、2年前ですね。私が所有している建物1階の2坪ほどのレンタルスペースを、ビッグイシューの販売者さんに提供したことからなんです。
(参考記事:吉祥寺の商店街でビッグイシューのポップアップストアが開店したわけ

その建物の中に、まったく使っていない倉庫のようなスペースがあって。私はもともと映画の配給や宣伝、制作にも関わる仕事をしてきたので、“いつか上映スペースを作りたい”って思っていたんです。」
そんな話をしていたら、トントン拍子にMadeGood.Filmsさんの話が出て、このイベントに繋がっていきました。」

■ 商店街の真ん中で「深いテーマ」を扱うことの意味

清瀬さん「この上映スペースは吉祥寺の商店街の中にあります。一歩外に出れば人通りがバーッとある。でも、商店街を歩いてる人が心の中で何を考えてるかって、わからないじゃないですか。ただ通り過ぎるだけじゃなく、“ここで深いテーマの映画を上映してるんだよ”ってアピールできたらいいな、と思いまして。」

今まであまり積極的にはしてこなかった看板づくりやSNSの発信も、このイベントをきっかけにやるようになったという清瀬さん。商店街を歩く人との関わりを意識するようになったと言います。

■ 「遠くで起こっている」と思われがちな作品と日本を「接続」したい

——鈴木さんが準備を通じて意識してきたことは?

鈴木さん「海外の映画は、観た後に“遠くで起こってること”って言われることがあります。でも、映画の中のことがどうやって自分たちの生活と繋がっているのか、作品で扱われている問題と自分たちがどう実際に関わったり向き合ったりしていけるのかと、 “日本とどうつなげられるか”を意識したいと思ったんです。

だから、今回、90年代に新宿ダンボール村を写した迫川尚子さんの写真展も一緒にできることになったのは本当にうれしいことです。映画と写真の両方を観て、作品と日本、そして観てくれた人の生活がつながるような場になればと思っています。」

■ 上映映画について

ダーク・デイズ(2000年・米)

マンハッタンの西側にあるトンネルで、90年代に暮らしていたホームレスの人々を追ったドキュメンタリー映画。「トンネルに住む人がいるらしい」と都市伝説のように扱われていたこともあるが、監督のマーク・シンガー自身が実際にトンネルに暮らしながら、約2年間かけて撮影された。
鈴木さん「本作の制作チームは、全員トンネルで暮らしていた人です。照明器具や、機材を運ぶ台車をどう作るかも、暮らしている人たちが知恵を出し合って作った映画です。監督のマークとトンネルで暮らす仲間たちとのあいだに信頼関係があったからこそ、撮れた作品だと思います」

アカーサ〜僕たちの家〜(2020年・ルーマニア、ドイツ)

ルーマニアのブカレストの中心部から歩ける距離にある湖畔で、約20年間暮らしてきた11人の大家族の物語。行政がその土地を自然公園にしようと進める中、自然と調和して暮らしてきた家族は、社会に戻ることを強いられるー。
鈴木さん「エナケ一家の父親であるジカは、わけがあって、社会と極力関わらずに暮らせる湖畔のある公園を住居として選びました。それが自然公園化の決定によって、暮らしの場であった公園から追い出されてしまう。社会での居場所について考えさせられる作品です。当日会場では、なぜジカが社会と切り離した生活を選んだかなど、エナケ一家についての理解がもう少し膨らむような監督インタビューの翻訳も展示しようと思っています。」

ミッドナイト・ファミリー(2019年・メキシコ、米国)

人口900万人のメキシコシティに公営救急車はわずか45台だけ(2019年時点)。そのなかで都市を支えるのは、救急救命士の資格を持たない人々が走らせる、正式に登録もされていない“闇救急車”。『ミッドナイト・ファミリー』は、その闇救急車を走らせる家族を追った作品だ。
鈴木さん「お父さんと当時17歳の長男、7歳の次男が救急車に乗って、事故現場へ急行する。お父さんはもともとメキシコの赤十字社で働いており、そこからあえて独立し、闇救急車を生業にすることを選びました。ただ、だからといって稼げているかというと、そうではないことが映画を観るとよくわかります。公的な福祉がない社会で、制度のはざまに生きる姿を描いています。」

■ イベント詳細
会場:吉祥寺サンロード商店街内 espace Á L. L.
映画上映:8/9・10・11(各回1,500円)
写真展「新宿ダンボール村」:8/2・3・16・17(12:00-17:00/入場無料)、8/9-11(映画上映の前後のみ)

チケット購入 https://madegood.com/outcast-bigissue/
※当日券もあり

■ 上映スケジュール
8月9日(土)
14:00『ダーク・デイズ』 上映後トーク:迫川尚子、稲葉剛
18:00『アカーサ〜僕たちの家〜』

8月10日(日)
10:00『ダーク・デイズ』
14:00『アカーサ〜僕たちの家〜』上映後トーク(録画):ラドゥ・チュロニチュック監督
18:00『ミッドナイト・ファミリー』

8月11日(月)
14:00『アカーサ〜僕たちの家〜』
17:00『ダーク・デイズ』 上映後トーク:石原海

▼写真展「新宿ダンボール村」も同時開催
会場では、写真家・迫川尚子さんの写真展「新宿ダンボール村」も開催。
「映画を観て、写真も観ることで、作品の背景や社会的な文脈をもっと感じてもらえるはずです」と鈴木さん。

関連書籍
「モグラびと ニューヨーク地下生活者たち」
(集英社)ジェニファー・トス (著), 渡辺 葉 (翻訳)